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Crystal Kayが語る、シンガーとしての葛藤と変化「誰かのために歌いたいと思うようになった」

2018年06月13日 12:02  リアルサウンド

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 Crystal Kayが、2年半ぶりのフルアルバム『For You』を発売した。同作には、ドラマ『デイジー・ラック』(NHK総合)主題歌として先行配信していた「幸せって。」をはじめ、同世代の女性の背中を押すようなポジティブなメッセージソングが並ぶ一方、自身が作詞作曲に関わったダンサブルなナンバーも多数収録。“For You”という一貫したテーマを通して、今、Crystal Kayが伝えたいこと/表現したいことが詰め込まれた作品に仕上がっている。来年デビュー20周年を控え、歌との向き合い方が変化しているというCrystal Kayに話を聞いた。(編集部)


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■ひとりの女性として共感できるものを作りたい


――2年半ぶりのフルアルバム『For You』が完成しました。まず、ご自身としては、どんなアルバムになったと感じていますか?


Crystal Kay:前回のアルバム『Shine』に引き続き、すごいポジティブなアルバムになったと思います。もしかしたら、聴いてくれる人の背中を押せるような……そんな聴きやすい一枚になったかなって。


――これまで配信のみでリリースしてきた楽曲も収録されていますが、本作の出発点というと、どんなところになるのでしょう?


Crystal Kay:配信でリリースされていた曲たちをCDにしたいというのはもちろんあったんですけど、アルバムを作るときは、いつもライブを想像しながら作っていくんです。だから、今作ではキラキラした感じの曲もあるけど、ちょっとパンチの効いたダンスっぽい曲もあります。特にその部分に、私なりのサウンドというか、最近ちょっとやってみたいと思っていたテイストを取り入れてみました。アルバム制作の後半に作った曲は、ほぼほぼ全部アッパーな曲でしたね(笑)。


――(笑)。アルバムに先駆けて発表され、本作の1曲目にも収録されている坂詰美紗子さん作詞作曲の「幸せって。」が、アルバム全体のカラーとなっているような気もしましたが。


Crystal Kay:そうですね。その曲は、『デイジー・ラック』(NHK総合)というドラマの主題歌のお話をいただいて書き下ろした一曲なんですけど、そのドラマ自体、アラサー女子4人の群像劇になっていて。私自身も今年32歳になって……やっぱり、坂詰さん、すごいなって思って(笑)。


――ほう。


Crystal Kay:デモの段階では、すごいキラキラした曲だなって思ってました。でも、いざ自分がブースに入って、この歌詞を口に出して歌ったときに、なにか込み上げてくるものがあって。その言葉ひとつひとつに、自分もすごい共感できたんですよね。一行目からちゃんと今の時代っぽさが表れている歌詞になっているところもすごいと思います。


――出だしの〈友達へのいいね!が出来ない/こんな自分が嫌になっちゃう〉というフレーズからして、結構リアルな歌詞になっていますよね。


Crystal Kay:その通りです!(笑)。今のアラサー女子の素直な気持ちや感情が、ポイントポイントで表現されていて。でも、サビの部分では、しっかり大切なメッセージが歌われているんです。


――〈幸せは競うモノじゃなくて/幸せに正しいはないから〉という。


Crystal Kay:そう、幸せは人と競うものではないし、“自分なりの幸せでいいんだよ”っていうメッセージが、そこでちゃんと歌われていて。もちろん、メロディもすごくキャッチーなんですけど、やっぱりこの曲は、言葉が心にグッとくる……。「美紗子、すごい!」って思いました(笑)。


――ケイさんの歌い方も、これまで以上に軽やかというか……歌詞はリアルだけど、歌そのものは、かなり清々しいものになっていますよね。


Crystal Kay:やっぱり歌で、そういう感じを出したかったんです。聴いてくれた人が安心できるというか、何かに悩んだりしている友人たちに向けて歌っているようなところもあって。そう、今回のアルバムタイトルにもなっていますけど、そういう“For You”みたいな感じが、最近の私のテーマであり、歌の課題でもあって……。


――ほう。


Crystal Kay:歌の艶とか切なさはもちろん大事なんですけど、その言葉ひとつひとつを大切に、聴いている側に伝えたいと思っているんです。そのためにはやっぱり、歌に芯があることが大事だなと思っていて。今までも、柔らかく歌ったり、綺麗に歌ったりすることは意識していたんですけど、あんまりそれをやり過ぎると、サラッと聴き流されるものになってしまう可能性もある。でも、そうは絶対にしたくないなと思ったんです。特にこの「幸せって。」という曲の場合は、ポイントポイントですごい大切なメッセージが入っているから、テクニックよりも力強さ……聴いてくれた人が前向きになれたり、聴いて元気になれるような歌い方をしたいと思いました。


――今回のアルバムは、その曲の他にも、「わたしたち」など、同性代を意識した楽曲がとても多いような気がしました。


Crystal Kay:やっぱり作っていくうちに、ひとりの女性として共感できるものを作りたいなと思って。それが全体のテーマになっていったんです。


――「同世代に向けて」という思いは、ケイさんの中に以前からあったものですか?


Crystal Kay:そういう気持ちになったのは、多分前回の『Shine』というアルバムからですね。あのアルバムを作ったのは、ニューヨークから帰ってきたばかりのときで(※Crystal Kayは2013年から2年間、ニューヨークで単身音楽修行をしていた)。やっぱりニューヨークにひとりで行って、いろいろ感じたことも多かったというか……それはみんな、同じだと思います。20代の後半で、ちょっと一回壁にぶつかるというか、「このままでいいのかな?」って、考えるようになるというか。


――まさに、ドラマ『デイジー・ラック』の登場人物たちのように。


Crystal Kay:はい。それは、同世代のいろんな人たちと話しても、みんな同じところを通っていて。そういうこともあって、「ひとりじゃないよ」というメッセージをみんなに伝えたかったんです。これまでは、どこか自分のために歌っているようなところもあったんですけど、誰かのために歌いたいと思うようになった。「私は何で歌っているんだろう?」と考えたときに、それはやっぱり「聴いてくれる人がいるからだよな」と。


■「昔のクリが戻ってきた」と言ってもらえたのは嬉しかった


――ただ、そうやって同世代を意識しつつも、中盤あたりの楽曲……具体的には3曲目の「I Just Wanna Fly」から6曲目の「Can’t Stop Me」までの曲は、音楽的にもかなり尖ったものになっていて。そのあたりが、本作の肝なのかなと思いました。


Crystal Kay:その通りです(笑)。やっぱり、アルバムだからこそ、自由に遊べる曲もやりたかったというか、そのバランスが大切だなと思っていて。J-POPとは一味違った、どこか尖っていたり、インパクトのあるような曲が今回のアルバムにも欲しかったんです。それは先ほども話したように、ライブのことを考えてっていうのもあるんですけど、今回は音楽的に、ちょっと自分の原点に戻りたいという思いもあって。


――というと?


Crystal Kay:今回、最終的に辿り着きたかったのは、自分がデビューした頃のサウンドだったんです。私がデビューした頃って、R&Bテイストの楽曲がメインストリームになり始めた頃だったんですけど、そのなかで、メロディや歌詞は日本っぽくて、でもトラックは洋楽チックっていう、ちょっと不思議なニュアンスーーそれがちゃんとCrystal Kayの音楽性や世界観として表れていたところがあったと思っていて。


――デビューしたときって、13歳でしたっけ?


Crystal Kay:そうです(笑)。そのあと、それこそ坂詰さんが作曲してくれた「恋におちたら」に出会って……それによって、聴いてくれる人の層が一気に広がって、それはそれですごく嬉しかったんですけど、それ以降、「恋におちたら」のようなキラッとしたJ-POPサウンドを求められることも多くなりましたね。


――なるほど。「恋におちたら」が19歳の頃でしたか。


Crystal Kay:はい。だから、結構葛藤があったんです。そういうものを求められていくうちに、自分の芯にある音楽性が弱くなっていっちゃうんじゃないかって。


――「恋におちたら」でデビューしたわけではないというのも……。


Crystal Kay:そうなんです。その前に、結構あるんです(笑)。なので、最初の頃を思い出しながら……。あと最近は、自分も作詞作曲に参加しているので、自分の音や言いたいことが、そこでちょっとずつ形になっていってる。そう、今回のアルバムをお母さんに聴かせたら、「昔のクリが戻ってきた」と言ってもらえたのは、すごい嬉しかったですね。


――ちなみに、先ほど言った中盤の楽曲は、岡嶋かな多さん・UTAさんとケイさんの共作という形のものが多いですよね。


Crystal Kay:岡嶋かな多さんとUTAさんのチームは、やっぱりすごいしっくりくるというか、最高のコンビネーションだと、今回改めてわかりました。UTAさんは、常に音楽的なアンテナを張っているので、海外のサウンドにもすごい詳しいし、なおかつ柔軟性もある。かな多さんは、英語がしゃべれて、海外に住んでいたこともある人なので、私の感覚というかニュアンスみたいなものを、すぐにわかってくれるんです。


――その中盤の尖ったサウンドが、他の楽曲と割と違和感なく並んでいるところが、本作の面白いところだと思いました。


Crystal Kay:流れで聴くとスッと聴けると思います。昔の私だったら多分、そういう尖ったものをもっと前面に出そうとしていた気がするんですけど、今回は作詞作曲に自分も入っているからこそ、そこである程度、自分らしさが出せたんじゃないかって思っていて。あと、さっき言ったように、歌詞のテーマ的には、結構まとまったものになっているから、多少サウンドのバリエーションがあっても、ちゃんと繋がっているんです。だから、そんなに違和感がないのかもしれないです。


――なるほど。そのテーマというのが、先ほど言っていたように、このアルバムタイトルにもなった“For You”であると。


Crystal Kay:はい。このアルバムが、聴いてくれる人たちのお守り……ラッキー・チャーム的なものになったらいいなと思っていて。いろいろなサウンドの曲があるけれど、その歌詞に込めた勇気や元気を、ちゃんと受け取ってもらえたらいいですね。それこそタイトルは、“Lucky Charm”とかいろいろ考えたんですけど、やっぱり「聴いてくれる人のためになったらいいな」というところで、“For You”にしました。


――「幸せって。」、「わたしたち」じゃないですけど、要所要所で、選ぶ言葉がシンプルかつストレートになっていますよね。


Crystal Kay:あはは、そうかも(笑)。でも、そこで変に気取ったり、カッコつけたりする必要はないのかなって。やっぱりストレートなのがいちばんかなって気がします。


――そう、先ほど『Shine』以降、歌に対する気持ちが変わったと言っていましたが、そのタイミングで事務所もLDHに移籍して。そうやって環境を一新したことも、実は結構大きかったのでは?


Crystal Kay:そうですね。それまでは個人事務所だったというか、ママと一緒にやっていたから、結構自由な感じだったんですけど、LDHに所属するようになって……もちろん、LDHも、アーティストのやりたいことをすごくやらせてくれるし、サポートもしてくれるから、そういう意味では自由なんですけど、やっぱり、そこに所属している人が、たくさんいるってことが、私にとってはすごい刺激的で。しかも、自分よりも年下の人たちも結構多いっていう(笑)。


――年齢はともかく、キャリア的には十分「クリスタル姉さん」ですものね。


Crystal Kay:そう、ホントに「姉さん」って呼ばれたりするんです(笑)。でも、そういう意味で、自分がこれまで築き上げてきたキャリアを改めて実感することができたし、「私はこうだから」っていう自信みたいなものもついてきたというか。そう、あんまり考え過ぎなくても、“自分らしさ”みたいなものは、結構出ているのかなって思えるようになったんです。


――なるほど。それこそ、来年はデビュー20周年になりますが。


Crystal Kay:そうなんです。そこはやっぱり、セレブレーションイヤーな感じで、盛大にやりたいなって思っていて。ステージ上でも20周年を祝いたいです。だから、今回のアルバムは、それに向けた活動の始まりじゃないですけど、そのプレビューのような作品として受け取ってもらえたらうれしいです。