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視聴者に委ねられた物語の続き 『シグナル』坂口健太郎と吉瀬美智子が変えた北村一輝の未来

2018年06月13日 07:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 諦めなければ未来は変えられる。無線機を通して交差した3人の過去と未来が描かれた『シグナル 長期未解決事件捜査班』(カンテレ・フジテレビ系)第10話。最終回では、伏線が全て回収され、驚きの展開となった。物語の中核はほとんどが原作の韓国版『シグナル』と同一であり、リメイクとしてのリスペクトを持ち忠実になぞらえたように感じる。


 三枝健人(坂口健太郎)の死、そして過去が変わったことでの復活。大山剛志(北村一輝)がまだ生きているという変化。彼らの無線で大きく未来が変わったことが描かれた第10話だが、大山が行方不明であることは変化しなかった。今までのストーリーでは、過去が変化しても桜井美咲(吉瀬美智子)の記憶に変化がなかったことに対し、ラストシーンでは桜井が三枝とともに大山の遺体を見つけた記憶がある様子が描かれた。これは無線を使ったことがある者のみ、過去の変化した記憶と変化前の記憶の2つを有することができるという前提があったのではないかと推測する。その前提のもと、3人が無線を通じてお互いの存在の大切さを強く認識するのである。


『シグナル』で主演を務めた坂口健太郎【写真】


 ラストシーンでは、病院にいると思われる大山の横顔、そして繋がる無線機のカットでドラマは終了する。大山と三枝は出会うことができたのか、桜井と大山は18年の想いを伝えることができたのか。あとの物語は視聴者に委ねられるかたちとなった。私たちは大山と三枝、桜井をめぐる未来をどのように推測しても良い自由を与えられたのだ。それはこの作品が、過去を変えることで未来を変えていくというテーマのもとに作られていることと類似している。


 未来というのは常に“推測する”ことでしか対応できない。起こってしまったことは常に過去なのだ。そしてそれを変化させて未来を変えてきたのが『シグナル 長期未解決事件捜査班』の中核となる物語だ。我々は最後にこの作品から、大山と三枝、桜井の未来を推測して楽しめるギフトを与えられた。それぞれの視聴者にはそれぞれの思い描く「ラスト」があっただろう。その希望を裏切らずに描くことで、作品に余白を持たせた。その余白は、視聴者の考えや、共感できた部分、作品の好きな部分を否定することなく受け入れる効果があった。私たちは今後、3人が再会し幸せになる未来も、大山や三枝が生きる世界が「正義が勝つ」社会になっている未来も想像することができる。それは、現実がいかにそんな世界になることが困難であっても、思い描く未来には希望が持てるというメッセージなのではないだろうか。


 最終的には、長期未解決事件捜査班の警部補ではなくなってしまった三枝であったが、まわりを見渡せば多くの人が側にいてくれている。オムライスを作ってくれる母、遠くから見守ってくれている大山、そしてともに大山の行方を追っている桜井。三枝はもう孤独な青年ではなくなった。第1話のときの三枝とはもう違うのだ。サスペンス色の強いセンセーショナルなシーンが多い作品ではあったが、全てを通してみると1人の人間の成長と絆を追った温かい物語であった。


(Nana Numoto)