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藤原さくらが語る、届けたい音楽の変化 「これまでとは違った角度で尖った作品にしたかった」

2018年06月12日 19:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 シンガーソングライターの藤原さくらが、2ndアルバム『PLAY』以来、フィジカルリリースとしては約1年ぶりとなる、EP『green』を発表。演じることをテーマに作られた『PLAY』を経て、新たに書き下ろされた6曲は、全曲、作詞・作曲を藤原本人が手がけ、ボーカルとアコースティックギターは藤原、その他の楽器はプロデューサーのmabanuaと、ほぼ全てを2人で作るというスタイルを初めてとった。今作では、自分自身と向き合い、パーソナルなできごとを綴った歌詞から、メロディやアレンジに至るまで、一面的なところで終わらない深みを見せている。これまでのオーガニックなイメージも超えた、新しい藤原さくら。“攻めた”今作『green』について、語ってもらった。(古城久美子)


・これまでとは違った角度で尖った作品にしたくて


ーーフィジカルのリリースとしては、2ndアルバム『PLAY』以来、1年ぶりになりますね。


藤原さくら(以下、藤原):そうですね。「The Moon」という曲は、2月7日に先行配信されていたんですけど、この1年、シングルを含め、CDのリリースがなかったので。つい最近書き下ろした曲ばかりで、最新の私って感じのEPができました。


ーー『PLAY』とは全く違ったイメージの作品になっていますが、新しい作品作りへは、どう向かったんでしょうか。


藤原:前作の『PLAY』では福山雅治さんが作ってくださった曲やスピッツさんのカバーなど、シングルとして発表している曲が入るアルバムだったので、シングルとの兼ね合いを考えながら作っていったこともあって、「演じるとは何か」ということをコンセプトに曲を作りました。そのツアーも終えて、区切りが付いて、新しい作品を作るぞっていう時には、今までにやったことがないことや音楽的にも新しいことをしたいって、ずっと考えていました。1stアルバムの『good morning』も2ndアルバムの『PLAY』も、1枚のアルバムにいろんなサウンドプロデューサーさんに参加していただいているんですけど、今回は一人のプロデューサーさんで全曲やってみようって。


ーー藤原さんのライブでは、ドラマーとしてお馴染みのmabanuaさんですね。


藤原:はい。mabanuaさんと2人でやっていこうと決めてからは、今までのアルバムの作り方からガラっと変わりました。最初にアルバムに入れる曲を決めてレコーディングに入ったことは大きな変化で、自分の中でも作りやすかったですね。今までは、アルバムの全貌が見えていない状態でレコーディングを進めていくことも多かったんですが。


ーーアルバムを想定せずに作った曲を含め、1曲1曲足していくみたいなことですよね。


藤原:そうです。できていく曲に対して「アルバムの中に、こういう要素が足りないから、足していこう」って感じで進めていくんです。いろんなアレンジャーさんたちと作っているので、「今、こういう曲ができているので、こっちの曲はこういう感じにしたい」と、状況を伝えつつ進めていくんですね。でも今回は、最初にアルバムのコンセプトを固めた上で進めているので、全体のバランスをとりにいく必要もなくて。アレンジもmabanuaさん全てお一人でやってくださるので、伝えずとも伝わっているというのか。


ーーどういうことを共有して進めたんでしょうか。


藤原:これまでいろんなプロデューサーさんとやってきた中で、ワンプロデューサーでやるっていうことは、その方の色が作品全体に強く出てくることになると思うんです。だから、これまでとは、ちょっと違った角度で尖った作品にしたくて。mababuaさんが言っていたんですが「他のアルバムはそうでもないけど、『green』だけはすごく好き」とか、「他の作品は好きだけど『green』はちょっとな……」とか言われるくらい攻めた作品にしたいって。


ーー確かに。EPなのにアルバムほどの聴き応えがあるというか。mabanuaさんと組むことになったきっかけはなんだったんですか。


藤原:もう憧れ過ぎて! mabanuaさんって、あらゆる楽器ができて、ミックスまでできちゃう方で、憧れの存在なんです。自分のソロアルバムを発表していて、Ovall(オーバル)というバンドでも活躍されていたり、プロデュース業までやっているっていう。ずっと、こんな人になりたいって思っています。mabanuaさんには『good morning』で2曲プロデュースしてもらって、前作の『PLAY』でも本当は1曲やってもらうはずだったんですけど、どうしてもスケジュール的にレコーディングする時間がないっていうことになって、実現しなかったんです。その「どうしてもやりたい」という欲求が満たされぬまま、ずっと来ていて。お願いしたいなって。


ーー 一気にそのフラストレーションが。


藤原:はい(笑)。楽器もほとんど生では入れてなくて、mabanuaさんとガッツリ2人で作りました。他にはトランペットの類家心平さん(「Time Files」)とDJのMitsu the Beatsさん(「グルグル」)にお願いしました。参加ミュージシャンは、私とmabanuaさん含め4人だけっていう。mabanuaさんとは、まず「The Moon」という『コードギアス』(劇場版第2部『コードギアス 反逆のルルーシュII 叛道』)の主題歌を去年作って、そのアレンジが最高だったというのもあって、「もっとやろう!」って『green』につながっていきました。


・歌いながら自分と向き合えた1年


ーー「The Moon」は幻想的で、深い切なさが描かれた曲ですね。


藤原:全て打ち込みで、これまでにない曲ですよね。すごく深いリバーブをかけていたりする。これまでのアプローチと全然違うので、最初は「みんなどういう風に思うんだろう、意外に思われるかもしれない」と思っていました。でも、発表後「この曲大好き!」という声がたくさん届いて、こういう方向性でもみんな聴いてくれるんだ! って新しい発見ができました。


ーーサビの盛り上がりなんかも新鮮でした。


藤原:爆発するような盛り上がりがあって転調しますからね。アニメの主題歌は初めてだったんですが、作品を全部チェックして、人間の本質を掘り下げるような、今までにない感覚で曲を書きました。普段は自分が感じた日常を歌にすることが多いので、壮大なテーマで歌詞を書く機会を得たのは、自分としてもよかったと思います。


ーー新たなチャレンジだったんですね。


藤原:そうですね。世界的にみたら、戦争もまだあって、誰かと誰かが憎しみあっていたり、「みんながハッピーに暮らせたらいい」と思っている人だけじゃない。誰かが苦しむことで喜びを感じたり、自分の大切な人が傷つけられたからって、自分が同じように傷つけてしまったりする。意図することなく、誰かを愛することによって誰かを傷つけてしまうというのも、酷だしむなしいこと。ただ愛していただけなのに、どうして傷つけ合わなければならないんだろうって。そういう世界観を切り取って、歌詞を書いていきました。『コードギアス』という作品に関わらせていただいたのは、すごく幸せでした。


ーー打ち込みで、ジャズやソウル、ワールドミュージックなどの音楽的要素がクロスオーバーするヒップホップ的手法での音作りというのも、これまでの藤原さんからすると大きな変化ですよね。


藤原:そうですね。今まで、ツアーも、オケを流さずに生楽器にこだわってきたこともあって、打ち込みというアプローチは私にはなかった要素だったんですけど、Ovallのみなさんと一緒にツアーをまわって、一緒に過ごす中で、そういう音楽性が自分の中にハマるところもあると感じていたし、実際にやってみて、本当におもしろかった。「グルグル」という曲も、同じ時期に書いていた曲なんですが、それは「The Moon」とは全然違うタイプの曲にしようという話になって……。


ーーマイナー調ですが、跳ねた感じのホーンや鍵盤の音、スクラッチなんかも入ってきます。


藤原:驚くほど変わったんですよ(笑)。そういう変化もおもしろいんですよね。きっと『green』をリリースしてからのツアーは、生楽器だけだと再現できないので、これまでにない、新しいライブの形を見せられると思うんですよね。それも楽しみで。


ーー「bye bye」のように冒頭にチューニングする音がそのまま入っていて、藤原さんの気配を感じたり、どの曲も歌が前にきて、打ち込みながらも、手触りが残るというか。温かみがあるのは、藤原さくらさんらしいなと思います。


藤原:打ち込みなのに、温かみがあるんですよね……そこは、やっぱりmabanuaさんのアレンジが光るところだなって思います。


ーー1曲目の「Dance」は蓄音機の音からスタートして、このEPの幕開けにふさわしい曲ですよね。


藤原:フェスにたくさん出させてもらうようになって、「みんなで踊れる曲があったらいいな」っていうところから「Dance」は作りました。野外で歌うことが好きだなって、今年の春フェスで改めて思ったし、フェスは自分にとって大きな存在になっているんです。私、おばあちゃんになった時にも、フェスの大きなステージで歌える人になりたいというのが目標なんです。それまで、がんばらないと!


ーーフェスだと自分のファンだけではない、新しいお客さんを前に歌うわけで、刺激にもなりますよね。


藤原:本当に新鮮ですよね。名前だけ知ってるって感じで観にきてくださっても、歌が届く。「藤原さくらってこんな歌を歌うんだ!」って、新しい出会いがいっぱい生まれる。そういう中で、無条件にみんなで盛り上がれる曲があるっていいなって。それで「Dance」は意識的にポップな曲をイメージして作ったんです。


ーー聴きながら、「人生踊るか踊らないか」だなって思いました(笑)。


藤原:あはは、そうですよね。「踊ったもん勝ち」だって思います。今年の2月、カナダへ旅行したんですが、ジャズバーに行った時に、お客さんがみんなめちゃくちゃ踊っていたんですよね。楽しんだもん勝ちというか、何も考えずに踊るって大事だなって。


ーーいろいろあるけど、楽しもうっていう。続く「Time Flies」「Sunny Day」は……。


藤原:今回、曲を作って、選曲していく中で、お別れの曲が多いことに気づいて。自分の実生活でもすごくお別れが多かった時期で。なんだろう、最初からこういうアルバムにしようと思っていたわけではないんですけど、明るいポップチューンを作ろうって意識的に作った「Dance」の他は、結果的に自分のパーソナルな部分が濃く出たと思うんです。『PLAY』を出したことで、歌いながら自分と向き合えた1年でもあったし、だからこそパーソナルな曲ができたなって。


ーー自分を出すって、難しいことだとも思うのですが。


藤原:確かに。でも、みんなの声を聞いていると、こういう風に思っていることって自分だけじゃないんだなって、本当に感じることが多くて。「私もそういうことがありました」って声が届くんです。出会いとか別れとかって、誰もが経験することで、みんなずっと一緒にはいられないし、みんな不死身なわけではない。全てに共感してほしいと思っているわけではなくて、誰かにとっては恋愛の歌になったり、誰かにとっては友情の歌になったり、いろんな受け取り方がある。こうやってEPを出して、音源で誰かに届いて、全然違った形で受け取られていくって、すごくおもしろいことだと思います。


ーーなるほど。私は、いろんな別れのせつない言葉の中にも、終わりと始まりを一緒に感じられる深みを感じました。さらにそのアウトプットとなる音色も含め、攻めている感じがしたんですよね。


藤原:湿っぽい歌詞があっても、曲調やリズムが明るかったりして、ジメジメとしているわけではないんですよね。「Sunny Day」も「bye bye」も「Time Flies」も、「それでも今の自分がいるのは過去あなたといたからで、それを踏まえて前に進もう」とか「あまり過去に囚われていても」っていう視点はありますよね。『PLAY』では、キャッチーさを意識するタイミングも多かったので、もっともっとサビやメロディに力を入れたいと思うようになっているし、これまでの自分の音楽的要素があった上で、新しく作りたい曲の傾向も少しずつ変わってきているんです。


ーーそういう意味では、今までのよさと、新しさ、その先も予感させるタイトルの“green”という言葉は“evergreen”ともとらえられるし、ぴったりですよね。


藤原:そうですね。お別れの曲が多いというのはあったんですけど、すごく暗いわけじゃなくて、何か新しい芽生えが感じられる曲になっていて、新しい季節が始まる中で、新緑のさわやかなイメージがありました。私にとっての第二章、新しいイメージも詰まってるから、「green」はすごくいいんじゃないかって。曲順も「Dance」から始まって「The Moon」で終わるというのもしっくりきました。あと、たまたまなんですけど、英語詞と日本語詞も半々になっていたり……。今回の歌詞はレコーディング直前まで何度も書き直したりして作って行きましたけど、いいEPができたなって思います。新しい曲もどんどんできているんですけどね!


ーー7月15日には日比谷野外大音楽堂で単独公演『藤原さくら 野外音楽会 2018』が控えています。日比谷の野音は初めてなんですよね。


藤原:イベントでも立ったことがないので、初めてです。いろんな方のライブを観に行っていた場所なので、ずっと憧れで。ようやく自分のワンマンが野音でできて、夢がひとつ叶った感じですね。うれしいです!


ーーどなたのライブが印象に残っていますか。


藤原:10代で上京した時に、一番最初にSPECIAL OTHERS(以下、スペアザ)さんのライブを観に行ったんです。ホント大好きで。そしたら、お客さんがみんなお酒を飲みながら踊っていたんですよ。飲んだり、ラフに話したりしながら音楽を聴いたりしている、その雰囲気がすごくよかった。つい最近あったスペアザの日比谷野音(4月30日)も観に行ったんですが、もともと野外ライブも大好きだし、やりたい欲がさらに高まりましたね。


ーー7月15日は、実際どんなライブにしたいですか。


藤原:『green』からもたくさんやりたいと思っていますが、今回はコーラスを入れたり、特別編成のバンドでやってみたいなって。ちょっと今まで一緒にやったことのない方をサポートメンバーに呼んだりして……梅雨がちょうどあけたころですよね。晴れ女なので、大丈夫だと思うんですけど(笑)、雨が降らないように願っています!(取材・文=古城久美子)