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ジルとフェラーリファンに捧げるベッテルの独走優勝【今宮純のF1カナダGP決勝分析】

2018年06月12日 12:51  AUTOSPORT web

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2018年F1第7戦カナダGPで優勝したセバスチャン・ベッテル
2018年F1第7戦カナダGPは土曜日から完璧にマシンをまとめ上げ、フェラーリのセバスチャン・ベッテルがポール・トゥ・ウィンを飾った。F1ジャーナリストの今宮純氏がカナダGPを振り返り、その深層に迫る──。 

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 フェラーリ一色、コース上も満員のスタンドもあざやかに染まったカナダGP。5年ぶりの独走スタート・トゥー・フィニッシュ、完勝したベッテルは言った。

「今日は朝から40年前にジル・ビルヌーブ、14年前にミハエル・シューマッハーが勝ったのを思い起こしていたんだ」

 観客たちもそうだっただろう。この3年間メルセデスのルイス・ハミルトンがPPウイン、その前も3勝と現役最多6勝を見せつけられた。目当てのフェラーリはずっと脇役のままでしかなかった。

 毎年30万を超えるファンが続々サーキットにやってくる。レジェンドであるジルとフェラーリへの思い入れがあるからだ。その熱情はモンツァのティフォシに勝るとも劣らない。

 ジルが初開催のここで初優勝したのは1978年晩秋の10月8日。表彰台に立つ小柄な彼をトルドー首相は両手でがっちり握手して称えた。市民ばかりかカナダ国民を代表するファンのように……、これが『ビルヌーブ伝説』の始まりだった。

 それから40年、スタンドは金曜から盛り上がっていた。だがベッテルはFP2トップのマックス・フェルスタッペンに0.787秒遅れる5番手。新PUを投入したのに旧PUで戦う2番手キミ・ライコネンにも0.657秒及ばない。ブレーキングに切れがなく、コーナリングもウォールすれすれまで攻められない。マシンが信頼できず、リズムにのれない(つくれない)のが見てとれた。


 開幕後から初日ライコネンに先行を許すパターンが4戦もあった。ベッテル自身(あるいはチーム)がセッティングを振り分け、金曜夜のテクニカル・ミーティングでそのデータを解析し“最適値”を探っているようにも思えた。

 土曜FP3が始まるとベッテルの走りが一変。トラクション特性が重要なこのコース、分かりやすいのは5コーナー先にあるセクター1と9コーナー先にあるセクター2の通過速度だ。彼はどちらも最速スピードを記録、それぞれのコーナー脱出速度が上がってきた。

 さらに三つのセクターをミスなく自己ベストで揃えるラップを完成し2番手に浮上。ちなみにトップはフェルスタッペン、3番手ライコネン、4番手ハミルトンも完璧なラップはできていない。各セクターが“ばらつき”、小さなミスをどこかでやっていた。

 フリー走行すべて初めてトップのフェルスタッペンよりも、個人的にはベッテルをマークしていた。予選Q1をハイパーソフトで1位、Q2はウルトラソフトで4位。なるほど彼はQ1をQ3リハーサルにあて、Q2はスタート・タイヤとなるからいくぶんセーブ。そしてQ3アタックに正確で精密なPPラップを完成する。

 1から3コーナーまではグリップ感触を確認する程度で、そこから一気に高めた。セクター1通過速度267.2KMH、セクター2通過速度289.4KMH、S/F通過速度303.3KMH(すべて最速!)。セクタータイムも2と3が抜群、際立ったのはあの最終コーナー『チャンピオンズ・ウオール』。


 99年にシューマッハー、デイモン・ヒル、ジャック・ビルヌーブ(リカルド・ゾンタも)クラッシュした『レジェンド・コーナー』を彼はエントリーからアウトぎりぎりラインを描き、大胆に縁石カット。進入ラインがセンチメートル単位でずれていたなら、激突した歴代王者の“仲間入り”していただろう。

 02年現在コースになってからの15戦でPP勝利者は8人、敗北者は7人。荒れるか荒れないか、レースの確率は半々なのだ。ベッテルはコース左サイドのPP位置にフェラーリSF71Hをやや右寄りに止めた。隣のボッタスをけん制するためだ。

 ハイネケン・カナダGPのスタート・レッドシグナルは☆印、消灯後に綺麗に加速ダッシュしたベッテルは後方の事故など関係なくクリーン・エアのなかを独走していった。

 あえて言うならドキッとしたのはふたつだけ。ひとつは25周目の10コーナー・ヘアピンでのロックアップ(1分16秒759ワースト・ラップ)。もう一つは69周目の早すぎたチェッカーフラッグ・ミス事件だ。

 事態を理解するベッテルに、チャンピオンシップ首位を祝うように“ダブル・チェッカー”が彼女ではなく、正規マーシャルによってもう一度振られた。遂にフェラーリはマシン&PU実力でメルセデスを凌駕し、ベッテルはハミルトンを得意なカナダGPで彼を打ちのめした。祝・ジル優勝40周年記念レースーー。