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昨今のドラマに欠かせないテーマに? 『崖っぷちホテル!』など“再建モノ”に共通する要素

2018年06月10日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 医療、刑事、教育といった定番ジャンルと並び、昨今のドラマで欠かせないのが“再建”というテーマではないだろうか。過去に2度ドラマ化されている『高原へいらっしゃい』(1976年・2003年/TBS系)をはじめ、『王様のレストラン』(1995年/フジテレビ系)、『私を旅館に連れてって』(2001年/フジテレビ系)など、以前から“立て直し”をテーマとしたドラマは人気を博してきたが、今現在『崖っぷちホテル!』(日本テレビ系)が放送中であるほか、昨年には『陸王』(TBS系)が大ヒット、7月からは『ラストチャンス 再生請負人』(テレビ東京系)がスタートするなど、 ますます“再建モノ”が増加傾向にある印象だ。


「ワクワクしませんか」とはにかむ岩田剛典【写真】


 先述の『陸王』は、役所広司演じる宮沢紘一が、創業100年を超える老舗足袋業者「こはぜ屋」の経営危機を脱するために奮闘する物語。ランニングシューズの開発による企業再生を主軸に、竹内涼真演じる長距離ランナー・茂木裕人の再起までの道程を絶妙に絡め、幅広い層の支持を得た。同じく2017年10月期のドラマ『先に生まれただけの僕』(日本テレビ系)もまた、経営難に陥った私立高校を立て直していくストーリー。エリートサラリーマンの鳴海涼介(櫻井翔)が、校長として経営危機の私立高校に出向。教育については素人同然の鳴海が、教師や生徒と本音でぶつかりながら学校の再建を目指し、“スクールカースト”や“奨学金問題”など、デリケートなテーマにも鋭く切り込み大きな反響を呼んだ。


 また現在放送中のドラマでも、『花のち晴れ~花男 Next Season~』(TBS系)では、かつての輝きを失いかけている英徳学園を蘇らせようと神楽木晴(平野紫耀)らC5が奮闘し、『Missデビル 人事の悪魔・椿眞子』(日本テレビ系)では、悪魔のような椿眞子(菜々緒)が企業の膿を出す役割を担っていたりと、それぞれ“立て直し”という要素を含んでいる。そんな今期ドラマの中でも、殊に “再建モノ”として王道をいくのは、岩田剛典主演の『崖っぷちホテル!』である。


 負債総額3億円という破産寸前の老舗ホテルにやってきた超フランクな謎の男・宇海直哉(岩田)は、実は一流ホテルの副支配人。老舗ホテルの総支配人・桜井佐那(戸田恵梨香)にホテル再建への協力を依頼された宇海は、ヤル気のない従業員たちに破天荒な注文を次々に繰り出していく。初めは宇海を冷ややかな目で見ていた従業員たちだったが、突きつけられた難題を乗り越えるたびにスキルアップ。最終回まで残り2話と迫った今では、身も心も立派なホテルマンへと成長を遂げている。今作は、1話完結の物語の中に“笑い・ワクワク・感動”を盛り込んだわかりやすい展開が特長。鑑賞後にはスッキリと気分が晴れる、ハッピーなドラマといえるだろう。


 そんな『崖っぷちホテル!』を含め“再建モノ”に共通するのは、憎めない主人公の熱意や能力に周囲の人々の心が動かされ、皆で力を合せて立て直しの道を歩むという王道のフォーマット。言ってしまえば、とても予想しやすい展開である。それでも私たちが“再建モノ”に惹かれてしまうのは、 “ヒーロー”ともいえる主人公に、ある意味、希望を見出しているからかもしれない。努力や正義が報われる“再建モノ”は、何事もそう易々と再生を図ることが難しい現実社会において、私たちの望みを満たしてくれる存在。視聴者の欲望の投影ともいえるだろう。


 夢想的な“成功”を詰め込み、明るい気持ちにさせてくれるドラマは、世知辛い世の中を懸命に生きる私たちの欲求と合致していることは間違いない。これらをテーマにした作品の人気は今に始まったことではないとはいえ、社会そのものの“再建”が叫ばれる今だからこそ、このようなドラマが、より視聴者の胸に響いているように思えてならないのだ。観る者に勇気を与えてくれる“再建モノ”ドラマ。心躍るストーリーを楽しむ一方で、ブームの持続には、ある種の危機感を抱くべきなのかもしれない。


(nakamura omame)