小説『二度目の人生を異世界で』の今後の出荷が未定であることが、出版元であるホビージャパンのオフィシャルサイトで発表された。
『二度目の人生を異世界で』は小説投稿サイト「小説家になろう」に2014年1月から投稿されている作品。ホビージャパンは朝日新聞の取材に対して該当書籍の出荷停止を明かしていたが、このたびウェブサイトで状況が説明された。
同サイトでは、6月6日から掲載されていた記事「HJノベルス『二度目の人生を異世界で』に関しまして」を更新。「当該書籍の当社在庫はなく、出荷をしておりません。今後の生産予定も未定です」との文が追加された。
お知らせでは『二度目の人生を異世界で』について、「作品中の一部の表現が多くの方々の心情を害している実情を重く受け止めている」と表明。「作品の内容とは切り分けるべき事項ではある」としつつも、「著者が過去に発信したツイートは不適切な内容であったと認識しております」と記されている。6月6日掲載時には「今後の当該書籍の取扱等」について「慎重な対応」を行なうとし、具体的な状況は明かされていなかったが、今回の発表により実質的な出荷停止状態が明らかになった。なお出荷停止の報を受けて、Amazon.co.jpでの販売価格が高騰するといった現象も発生している。
■『二度目の人生を異世界で』とは
「まいん」による小説『二度目の人生を異世界で』のあらすじは、「世界大戦」に従軍して4年間で3712人を斬り殺し、晩年は刀匠として大成して人間国宝になったという主人公が、94歳で死去したのちに異世界へ転生、再び戦いに身を投じるというもの。これまで18巻が刊行されたほか、コミカライズ版がKADOKAWAの漫画サイト「ComicWalker」で連載中で、コミックスは5巻まで刊行されている。
■テレビアニメ化発表。その後、声優全員降板の異常事態に
テレビアニメ版は10月から放送されることが発表されていたが、アニメ化決定が報じられたのち、作者が2013年前後から中国や韓国を侮蔑する発言をSNS上で繰り返していたことが国内外から問題視されていた。これを受けて作者は6月5日に自身のTwitterにて過去の発言および作中の表現を謝罪。「小説家になろう」にて該当箇所の公開を停止し、書籍版の修正が実施可能か出版社と相談するとしていたほか、ツイートを削除し、後日Twitterアカウントを削除すると表明した。
6月6日18:00頃に、テレビアニメ版で主要キャストを務める予定だった声優全員が一斉に降板を表明。出演予定だった声優は、主人公・功刀蓮弥役の増田俊樹、シオン=ファム=ファタール役の安野希世乃、ローナ=シュヴァリエ役の中島愛、創造主役の山下七海。
同日夜、テレビアニメ版のオフィシャルサイトで放送および製作の中止が発表。掲載文言は以下の通り。
<アニメ化発表以来、一連の事案を重く受け止め、
本アニメの放送及び製作の中止をお知らせ致します。
みなさま、及び本作品の制作に関わった方々には多大なるご迷惑、
ご心配をおかけしました事、心よりお詫び申し上げます。>
同サイトには意見を受け付けるメールアドレスと共に「本件に関する取材はお断りしております」と記されている。
■様々なジャンルを巻き込んだ議論が勃発。アメリカでも類似の事例。
『二度目の人生を異世界で』のテレビアニメ化が発表された時点で、国内のみならず中国を中心とする海外から内容に対する批判があったが、その後、作者がSNSに投稿していた過去のヘイト発言が発見された。さらに声優降板、アニメ化中止、原作小説の出荷停止といった事態が相次いだことから、様々な文化領域を巻き込んだ議論が噴出している。特に原作小説の出荷停止の是非については慎重な議論が必要だろう。
アメリカでも最近、類似した事例が発生した。アメリカABCテレビによるコメディードラマ『ロザンヌ』の主演女優であるロザンヌ・バーが、Twitterで差別的な発言を行なったとして、5月29日に局が番組の打ち切りを決定したのだ。『ロザンヌ』は1988年から1997年まで放送された人気番組で、今年3月から放映されていたリバイバル版はシーズン2の製作も決まっていた。
問題となった発言は、オバマ前大統領の側近で黒人男性であるバレリー・ジャレットを、「猿」とイスラム武装勢力「ムスリム同胞団」の混血児であるとほのめかしたもの。ドナルド・トランプの支持者でもあるロザンヌ・バーは、過去にも差別的な発言を繰り返していたという。Twitterでの発言から打ち切りまでは、わずか1日程度というスピード決定だった。本人は「冗談だった」とした上で謝罪したが、BBCの報道によれば、トランプ大統領やサラ・サンダース報道官もこの問題について言及。こちらの事態も簡単には収束しそうにない。
なお日本では2016年には「ヘイトスピーチ解消法」が国会で成立。法務省はヘイトスピーチに焦点を当てた啓蒙活動を実施している。同省のウェブサイトでは具体的な事例も掲載中だ。