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mol-74が見せた4ピースバンドとしての“再生” 『▷(Saisei)』ツアーファイナルを振り返る

2018年06月08日 19:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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「最後、<夜は、明ける>という言葉でこのアルバムは終わってるんですけど。本当に今年の僕たちは夜が明けそうなので、みなさん今年、僕たちに期待していてください」(武市和希)


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 mol-74(モルカルマイナスナナジュウヨン)が、5月13日に東京・恵比寿LIQUIDROOMにて、『mol-74「▷(Saisei)」release tour』のツアーファイナル、ワンマン公演を開催した。mol-74は、武市和希(Vo/Gt/Key)、井上雄斗(Gt/Cho)、高橋涼馬(Ba)、坂東志洋(Dr)からなる京都発の4ピースバンド。


 彼らがピアノやアコースティックギターといったオーセンティックな機材によって紡ぎ出す楽曲は、北欧のバンドに通じる冷たいサウンドに、武市の透き通るような美しいファルセットボイスが重なることで、どこか心の芯を灯すような温かみを感じさせる。日常にある身近な感情を表現しながらも、パズルのピースをピタリと当てはめたような完璧な音のバランスで、彼らにしかできない幻想的な世界観を生み出している印象だ。


 2017年6月よりサポートベースを務めていた高橋が正式メンバーに加わってから、初めてのリリースとなったミニアルバム『▷(Saisei)』(1月17日発売)を携えて、1月26日から京都 MUSEにて幕を開けた同ツアー。札幌、大阪、福岡と各地を順々に巡り、東京にて約4カ月の集大成を迎えた。ツアー最終日のこの日は、ソールドアウト。立錐の余地もないほど会場を埋め尽くす観客の前で、mol-74は“4ピースバンド”としての新たな“再生”を感じさせた。


 眩しいほどの真っ白な照明の中、登場したmol-74。まずは“冬”をテーマに据えたミニアルバム『▷ (Saisei)』から、「●(Fanfare)」「▷(Saisei)」「▷▷(夜行)」と立て続けに3曲を披露。武市の高音のフェイクが耳にダイレクトに入ってくる「●(Fanfare)」では、坂東の安定したバスドラの低音が心地よい。彼らの冷たく温度を持たないアンサンブルに、一瞬で心を持っていかれる。続く、「▷(Saisei)」では、井上のボウイング奏法(ヴァイオリンの弓でギターを弾く)が光り、青にオレンジの照明がまるで星空のように輝き出す。<夜明けの魔法を唱えるように><答えを失った僕が待っていた><いつか僕らは生まれ変われるかな>という武市の透明な歌声と、疾走感溢れる演奏が絶妙に絡み合い、夜から朝へ生命力が漲っていく様を想像させる。「▷▷(夜行)」では、武市の情緒的な歌声と井上の美しい高音のコーラスが会場に響き渡り、悲しくも優しく観客を包み込む。


 ライブ中盤では、3rdミニアルバム『越冬のマーチ』より「アルカレミア」、4thミニアルバム『まるで幻の月をみていたような』より「フローイング」、5thミニアルバム『kanki』より「プラスチックワード」、6thミニアルバム『colors』より「rose」と、これまで大事に育てて来た楽曲たちも披露。繊細かつメランコリックなメロディと重厚感あるバンドアンサンブルで、心地よいグルーヴを生み出していく。それぞれの楽器の揺るぎない音と武市のはっきりと輪郭を持った高い歌声が調和することで、過去の曲たちがまさに再生していくかのような不思議な感覚に陥り、思わず鳥肌が立つ。


 次いで、燃え殻による小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』を題材にした「| | (Frozen Time)」と、同じく『▷(Saisei)』の収録曲「◁◁(瞼)」では、一切の無駄がない最小限の音数で最大限に楽曲の世界観を表現。感傷的な歌詞とメロディに涙するファンの姿も見られた。『kanki』に収められた春を感じさせる楽曲「エイプリル」では、高橋のシンプルだが時にアグレッシブでうねるベースが体の奥底を揺らしていく。自主制作アルバム『ルリタテハ』の収録曲「ノーベル」では、間奏に入ると会場から溢れんばかりの手拍子が送られた。


 大雨だったこの日。MCで武市は「本日は雲ひとつない快晴の中、お越し下さってありがとうございます! ……(大雨は)僕たちのせいだと思ってるんだろう」と冗談を飛ばしながらも、「みなさん、心だけでも晴れさせて帰ろうと思います!」と高らかに宣言した。そのまま坂東のパワフルなドラムが響き渡る。同時に会場からは手拍子が起こり、どんどん盛り上がりを見せていった。そんな中で披露されたのが、『kanki』のリード曲「%」だ。ポップで疾走感溢れるサウンドに、会場のボルテージは最高潮に。<二つとない><一つしかない><僕らが描き始めたもの>と武市が歌うサビでは、会場を埋め尽くす観客が一斉に手を高く突き上げる。その光景をステージの上から見た武市、井上、高橋、坂東の4人も心の底から楽しそうに美しい音を奏でていく。


 最後に武市は「『▷(Saisei)』っていう作品のコンセプトが“夜明けへの再生”っていうことで、去年の11月に高橋くんが正式メンバーになったっていう流れもあって。もう一回ここからやろうじゃないかっていう、生まれ変わろうじゃないかっていう作品を作ったんですけど」と今作への想いを明かす。続いて「最後、<夜は、明ける>という言葉でこのアルバムは終わってるんですけど。本当に今年の僕たちは夜が明けそうなので、みなさん今年、僕たちに期待していてください!」と視界いっぱいの観客たちに語りかけた。


 本編最後は、『▷(Saisei)』の最後に収録されている曲「□(StarT)」。武市の優しい歌声と井上のもの哀しく儚いギターリフが鳴り響く。次第に高橋の柔らかいベースの低音と坂東のプリミティブなバスドラがどっしりと基盤を築いていった。<きっと、そう><夜は、明ける>。


 mol-74にとって、新しく生まれ変わったこの日。再生を果たした彼らは、私たちにどんな朝を見せてくれるのだろうか。mol-74は夜明けにさす光に向かって、今まさに“StarT”したばかりだ。


※高橋涼馬の「高」はハシゴダカが正式表記。


(取材・文=戸塚安友奈)


■セットリスト
『mol-74「▷(Saisei)」release tour』
5月13日(日)東京・恵比寿LIQUIDROOM


01.●(Fanfare)
02.▷(Saisei)
03.▷▷(夜行)
04.アルカレミア
05.プラスチックワード
06.フローイング
07.rose
08.| |(Frozen Time)
09.バースデイ
10.グレイッシュ
11.◁◁(瞼)
12.ゆらぎ
13.エイプリル
14.ノーベル
15.%
16.□(StarT)