2018年06月08日 10:42 弁護士ドットコム
20代で独立し、20代税理士だけでつくる税理士法人を立ち上げた水村耕史税理士。競馬の騎手を目指した青春時代や、税理士が積極的にメディアなどで発信する重要性について語りました。給与所得者を中心として税に無関心な層が少なくない現状を憂い、教育現場で税に関する授業をする必要性も指摘します。(インタビューの概要は以下のとおり)
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ーーもともと競馬の騎手を目指していたそうですね
「中学生の時に、騎手になりたいと思いました。競馬雑誌を読んでいたら『競馬学校騎手課程募集』と書かれているのが目に入りました。当時、剣道部だったんですが、競馬学校に入るための体重制限は完全にオーバーしていて、夏休みで13kgのダイエットに成功しました。夏休み明けに急に痩せていたので、友だちが怖がって話かけてくれませんでした」
ーーいつ騎手の道を断念したのでしょうか
「アルバイトで乗馬クラブに通うお金を貯めて、乗馬クラブに通い、ジムにも通いました。ジムでは体重が42kg以下に落ちるまで帰らない、というルールで日々鍛えてました。茨城県内の牧場で1カ月、厳しい修行も経験しました。高2の夏に騎手になるための学校への入学がかなわず、ここできっぱり諦めることにしました」
ーーいま、若手で税理士法人を運営しているということですが、手応えはいかがでしょうか
「いまのパートナーは、もともと税理士になるための勉強仲間で、みんな20代です。同じ世代なので社内でのコミュニケーションが迅速に取れて、仕事がしやすいと感じています。この業界において私たちはかなり若手ですが、顧客の方が若い方ばかりというわけでもなく、幅広い年代の方に顧客になっていただいています」
ーー独立してよかったことを教えてください
「雇用されているサラリーマン税理士は、不都合があった時に責任が取れないので、条文に即した差し障りない言葉に終始してしまうことがあります。ただ、それって専門家っぽく回答しているけど、『結局は逃げなのかな』と思ってしまいました。独立後、『僕だったらこうします』と言い切れるようになったのは、大きな良い変化だと思っています」
ーー顧客に対して税に関する説明をする際、どのようなことを気をつけていますか
「とにかく、相手のレベルに合わせて話すように心がけています。例えば『所得』と『利益』は厳密にいうと概念が違いますが、初心者の方にはそういう細かいところまではあえて話をしません。他にも『経費』と『費用』は何が違うのか、という質問もいただきますが、基本的には同じだと答えています。一般に生活するぶんには、専門的な知識は必要ありません。イメージをつかみやすい説明をすることが大事だと思っています。
1回の会話で聞き取れる話の量は限られると思っています。なので、『ここまで難しかったですか?』と聞くようにしていて、返答が『まぁ難しいですね』だったら、話を巻き戻してさらにかみ砕いて話すようにしています。理解が進むよう、イラストを描くこともあります」
ーー他には顧客からどのような質問が多いでしょうか
「学生など若い方から、会社を作りたいという相談をいただくことも少なくありません。そこで感じるのは、理想の事業内容ははっきりしているが、資金繰りや税金、バックオフィス業務に関することへの意識が不足している方が多いということです。
そのような相談を受けたとき、私は、まず自己資金がどれくらいあるのか聞きます。実際、銀行からお金を借りることは簡単なことではないし、困ったらVC(ベンチャーキャピタル)がお金を調達してくれるわけではないということを話すようにしています。話を聞いて、ちょっと無理だなと思ったら、やめた方がいいとアドバイスすることもあります」
ーー本を出されるなど情報発信に積極的だという印象です。税理士がメディアに出ることについてどのように考えていますか
「KADOKAWAから出版した『同人作家のための確定申告ガイドブック 2018』は、かなりかみ砕いて書きました。色々な反響がありましたが、『今まで自己流で確定申告をしていて、税務署から運よく指摘が来なかっただけで、もしかしたら間違えていたかも』とか『こんなに難しいなら税理士さんに処理をお願いしたい』といった声がありました。
中身に対する批判もいただきましたが、わかりやすさを重視するため仕方がないことだと思っています。仲の良いお客さんだけと仕事をするのは楽ですが、せっかく若くして独立をしたので、若い年齢層の方にも税や経営に関心をもってもらえるように努めたいと思っています。そのためならメディアに出て批判にさらされることに抵抗はありません」
ーー税関連の気になる問題はありますか
「まず消費税については、税率が変われば当然影響は大きいですね。他にも配偶者控除が2018年から『150万円』へと大きく変わっているのに、意外と知られていないという印象です。周知を図るために、もっと税理士が批判を恐れずにメディアに出て、解説をするといいのではないかと思います。
他に税理士が話せば誤解が解けるニュースもあります。例えば、いまの税制について『金持ち優遇』という批判はありますが、課税所得が4000万円以上なら最高税率は55%(所得税+住民税、復興特別所得税を考慮せず)です。昔と比べれば多少税率が下がったとはいえ、それでもかなりの部分が持っていかれます。お金持ちのイメージが強いプロ野球選手など、推定年俸から払っている税金の金額を推定するのも面白いのではないでしょうか。
小中高や大学で税に関する教育が十分できていないことも問題です。正直、小学生に『明るい税』などと習字をさせても税は学べません。小学生は租税教室がありますが、もっと大きくなってから、それこそアルバイトを始めて買い物ができるようになる高校生くらいで税金の勉強をする機会があってもいいと思います。また、大学の授業でも経営者の現実みたいな講義があってもよいかなと思います」
【プロフィール】
水村 耕史 (みずむら・こうじ)税理士
個人事務所、BIG4税理士法人、アクタス税理士法人を経て、平成26年に独立。平成28年10月にSwitch税理士法人を設立。現在Switch税理士法人の代表社員のほか、ITベンチャー企業、studioNASの代表取締役兼CEOを兼務。
事務所名 : Switch税理士法人
事務所URL:http://switch-c.com/
(弁護士ドットコムニュース)