2018年06月08日 10:42 弁護士ドットコム
猫の保護活動をおこなっている施設(シェルター)が、あろうことか実質的に「多頭飼育崩壊」にあり(5月末までに猫170匹以上)、一部をのぞいて病気の猫たちがまともな治療を受けられていない。さらに、その改善をもとめたボランティアのスタッフが「出禁」になっている――。猫たちの行く末を心配する元ボランティアの女性たちが、涙ながらに保護活動の闇をそう告発する。一方、施設側の代表者は否定している。(弁護士ドットコムニュース・山下真史)
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問題になっているのは、A代表(女性)が2016年、東京・板橋で立ち上げた団体。ホームページによると、行き場を失った猫を保護して、不妊・去勢手術を受けさせたり、看護・介護したり、里親に譲渡したりする活動をおこなっている。A代表によると、「団体」ではなく、あくまで「個人」として活動しているということだ。
一方、そのシェルターで、病気が蔓延しており、まともな治療を受けられず死んでいった猫が、今年1月以降で少なくとも20匹以上にのぼっているという。それにもかかわらず、A代表は次から次に新しい猫を捕獲してくるというのだ。
告発者の1人で、元ボランティアの平松温子さん(実名)は2014年ごろ、A代表と知り合った。「殺処分ゼロ」を目指すという考え方に共感して、現在の団体名称になる前から、手伝いはじめた。3カ所に分かれていたシェルターは2017年夏、現在の場所に合流した。そのあとも、捕獲したり、引き取るなどしたことで、猫の数が爆発的に増えていったという。
「ボランティアたちが、必死にシェルター内を掃除しているため、糞尿の垂れ流しは免れています。しかし、A代表が上限を決めず、無計画にどんどん猫をシェルターに入れてしまって、一匹一匹のケアがまともにできていません。自分たちでは世話しきれない異常な数を飼ってしまう『多頭飼育崩壊』の状態になっています」(平松さん)
平松さんが告発に踏み切ったのは今年1月、ある1匹の猫が亡くなったことがきっかけだ。
健康的なオス猫だったが、1月に入ってから体調が悪く、下痢・嘔吐を繰り返していた。平松さんは1月6日昼、A代表に「動物病院に連れて行って良いか?」とメールした。なかなか返事がなく、A代表から「ケージに入れて様子を見たい」という返信があったのは、その日の夜中。翌1月7日昼、猫が亡くなったことを知った。
その直後、この猫と同じような症状の猫が見つかったことから、平松さんは「病気が蔓延するかもしれない」と案じて、猫の症状を調べるため診療を受けさせることを進言した。ところが、A代表は「同じ症状の子が出てきたら、全部平松さんが払うんですか」「(平松さん名義で)部屋を借りて、病気の猫をあずかってくれないか」と突き放したという。
平松さんは、シェルターの改善をうったえたが、A代表はそれらを拒み、平松さんは「出禁」を食らってしまった。
一方、猫は200匹まで増えて(1月初旬)、それまでに増したペースで猫が死んでいったという。「病気になっても、A代表が気に入った猫しか病院に連れて行ってもらえない」。「出禁」の平松さんは、そんな話をボランティア仲間から聞いて「危機的な状況になっている」と感じていた。
それから1カ月後の2月中旬、平松さんのところに「戻ってきてほしい」という連絡がA代表からあり、再びボランティアとしてシェルターに入ることが許された。すでに告発の準備をすすめていた平松さんは3月、シェルターの冷蔵庫内で、おそろしいものを見つけてしまう。毛布に包まれた猫の死体である。
別のボランティアは「冷蔵庫に猫の遺体を入れていたのは、A代表に間違いないと思う」と証言する。冷蔵庫内の遺体は増えたり、減ったりしながら、5月末には最大5体もあったという。その中には、「里親に出されたはずの猫」とみられるものも含まれていたそうだ。
平松さんがA代表の夫に相談したところ、「(シェルターで)年間100匹くらい死んでいる」と聞かされた。東京都の猫の致死処分数は年間299匹(2016年度・収容後の自然死をのぞく)であることとくらべてみると、その数が相当なものだとわかる。
平松さんは、現在の場所にシェルターが合流したあたりから、A代表の言動に変化があったと考えている。「自己正当化の発言が増えました。『猫たちが、自分に保護される順番を待っている』と言ったこともあります。猫が死ぬことで、『新しく保護できるんだ』と言わんばかりに・・・」(平松さん)
現在のシェルターは、A代表の夫が所有する建物の一階を改装したものだ。内部はかなり広いという。そこに移ってくる前はどういう状況だったのか。
元ボランティアの女性、堀越みよこさん(実名)によると、シェルターは3カ所に分かれていた。1つはボランティアが手伝いに入るシェルター、もう1つはA代表のマンション、残りの1つは現在のシェルターの2階にあるA代表の夫の居住スペースだった。
さらに、ボランティアの入るシェルターは現在の場所まで、2回の引越しがあった。1カ所目(2014~15年)は、日差しもありのどかな雰囲気で、トイレの数も問題なかったという。そのころ猫は約20匹。2カ所目(2015年~17年8月)は、ワンルームの賃貸マンション。猫は約40匹に増えていたが、ペット不可のマンションだったため、常に窓を締め切っていた。
「1カ所目では、それほど掃除は大変でありませんでした。だけど、2カ所目はペット不可。近隣の部屋に猫のニオイがばれないよう、ドアをコソコソと開けていました。今のところに移ってからは、猫が爆発的に増えて、知らない子ばかりになり、A代表のやり方に耐えられなくなって、ボランティアをやめることにしました」(堀越さん)
現在、猫やシェルターはどうなっているのだろうか。わずかな人数を残して、ほとんどのボランティアは暇を出されている。5月末までボランティアとして、シェルターの掃除などを手伝っていた島津由美さん(仮名)と市橋晃子さん(仮名)は「掃除せずに丸一日放置したら大変なことになる」と口をそろえる。
「猫の数にくらべてトイレが少なすぎます。現在約170匹に対して、10個前後しかありません。(A代表は)猫砂をケチっているので、汚れていても替えず、トイレの底にはオシッコが溜まっています。また、猫たちは絨毯でもオシッコするようになっています。空気清浄機のフィルターも替えていません。窓は締め切って、空気の入れ替えもできません。猫たちが本当にかわいそうです」(島津さん)
こうした状況から、平松さんはすでに、東京都の動物愛護相談センターや保健所、さらに警察にも相談しているが、まだ手続きがすすんでいないようだ。シェルターが広いため、写真上では「悲惨」に見えないのかもしれない。今回のようなケースについて、動物愛護法にくわしい細川敦史弁護士は「法律違反にあたる可能性がある」と指摘する。
「動物愛護法では、猫など、愛護動物の虐待を禁止しています。病気の猫に適切な治療を受けさせなかったり、糞尿が堆積した施設など不適切な環境で飼養することは、法律で定める『虐待』にあたると考えられます。もし該当するようであれば、100万円以下の罰金となります」(細川弁護士)
このような団体は本来、都道府県知事に「第二種動物取扱業」を届け出なければならないが、平松さんによると、現在のシェルターでは「無届け」状態という。もし、そのままで活動しているならば、その点でも「違法にあたる可能性がある」(細川弁護士)という。
平松さんは「保護団体に規制が必要だと思います」と話した。細川弁護士は「動物の立場からすれば、一種(営利)も二種(非営利)も一緒。あまりにひどい事例が増えれば、二種を届出制から登録制にすることも検討しないといけない」と述べた。
ボランティアたちの中には、眠っているときに、猫の遺体の夢を見るなど、精神的にまいっている人も少なくないそうだ。シェルターに行くことが怖くなったり、心療内科に通ったり、ふだんの仕事にも支障が出ている人もいるという。
平松さんは4月下旬からSNS上で、この問題について世の中にうったえる投稿をつづけている。ほかのボランティアの多くも賛同している。彼女たちの願いは、猫たちをシェルターから救い出すことだ。
「『猫を助けたい』『殺処分ゼロにしたい』という考えから、A代表が保護活動をはじめたことは疑っていません。今のシェルターに移ってからも『悪意があるわけでない』と考えて、週4日ボランティアに入ったり、寄付したりして、支えてきたつもりですが、もう限界です」(平松さん)
「すでに定員オーバーで、病気の子がいるにも関わらず、A代表は猫の捕獲に行ってしまう。『捕獲中毒』だと思います。周りから『ありがとうございます』と感謝されるのが快感なのかもしれません。でも、たとえ熱意があっても、一匹一匹のケアができなかったら、虐待になる。このままだと、不幸な子たちが増えていきます」(堀越さん)
「絶対に、野良猫(外猫)のほうが幸せだと思います。A代表のシェルターは『猫の監獄』です。今回、猫の保護団体の闇を知りました。A代表に協力していたことを後悔しています。ほかのボランティアにも精神的なダメージが相当あります。まさかこういうことになると思ってボランティアをはじめたわけではありません」(市橋さん)
A代表は6月7日、弁護士ドットコムニュースの電話取材に対して、「猫は病院に連れて行っている」と真っ向から否定した。一方で、猫の死体が冷蔵庫に入っていたことや、今年に入って20匹以上が死んだとされることについては、明確な回答を避けた。主なやりとりは次のとおり。
――(ボランティアたちがおこなっている)SNS上の書き込みについて、取材したいのですが。
A代表:現在、専門家に依頼していますので、その方を通してのほうが良いと思っています。6月20日に「第二種動物取扱業」の届け出る予定です。その日に東京都動物愛護相談センターの職員が来ます。そのあとが良いです。
――今は届け出ていないのですか?
A代表:更新中なんです。シェルターの場所を変えたので、今度、(第二種動物取扱業の)手続きをするんです。古いところを終わりにして、新しいシェルターの手続きをする予定です。
――昨年夏、今の場所に移転されたと聞いたが、手続きはしていなかったのですか?
A代表:手続きは、保留中になっていて、(前の場所の)解約の手続きが済んでいなかったので、センターの方は「それが済んだら引き続きやりましょう」ということでした。
――届け出は「場所ごと」にするのではないでしょうか?
A代表:そこは、センターに確認していなかったんですが。
――猫は病院に連れて行っていますか?
A代表:もちろん連れて行っています。昨日も、夜間に病院に行きました。ボランティアさんたちは、自分が見たところしか話していません。その前後にストーリーがあるんです。いい加減なことは言えませんが、ちゃんと読んだら回答しようと思っています。ただ、感情論になっているという話になっています。
――冷蔵庫の中に猫の遺体があったという話も聞きました。
A代表:そのことはよくわかりませんが、ここ(シェルター)は私の家です。私の家のそのようなところを物色していること自体が驚きなんですよ。ボランティアさんは、あくまで掃除のために来てもらっていて、それで募集をかけているんです。
――ボランティアを出禁にしたんですか?
A代表:「来なくていい」というわけでなくて・・・私の落ち度なんですけど、ボランティアさんを雇うときに、名前や住所をちゃんと把握しないで、携帯メール上で「お願いします」とやっていたんですよ。
それで、「しばらくお休みしていただいて、またこちらからお声をかけたときに活動の意思があれば、お願いいたします」と順次言っています。最近来たばかりのボランティアさんにはそういうやりかたしています。
ボランティアさんを受け付けるにあたって、きちんとできていなかったというのがありますから、専門家を通して、やり方を検討しています。それができたら、またお声がけしようと思っていますが、その前に「やめます」と言われた人は仕方がないと思っています。
――なぜ今、専門家に相談している状況になっているのでしょうか?
A代表:私一人ではわからないので、そういう専門家にどういうふうにしたいいのか相談しているのです。正式なつくり方がわからなかったので・・・。
――正式なつくり方とは?
A代表:何かあったときのトラブルや、事故があったときのために、その人(ボランティア)の身元がわからなかったりしてらまずいからです。それにここは、私の家なわけですよ。自分の家と名前をボランティアさんに伝えて、自宅に来てもらっているわけです。プライバシー空間なわけです。カギをあずけて・・・。
――保護活動はされているわけですよね。
A代表:個人で、です。
――団体としてはやっていないのか?「(団体名)」ではないのでしょうか?
A代表:「(団体名)」ですけど、何か名称をつけないといけないからつけているんですよ。だいたい、みなさん個人のボランティアさん、そうやっている方が多いと思うんですけど。
――100匹以上もいたら「第二種動物取扱業」の届出は必要ですよね。
A代表:第二種の届出は「20頭以上」(ママ、正確には『10頭』)だったかな、飼育している人は「届け出てください」というかたちになっています。さらに譲渡目的の人は、「かならず届け出てください」ということになっています。
――届け出ないといけないということですよね?
A代表:条例上、絶対に届けないといけないということではないと思います。そうしないでやっている人も、私が知る限りいますし、絶対に届け出なければいけない、という都の規約ではないと思うんですよ。
――そうなんですか?
A代表:そうです。
――ボランティアから「今の状況は猫たちにとって、よくないので、改善しないんですか?」と言われていないのですか?
A代表:一人も言われたことがありません。ボランティアに来て、しばらくしてやめた方が、やめるときに言葉を残した人はいます。やめる人と一緒に協力してやることはないんだと思いましたが、改善できるところがあればしていこうと思っています。ただ、今現在いるボランティアさんで、私に言ってきた人は一切いません。猫のことで対立とか、猫のために活動しているのに、猫のことで、お互いがやり合うのは、本当は嫌なんですよ。
――今現在、改善すべきところはないのでしょうか?
A代表:それはわかりません。ただ、「ここはどうしますか?」と聞かれたことについては、「こうしてください」「それはあとでやっておきます」「今はしなくていいです」と答えたことがあります。作業の中でのことで、時間をつくって「これでいいんでしょうか?」ということはなかったです。
――話し合いの場をつくらなかったのですか?
A代表:私はそう思っていませんが、不満がある、不安があるということは、何も相談を受けたこともなければ、「集まって、話をしたい」と言われたこともありません。
――シェルターで病気が蔓延していると聞きました。
A代表:病気って、何の病気なんですか。たとえば伝染するパルボ(猫パルボウィルス感染症)のような子はいません。
――猫白血病の子はいないのですか?
A代表:白血病の子はいません。猫エイズの子はいますよ。2匹いますよ。お医者さんに見てもらって、発症していなくて、元気なんですけど。
――隔離はしていますか?
A代表:調子が悪かったりしないと、隔離していません。部屋は分けていますけど。「エイズの子は隔離しなくても大丈夫」という先生もいます。アドバイスは聞いています。
――今年に入って20匹以上死んだと聞きました。
A代表:そんなことは言っていない。あくまでも私に所有権のある猫です。里親が見つかるまでは、私の猫なんです。ボランティアさんはボランティアさんなんです。誰がそんなことを言っているかわかりませんが、みなさんに伝えていないことです。
――所有権があれば、猫はどうなってもいいのですか?
A代表:ボランティアさんと介護している猫は、「昨日亡くなりました」とお伝えてしています。
――猫の所有権があり、家も自宅だけど、二種の届け出はしていない、と。
A代表:法人ではありません。個人のボランティアです。ホームページにも法人とは書いていません。
――団体ではないのですか?
A代表:あくまで個人です。個人で、自分の財産と時間とエネルギーを使って、猫の保護活動しています。そこに志願してくれる人がいえれば、ボランティアをお願いしています。
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