かつてはWRC世界ラリー選手権のカレンダーにも組み込まれ、“カーブレイカー・ラリー”の異名を取ったアクロポリス・ラリーが、今季もERCヨーロッパ・ラリー選手権の第3戦として6月1~3日にギリシャのアテネ近郊で開催され、ポルトガルの実力派ブルーノ・マガラエス(シュコダ・ファビアR5)が、シリーズリーダーのアレクセイ・ルキヤナク(フォード・フィエスタR5)を破り今季初勝利をマーク。そうそうたる面々が名を連ねるアクロ勝者のひとりとして歴史に名を刻んだ。
通常2デイ・イベントを主とするERCでは変則的な3デイ開催となった伝統の“悪路”戦は、スーパースペシャルとなった金曜デイ1のマルコポーロ・オリンピック馬術センターのSS1から波乱の展開に。
ここまでシリーズ2連勝を決め、ポイントランキング首位を快走するロシアのルキヤナクが、わずか2.60kmのステージでパンクに見舞われ約12秒のロスタイム。最初のラリーリーダーの座をハンガリー出身のノルベルト・ヘルツェグ(シュコダ・ファビアR5)に譲ることとなった。
しかし、ここからが“ロシアン・ロケット”の異名を持つルキヤナクの真骨頂。続くデイ1最終のSS2で攻勢に転じたルキヤナクは、30.53kmのステージで2番時計をマークしたノルウェーのアーヴィン・ブリニルデソン(フォード・フィエスタR5)を44.5秒上回るスーパーベストを叩き出し、初日総合首位を奪還してサービスへと戻って来た。
「これはビッグ・サプライズだね。僕はいくつかのミスを犯したのに」と、SS2のタイムコントロールで笑顔を見せたルキヤナク。
「ステージのサーフェスは僕らにとって本当にクリーンな状況だった。前を走っていた数台より良かったと思う。ステージモードに入っていたし、スーパーSSではタイムを大きく失っていたので取り返す必要があったんだ」
このルキヤナクの解説はその後のドライバーには当てはまらず、ダストに苦しんだのは2017年ドライバーズランキング2位のブルーノ・マガラエスで、彼のファビアR5は視界不良とスリッパリーな路面に苦しみ、本人曰く「2、3度は」コースアウト寸前の危険なシチュエーションを回避して、なんとか初日総合4番手で終えることとなった。
しかし続くデイ2は、選手権首位ルキヤナクにとって試練の1日となり、オープニングのSS3こそ0.2秒差でベストタイムを記録したものの、SS4でアクシデントが発生。
ルキヤナクはコーナーに慎重なアプローチで臨んだにも関わらず、インサイドに潜んでいた岩に左フロントホイールを強打。これで彼のフィエスタはサスペンションを破損し、20分以上を失い万事休す。ステージ終了後にはマシン修復を優先し、最終日のスーパーラリーでの復帰に向けサービスへと直帰する決断を下すこととなった。
「今日のふたつ目のステージだったし、タイヤを労わりながら本当に慎重に走っていたんだ」と状況を説明したルキヤナク。
「僕には見えていなかったんだけど、クレスト越えのコーナーに岩が潜んでいたらしい。それでホイールがあらぬ方向を向いてしまった。マシンを止めて修復を試みたけど、結局は明日の再出走に向けてリペアに専念した方がいいという結論に至ったよ」
これで総合2番手を走っていたブリニルデソンのフィエスタが首位浮上と思われたが、彼のマシンもルキヤナクと同じステージでパンクに見舞われ、続けてインターコムに不調を来す不運に見舞われてしまう。
その後、バックアップの携帯電話による通信方法も絶たれたフィエスタのクルーは、コドライバーのベロニカ・エンガンのハンドサインでステージを走破。しかし、このトラブルによりタイムを大きく失う結果となった。
これで首位に浮上したのはマガラエスで、彼自身は戦略的な判断を下してペースを抑え、最大限の注意を払って走行。それでもこの日の6SS中で3ステージのベストを記録し、サービスへと帰還した。
「これは本当の意味でのサバイバルだ。WRCでも『アクロ(悪路)を制する者が、世界を制す』と言われる意味がよく理解できたよ」と、疲労感をにじませて振り返ったマガラエス。
「この日の午前のステージは本当にクレイジーだった。こんなステージはこれまでのキャリアで見たことがないレベルだったよ。セカンドステージをスタートしてすぐに、クルマでは到底乗り越えられそうにない大きな石や岩が、道の真ん中にゴロゴロ転がっていたんだ!」
「信じられない景色だったけど、僕らはときにマシンを止めて、それらの岩を避けるべくコースサイドに回避してクリアしてきた。それこそが戦略的な判断だった」
これで最終デイ3の4ステージを残し1分以上のリードを築いたマガラエスは、残るステージも同様の戦略でクリアし、29.1秒のギャップを残してフィニッシュランプに到達。WRC時代の勝者であるセバスチャン・ローブ、コリン・マクレー、ワルター・ロール、そしてカルロス・サインツといったビッグネームに名を連ねる、アクロポリス・ウイナーの称号を手にした。
2位にヘルツェグ、3位にポーランドのヒューバート・プタチェクが入り、シュコダ・ファビアR5が表彰台を独占。また、この最終日に再出走を果たしたルキヤナクは最終3SSで連続ベストをマークし、ボーナスポイントを手にしている。
続くERCの第4戦は、アクロポリスに続いて厳しいラフグラベルが舞台となるキプロス・ラリーとなり、6月15~17日の週末に国連管理地域のニコシア・グリークを中心に、わずかにターマック・ステージも含むミックス・サーフェスのイベントとして開催される。