ウイニングランを終えてホームストレート上にマシンを止めたダニエル・リカルドだったが、コクピットの中で溢れ出る涙は止まらなかった。その様子は、国際映像でもとらえられていたが、この日、リカルドはもう一度、人目をはばからず涙を流して始めた。それは記者会見での出来事だ。
表彰台に上がった3人の中で最初に記者会見場に入って来たリカルドは、中央のイスに座ると両肩を震わせて、少しうつむいた。優勝したドライバーが会見場で泣き出したことはあまり記憶にない。
だれも声をかけることもなく、静まり返った会見場。セバスチャン・ベッテルとルイス・ハミルトンがまだ到着していないため、会見も始めることができない。しばらくして、リカルドが顔を上げると、目の前にいた広報のスタッフを呼んで、抱きしめた。2年前、ここで悔し涙を流したリカルドを支え続けてきたスタッフのひとりだった。
会見を終え、長い長い世界各国のテレビ局の取材を終えてエナジーステーションに帰ってきたリカルド。真っ先に駆け寄ったのが、レースエンジニアのサイモン・レニーだった。
「こんな疲れたレースは初めてだ」というレニーは、28周目にMGU-Kがトラブルを起こすという絶体絶命の危機の中、さまざまなサポートを無線を通して送り続けた。
その後、屋上にあるプールに飛び込むというレッドブル恒例のイベントに参加。ずぶ濡れになって再び1階に戻ってきたリカルドを待っていたのが、オーストラリアからやってきた両親だった。
じつはこの写真は、両親との抱擁を終えてその場を立ち去ろうとしたリカルドを筆者が止めて、3人のスリーショットを撮らせてもらえないかとお願いし、リカルドがもう一度両親を呼んで撮影したものだった。2年前の挫折から立ち直り、人間としても大きく成長したことを感じたモナコGP初優勝だった。