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初登場1位は『デッドプール2』 「アメコミ映画不毛の地」でもなぜデップーは受けるのか?

2018年06月06日 16:51  リアルサウンド

リアルサウンド

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 先週末の映画動員ランキングは『デッドプール2』が、土日2日間で動員23万9000人、興収3億7500万円をあげて初登場1位に。昨年の『美女と野獣』以来となる7週連続1位という記録を打ち立てていた『名探偵コナン ゼロの執行人』は8週目にして動員8万7000人、興収1億2000万円と失速。しかし、既に累計では動員602万人、興収78億円。最終興収が80億円の大台に乗るのも確実な情勢となっている。


参考:食い足りなさに感じる不思議な魅力 『デッドプール2』は“思春期に帰れる”


 『デッドプール2』の数字をもう少し詳しく見ていこう。公開初日の金曜日は映画サービスデーとも重なった6月1日。金土日の3日間では前作『デッドプール』の113%となる動員37万1955人、興収5億3671万3800円を記録。と、ここまでみると絶好調にも思えるが、2年前の同じ映画サービスデーの6月1日(水曜日)に公開された前作は、週末までの5日間で動員49万6904人、興収7億1175万6100円という快挙を成し遂げているのだ。前作の最終興収は最終興収20.4億円。現実的な目標としては、今作も前作同様に最終興収20億円前後を見据えた興行となるだろう。


 それにしても、『デッドプール』はここ日本でもマーベル×ディズニー、DC×ワーナーと孤軍奮闘ながら肩を並べるアメコミ第三勢力として完全に定着したと言えるだろう。『デッドプール』と同じマーベル×フォックスのR15指定単独ヒーロー作品として昨年公開され、批評的にも興行的にも世界的には大成功を収めた『LOGAN/ローガン』の日本での最終興収は7.3億円。日本でも高い知名度と人気を誇るヒュー・ジャックマン主演作、しかも作品自体も大傑作だったのに、この程度の数字で終わってしまったことからも、いかに『デッドプール』シリーズが健闘しているかがわかるだろう。


 日本での『デッドプール』人気の理由としてはまず、これがマーベルの作品であり、『X-MEN』シリーズの1作でもあるにもかかわらず、独立した一つのシリーズとして観客から受け止められていることが挙げられるだろう。よく、ディズニーのMCU作品を人にすすめると、「でも、過去の作品も観なくちゃわからないんでしょ?」と返される。実際にはほとんどの作品は単独でも十分に楽しめるのだが、「アメコミ作品は予習が必要」という一般観客層における先入観は、想像以上に根深いものであることに気づかされる。一方、『デッドプール』シリーズだって作中にはマーベルだけでなくアメコミ諸作品への数々の言及はあるし、特に今回の『デッドプール2』はアメコミに限らず膨大な過去の映画の引用やパロディが張り巡らされているわけだが、作品の「軽いイメージ」をシリーズ1作目の段階から宣伝でうまく作り上げることに成功してきた。今回、通常はアメコミのシリーズ作品では嫌われる「2」というタイトルのカウントを、原題のまま堂々と邦題でも掲げているのもその自信の表れだろう。


 もう一つ、作品の魅力として「アクション」と「コメディ」という、多くの人がアメリカのエンターテインメント映画に期待しているものを作品の「売り」としてわかりやすく全面に押し出して、実際にそれが確実に提供される作品であるということも大きい。これはアメリカ国内も含む海外での『デッドプール』人気の最大要因でもあるのだが、クリストファー・ノーランによる『ダークナイト』シリーズ以降、アメコミ映画における決定的なトレンドとなった「悩めるヒーロー像」のカウンターとして、『デッドプール』の軽薄なテイストはまさに多くの観客が求めているものだった。そして、それは「悩めるヒーロー像」が描かれた作品群が他国と比べてそこまで爆発的にはヒットしてこなかった日本でも、洋画ファンの間で潜在的に眠っていたニーズを掘り起こすことになったのだ。


 ちなみに、先週末はトップ10圏外となったが、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』は先週末までの累計興収が36億2296万6200円。2012年に公開された『アベンジャーズ』の興収36.1億円を抜いて、日本のMCUシリーズ史上ナンバーワンの記録にようやく到達した。依然、海外におけるヒットの規模とはケタが一つも二つも違うとはいえ、来年春に公開される『アベンジャーズ』第4弾にしてフェーズ3と呼ばれる現在の一連のシリーズの最終作に向けての、最低限の地ならしはできたかたちだ。(宇野維正)