トップへ

BTS(防弾少年団)は新たな“アイドルファン活動”を根付かせた? 米ビルボード1位獲得の理由を分析

2018年06月06日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 5月に行われた『Billboard Music Awards 2018』にて、昨年に引き続き2回目のトップ・ソーシャル・アワードを受賞したBTS(防弾少年団)。今回のBTSへの投票割合は90%を越える結果となった。そして新作アルバム『LOVE YOURSELF 轉 ‘Tear’』のリードトラックである「FAKE LOVE」のステージを韓国よりも先に初お披露目という異例のカムバックとなった。


 また、その数日後27日(アメリカ現地時間)には、同アルバムがビルボード 200にて、アジア圏アーティストとして初、英語以外の外国語アルバムとして12年ぶりに1位を獲得したことが発表された。


 『LYS Tear』はスティーヴ・アオキや、The Chainsmokersのほとんどの楽曲の編曲を手がけているDJ Swivel、韓国でロングランヒットしているカミラ・カベロ「Havana」の共同製作者アリ・タンポジなどが参加。アメリカでの活動から生まれたコネクションを十分に生かしたと思われるコラボレーションを聴くことができる。欧米クリエイターとのコラボ曲は11曲中7曲と、割合的にも過去最多。楽曲はR&B的なメロディアスなものがさらに増えている。


 ビルボード 200チャートの初週獲得ポイントは13万5000ユニットで、内訳はフィジカル(CD)10万ユニット/SEA(ストリーミング)2万6000ユニット(3910万回換算)/TEA(音源ダウンロード)9000ユニット。目立つのはやはりフィジカルであるCD販売割合の多さだ。同日のチャートで2位だったポスト・マローン「beerbongs & bentleys」が1位を獲得した初週の獲得ポイントは46万1000ユニットだったが、内訳はフィジカル15万3000/SEA28万8000(4億3130万回)/TEA2万であり、ストリーミングの割合が一番多い(ストリーミングは同アルバムから合計1500回聴かれると1ユニット、DLは合計で10曲DLされると1ユニットに換算される)。


 アメリカでの音楽消費傾向はCDとDLが年々減る傾向にある一方で、現在はストリーミングがほぼ主流となっている。よって「一般的なヒットアルバム」のほとんどがストリーミングによって聴かれているのが現状だ。その状況下でのフィジカル販売量の多さは、そのままアイドルとしてのファンドムの大きさを反映していると言ってもいいだろう。『WINGS』(2016年発売のアルバム)のアメリカでの初週売上は1万6000ユニットでCD販売量が1万枚だったことを考えると、2年で10倍という驚くべき成長率と言える。


 以前こちらの記事でも述べたように、アメリカのKPOPファンドム、特にBTSのファンドムは韓国のアイドルファンドムのファン活動スタイルをそのまま継承している。特にアワード投票やチャートへの介入には非常に熱心であり、それがメインのファン活動とも言える。そのような支持を強く受けたアルバムがチャートの1位を獲得するということは、「KPOP」という音楽ジャンルを越えて「韓国のアイドルファンの応援方法」というカルチャーそのものが、アメリカに上陸して根づきつつある証と言えよう。


 一方、アルバムのタイトル曲である「FAKE LOVE」はPSYの「江南スタイル」(2012年)以降初めてHOT100のトップ10にランクインした。音源チャートであるHOT100上位にランクインすれば、一般層から人気を得ている楽曲、というイメージもあるだろう。しかし、その裏側では、アメリカだけでなく多くの海外KPOPファンも韓国のファンと同様スミン(リストで無限にストリーミングを回す行為。韓国のアイドルファンの間では一般的に行われている)を様々なアカウントで呼びかけて、実施されている(韓国のMelonチャートは24時間あたりの固有リスナー数がわかるようになっており、スミンが行われている曲はグラフで目視できる)。スミンの概念は、もともとアメリカには存在していなかったが、元来ビルボードチャートは「純粋な売上のランキング」ではなく「どれだけ聴かれて/見られているか」「話題になっているか」ということが重視されるチャートである。SNSでの盛り上がりや音源・YouTube等での回転数など、KPOPアイドルファンドムが力を入れるポイントと相性が良いと言える。


 「FAKE LOVE」は他のTOP10ソングとは決定的に異なる点があり、それはラジオで流された回数であるエアプレイポイント(ラジオ局リスナー100万人あたり1000DL換算)がないこと。ストリーミング やDL数に比べ、ラジオでかかった回数が極端に少ないのだ。


 ビルボードのKPOPコラムニストであるジェフ・ベンジャミン氏も以前韓国のアイドルメディア『idology』のインタビューで発言していたように、アメリカで「本当に一般的なヒット曲」とみなされるのは「ラジオでよく流される曲」である。通常TOP10にランクインするような曲は、ほとんどがRADIO SONGSトップ50にチャートインしており、今回のトップ10もBTS以外は全曲このチャートにランクインしている。BTSはその「一般的なヒット曲」に必須のラジオプレイポイントがないのだ。これはつまり、まだ現状ではインターネットをメインとしたマニア層がBTSを強く支えているという、あまり前例のないケースということだろう。逆を言えば、一般層からの支持が少なくとも、HOT100のトップ10に入れるレベルの強固なファンドムを、BTSはすでに獲得しているということでもある。


 しかし、前回のアルバム『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』(2017年)のリードトラック「DNA」を流したラジオ局は1局のみだったが、今回は初週だけで3局(オクラホマシティ62回/ヒューストン36回/ニューオリンズ22回)まで増えており、RADIO SONGSチャート内のPOP SONGSチャート40位圏内が見えてきている。そして韓国ファンのスタイルを受けついだアメリカのファンはチャート研究にも熱心であり、ラジオ局へのリクエスト運動も起きるようになった。前回唯一「DNA」を流した局は、iHeart Media傘下のKJYOオクラホマ・シティであり、今年のiHeart MediaアワードのBest Fan Army(BMAのトップ・ソーシャル・アワードと同じくハッシュタグで決まるファンドムアワード)は、文字通りARMYを擁するBTSが受賞した。今後、BTSはラジオエアプレイという最後の砦を攻略する余地が残っており、また、ファンドムに集まった注目が今後より広い層まで波及していく可能性も十分あるだろう。


 また、グループそのものや楽曲よりもファンドムに注目が集まっていた昨年と比べると、Pitchforkなどでは、BTSの楽曲制作やアルバムレビューに関する記事も見られた。また、Rolling Stoneでは、グループそのもののスタンスを解説する記事も出てきている。


 Rolling Stoneの記事は「BTSがKPOPのタブーを破った」という論旨であるが、実際、KPOPの歴史的には政治的・社会的メッセージが含まれる楽曲は珍しくなく、それを最初に始めたのは<SMエンターテインメント>だった。韓国では、こういったメッセージを発信していくスタイルはSMPと呼ばれており、長年廃れていたが、BTSの成功により復権したとも言える。韓国のアイドルやアイドルファンドムは元々社会奉仕に熱心であり、特に2014年のセウォル号沈没事故以降は、アイドルが社会的・政治的メッセージを表明することは珍しくなくなった。一方で、提供された楽曲をパフォーマンスするのではなく、自ら楽曲制作に参加するアイドルも増えてきている。つまり、現在の韓国アイドルの中で、BTSは特に異質な存在ではないのだ。


 韓国内での議論とは対照的な内容の記事が出ていることからもわかるように、米国ではまだKPOPをパフォーマンスしている「韓国のアイドル」そのものの実態についてはあまりよく知られていないということだろう。BTSをきっかけにこれらの文化的背景にもスポットが当たり始めたことで、今後米国内でのKPOPの取り上げられ方にも変化があるのではないだろうか。


 BTSのメンバーはファンのことをアルバム『WINGS』になぞらえて「僕たちの翼」と呼んだ。動力や燃料が足りていても、翼がなければ飛ぶことはできない。ARMYという翼に支えられたBTSはどこまで高く、遠く飛べるのだろうか。(文=DJ泡沫)