1コーナーでアウトから抜きに行く小林可夢偉(右)とインを守る野尻智紀(左) 5月27日に行われた、スーパーフォーミュラ第3戦SUGOがハンパなく面白かった。優勝争いの結果だけを追いかけてしまうと興醒めな展開となってしまったが、レースの内容は最高に面白かった。
今年から正式に採用された2スペックのタイヤ制(レース中にソフトとミディアム、2種類のタイヤを使用しなければならない)のフォーマットがスーパーフォーミュラを劇的に面白くしている。
今回のSUGOで言えば、予選上位のチームがソフト、予選中位以降のチームがミディアムタイヤを選択する傾向だった。そこにスタート時の燃料搭載量の違いが相まって、カオスを生み出している。そして、スタートから先のチームごと、ドライバーごとの戦略の違いが、コース上でのバトルを生み出した。
世界的に見ても、このクラスのトップフォーミュラで、コース上の激しいバトルが見られるのはこのカテゴリーしかないのではないだろうか。特に今回のSUGOでは、レースの原点とも言える見応えのあるバトルが展開された。
まず、ポールポジションを奪った野尻智紀(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)に小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)が襲いかかる。何度目かのアタックで、1コーナーのアウトから野尻と抜き去った可夢偉を、僕も1コーナーで撮っていた。アウトから抜くには1ラップ2~3秒速くないと抜けないのに、野尻はどうしたんだろうと思うくらい、綺麗なパッシングだった。
後日、野尻にそのことを聞くと、「僕は満タンで、可夢偉選手はおそらく15~20kg、燃料が軽かったんだと思いますので、抑えきれないですよ。もちろん、あの日の可夢偉選手は速かったですしね」と話してくれた。そこで初めて、戦略の違いもあり抜かれたとのことを知った。
そして、2ピット作戦を選んだ塚越広大(REAL RACING)。ライバルより1回多いピットインのタイムを稼ぐため、広大はソフトからソフトとタイヤをつなぎスピード勝負で優勝を狙いに行った。
その広大のパッシングの中でも圧巻だったのが、関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)とのバトルだ。何度か広大のパッシングを見てきて、その車両感覚と思いっきりの良さには驚かされてきたが今回もすごかった。おそらくタイヤとタイヤは、接触していたのではないだろうか。それも、お互いにダメージがない程度に。
普通、フォーミュラのバトルでお互いが当たってしまうと、アーム類が曲がってしまったりフロントウイングが破損したり、ダメージが大きい。ところが広大は、自分だけでなく相手のマシンにもダメージを与えず、ギリギリの見極めを高速バトル中にしている。おおよそ常人では考えられない見切りの良さだ。
他にも国本雄資(P.MU / CERUMO·INGING)と松下信治(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)のバトルも素晴らしく、SUGO戦はとても見応えのあるレースとなった。トップフォーミュラで、これほどたくさんのオーバーテイク、そして見事なレースを見られることは稀なことだと思う。
今回はレース中のクラッシュで出たセーフティカー導入のタイミングが悪く、本来上位で速く走っていたドライバーが表彰台に乗ることはなかった。僕個人的には、SUGOは可夢偉のレースだったと思っている。それほど、SUGOの可夢偉は少々のトラブルでも揺るがないほどの速さを見せていた。
そして、野尻も平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)も素晴らしい速さを見せていた。その速かったドライバー達が、誰もポディウムに現れなかったことは残念で仕方ない。
もちろん、勝った山本尚貴(TEAM MUGEN)も頑張った。ただ、レースなのだから、速く走ったドライバーが勝つべきだし、祝福されるべきだと思う。凄いレースだったのに、セーフティカーで分かれた結果だけが残念に思えたレースだった。