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モナコGPでポテンシャルをフルに発揮、着実な成長を見せるガスリー/トロロッソ・ホンダF1コラム

2018年06月05日 12:21  AUTOSPORT web

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2018年F1第6戦モナコGP ピエール・ガスリー
トロロッソ・ホンダのモナコGPは、100%完璧なものではなかった。しかしミスで上手く行かなかったロスを実力で取り戻したという意味では極めて大きな意味を持っていた。

 木曜にピエール・ガスリー車でアップデート型のバージボードとフロアを試し、その効果をデータ上で確認して土曜から2台ともに装着。マシンセットアップも上手く仕上げることができた。

「問題はフロントもリヤもなんだ。コーナーの入口ではリヤが少し足りないし出口でもトラクションがあまり良くない。でも中速コーナーでは少しウォッシュアウト(フロントが抜けて行ってしまう)してしまう。特にこういうサーキットではリヤがオーバーヒートしがちだし、セットアップの妥協点を見出すのは簡単ではないよ」

「リヤがオーバーヒートするからターン1や3~4でのマシンバランスと、例えば最終セクションのバランスが違ってくるんだ。その変化度合いがブレンドン(・ハートレー)のマシンの方が小さくて僕のマシンはまだその変化幅が大きいから、それをできるだけ小さくしようと努力しているところなんだ」

 そう語っていたようにガスリーは木曜の走行ではセクター1とセクター3でマシンバランスが異なるという不満を抱えていたが、データ解析とシミュレーションによって土曜の予選までにしっかりとセットアップを仕上げることができた。STR13に対する理解度が深まっている証だ。

「上海やバクーのようなあっちもこっちも問題だらけという状態ではなかったし、こことここを上げていこうという(問題点がハッキリしている)感じでした。ここはちょっと特殊なサーキットではありますけど、タイヤの使い方も含めてオフシーズンテストからの積み重ねでマシン、パワーユニットの使い方に対する理解が進んだことがそれに繋がっていると思います」(ホンダ・田辺豊治テクニカルディレクター)

 それだけにトロロッソ・ホンダは予選は本気で中団トップを狙っていた。



 0.9~1.0秒速いが左フロントタイヤのグレイニングが酷くライフが短いというハイパーソフトタイヤの状況では、決勝はウルトラソフトかスーパーソフトでスタートする方が戦略としては優れていることは明らかだった。だから無理をしてQ3に進んで10番グリッドに終わりQ2で使った中古のハイパーソフトでスタートするくらいなら、Q2で敗退し新品のウルトラソフトで11番グリッドからスタートする方が圧倒的に有利だった。

 それでもトロロッソがガスリーにフルアタックをさせQ3に進出させたのは、Q3で中団トップが狙える速さがあると自信を持っていたからだ。6番グリッドから決勝をスタートできるなら、そのトラックポジションを取ることはレースを優位に進めることに繋がる。

 しかしガスリーはトラフィックの影響もあったとはいえ1周をまとめきれず、プールサイドシケイン出口のイン側バリアに軽くヒットして縁石で飛び跳ねてしまった。これで中団トップの6位から僅か0.160秒差とはいえ、10位に終わってしまったのはチームにとって期待外れだったと言わざるを得なかった。

 ホンダの田辺テクニカルディレクターはこう打ち明ける。

「なんとかQ3にいければいいやというようなレベルのクルマでもなかったんです。タラレバでいうと、セクターベストを足すと良いところに行きますし、そこまでの計算は成り立たないとしてももう少し上には行けたはずですし、なんとかQ3に進んで10番手というよりももうちょっと上を狙っていたんです」

 予選11位のニコ・ヒュルケンベルグがウルトラソフト~ハイパーソフトという戦略で8位まで浮上してきたように、5周も走った中古のハイパーソフトでスタートしなければならないガスリーは実際には厳しい状況での決勝だった。しかし上位勢が20周弱でピットインして目の前のトラックポジションを取りに行ったのに対し、ガスリー陣営は大きくポジションを失うリスクを覚悟の上でステイアウトし、タイヤをできるだけ長く保たせる戦略に出た。

 巧みなドライビングでタイヤを37周も保たせ、ハイパーソフトでハイペースで走行し続けることでセルジオ・ペレスとカルロス・サインツJr.をアンダーカットし、フェルナンド・アロンソより18周若いタイヤで背後に迫り彼のトラブルで3つポジションを上げた。



 チームはマシンを最高の状態に仕上げ、ガスリーは最高のタイヤマネージメントで予選でのミスを挽回してみせたのだ。ブレーキングはロックさせないよう慎重に、ステアリングはできるだけスムーズに、立ち上がりのスロットルはジェントルにと気を遣いながらのドライビングだったという。

「予選ではフォース・インディアやマクラーレン、ルノーがかなりの接戦だったし、全員が0.1秒以内にひしめいているような状態だった。レース序盤では僕は速かったし、僕らのペースが良くてポテンシャルが高かったことは間違いないよ。マシンを上手く機能させられればペースが良いことは分かったんだ。今日だって6番グリッドからスタートしていれば確実に6位でフィニッシュする速さがあった」

「でも10番グリッドからスタートして7位でフィニッシュできたんだから、今日はこれ以上多くのドアを開けることはできなくても仕方ないよ。とにかくレースで7位争いをするのは12位や13位を争うよりも格段にエキサイティングだよ。僕自身もまだまだ毎戦学習していっている段階だし、マシンのフィーリングもどんどん気持ち良く走れるようになってきている。今後ももっと頻繁にこういうポジションが争えればと思うよ」

 モナコはストレートと回り込むような高速コーナーがなく、STR13向きのサーキットだったということも確かにある。しかしトロロッソ・ホンダがバーレーンGP以来久々にマシンパッケージのポテンシャルをフルに引き出すことができたことも事実だ。予選のミスを挽回するだけの実力があったことも大きかった。

「ここ数戦調子が悪かったですが、その原因を解析することによって全体像が見えてきて、ドライバーたちもエンジニアも、今回のタイヤマネージメントもそうですしいろんなことが見えてきたというところです。今日はレース全体の流れの中でマシンのポテンシャルをしっかりと表現してくれたと思います」(田辺テクニカルディレクター)

 トロロッソ・ホンダは着実に成長している。次のカナダはストレートが長いだけに楽な戦いにはならないだろうが、ドライバーたちは0.5秒分にもなるパワーユニットのアップデートに期待を寄せている。シケインやヘアピンなど低速コーナーからの立ち上がりもSTR13が得意とするところであり、パワーが追い付いてくればトロロッソ・ホンダはカナダGPでも好走を見せてくれるかもしれない。