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杉咲花、『花のち晴れ』ヒロイン役を好演! 周囲のキャラを際立たせる“媒介”としての演技力

2018年06月05日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『花のち晴れ~花男 Next Season~』に主演している杉咲花。今作は、『花より男子』の続編として、F4の卒業後、落ち目になった英徳学園を舞台としており、杉咲は、「元社長令嬢で現在は庶民」の江戸川音を演じている。


 さらに、音をめぐって争うのが、英徳学園のかつての栄光を取り戻すべく“庶民狩り”をするC5のリーダー・神楽木晴(King & Prince 平野紫耀)と、音の婚約者であり、英徳学園を猛追するライバル校・桃乃園学園で生徒会長を務める馳天馬(中川大志)の2人である。


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 ところで、杉咲花といえば、映画『湯を沸かすほどの熱い愛』で第40回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞・新人俳優賞を受賞した“演技派女優”としてよく知られている。TBSドラマ『夜行観覧車』では、受験失敗後、母に暴力をふるうなどの豹変ぶりを鬼気迫る演技で見せ、視聴者を圧倒。朝ドラ『とと姉ちゃん』(NHK)の末っ子役では、別人のように全く違う表情を見せてくれた。


 しかし、なんといっても個人的には岩井俊二企画・脚本のドラマ24『なぞの転校生』(テレビ東京系)で見せた、異世界の姫・アスカの姿が忘れられない。まだあどけなさの残る顔立ちと小さな体に似合わぬほどの威厳と誇り高さ、毅然とした態度と優雅な物腰には「異世界の姫」が説明不要に体現されていた。


 だからこそ、正直、『花晴れ』の江戸川音の「元社長令嬢」感のなさには、最初、どうしても違和感が拭えなかった。もともとお金持ちだった過去を感じさせるのは、コンビニバイトで発覚した「雑巾の絞り方などを知らなかった」などのエピソードくらい。髪型や浅黒い肌、愛嬌ある歯並びのせいかとも思ったが、『なぞの転校生』の気品ある姫の姿を思い出してしまうと、どうにも腑に落ちない。


 また、ベタな三角関係の少女漫画原作ドラマにおいて、はたして演技力は必要なのかとも思った。しかし、回を重ねるにつれ、「音」という存在を介在して、ライバル関係の2人、晴と天馬のキャラが際立ってきているのだ。


 もともと子役出身の中川はともかく、平野はジャニーズ枠のドラマや舞台に出ていたとはいえ、まだまだ演技経験は浅い。そのため、序盤2話くらいまではたどたどしさや、セリフの聞き取りにくさが気になったが、回を追うごとに「単純で、ヘタレで、コンプレックスを抱きながらも、いつも一生懸命で、優しい」キャラがナチュラルに、魅力的に光ってきている。


 また、「王子様」的で完璧な天馬の嫉妬心や自信のなさ、脆さ、人間らしさが生々しく匂い立ち始め、キャラクターに奥行きが出てきた。いずれも平野、中川本人の成長・力量による部分はもちろんあるだろう。しかし、彼らの変化には、“媒介”となっている音の演技力が確実に影響していると思われる。


 というのも、音の笑い方、怒り方、失意、不安などの表情や目の配り方、話し方や話すスピード、語気の強弱などの微妙な差によって、晴と天馬という2人のキャラクター像や、音との心の距離感などが明確にわかるからだ。


 コンビニの同僚(木南晴夏)を侮辱されたときに晴に向かって激怒した音の表情には、「怒り」しかなかった。「好きな人に対してこんな顔をするものかな」と思ったが、そこではそれが正解だったのだろう。そこから音の表情はぐんぐん変化していく。


 天馬を思うときの「ちょっと壁のある、穏やかで優しい愛」と、本人も自覚していない「晴といるときの思わずニヤけてしまう楽しさ・トキメキ」の対比が、セリフがなくとも、残酷なまでによくわかる。


 だからこそ、晴と天馬、さらに晴を思いつつ、音と友人になり、見守っている愛莉(今田美桜)も、晴に対して真っすぐ思いをぶつけてくるメグリン(飯豊まりえ)も、みんな一生懸命でいじらしく見える。にもかかわらず、肝心の音だけが「恋愛偏差値の低さ」と「鈍感力」によって、みんなをかき回しているように見えてしまうのだろう。


 最初は「ベタな少女漫画原作に演技派は必要なのか」と思ったし、「演技派の杉咲花に、学園モノのキャリアは必要なのか」とも思った。しかし、ベタな物語だからこそ、真ん中にいるヒロインの演技力によって、細かなセリフや演出がなくとも、周囲のキャラがどの場所にいて、どこを向き、誰を思っているのかが明確にわかる。


 「わかりやすい物語をわかりやすく見せる」上でも、杉咲花の非凡な才能は発揮されている。


(田幸和歌子)