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産経の「謝罪なき訂正」にあきれる植村隆氏「報道や論評は事実に基づくべきだ」

2018年06月04日 18:12  弁護士ドットコム

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産経新聞に掲載された事実に反する記事で名誉を傷つけられたとして、元朝日新聞記者の植村隆氏(60)が記事訂正を求めて民事調停を東京簡裁に申し立てていた問題。産経新聞が6月4日付紙面で訂正記事を掲載したことを受け、植村氏と代理人が同日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見した。


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植村氏は会見で、「事実に基づかない慰安婦報道を正すという点で、前進があった」と一定の評価をする一方、産経新聞から謝罪がなく、また訂正記事のなかで根拠に基づかない主張を載せているとして、今後も問題点の追及を続ける考えを示した。


代理人を務める吉村功志弁護士によると、民事調停はまだ続いている。吉村弁護士は「こちらから、今回のことについて釈明を求めていくが、『訂正を出したのでこれ以上は』ということで不調(調停が整わない)になる可能性が高い」と述べた。


●「だまされたという記載も、売られたという記載もない」

植村氏が訂正を求めていたのは、櫻井よしこ氏による「美しき勁き国へ『真実ゆがめる朝日報道』」(2014年3月3日付の産経新聞紙面に掲載)という記事の一部。記事のなかで櫻井氏は次のように記し、植村氏を批判していた。


「91年8月11日、大阪朝日の社会面一面で、植村隆氏が「『女子挺身隊』の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた『朝鮮人従軍慰安婦』」を報じた。この女性、金学順氏は後に東京地裁に裁判を起こし、訴状で、14歳で継父に40円で売られ、3年後、17歳のとき再び継父に売られたと書いている」


一方、記載のもととなった「訴状」(http://www.awf.or.jp/pdf/195-k1.pdf )には、金氏が養父にだまされたという記載も、誰かに売られたという記載も確認できないという。このため、植村氏は「訴状にないことを、あたかも訴状にあるかのように書いて、私の記事を批判している。それは故金学順さんの尊厳を冒涜し、名誉を毀損すること」だと指摘していた。


産経新聞が今回訂正したのは、上記の「この女性」以降の部分だ。正しくは「平成3年から平成4年に発行された雑誌記事、韓国紙の報道によると、この女性、金学順氏は14歳のときに親から養父に40円で売られ、17歳のときその養父によって中国に連れて行かれ慰安婦にされたという」だと訂正した。


●櫻井氏「率直に改めたい」、産経は訂正に応じてこなかった

植村氏側は2016年7月および同年9月、産経新聞社に訂正を求めていた。回答がなかったため、2017年3月、改めて訂正と損害賠償金の支払いを求めたところ、「当社は、各種資料からも、『家族による人身売買の犠牲者であること』は明確に裏付けられていると認識しております」などとの反論があり、訂正を拒否されたという。


ちなみに、記事を執筆した櫻井よしこ氏は2016年4月22日、札幌地裁での名誉毀損訴訟後の会見で、「訴状にそれが書かれていなかったことについては率直に改めたい」と述べたという。このため植村氏は、「執筆者自身が訂正すると述べているのに、掲載者の相手方(産経新聞社)があえてこれを拒絶する理由が見当たらない」と主張していた。


植村氏は「報道や論評は事実に基づくのが報道機関のルールだ。単に植村個人の問題ではなく、ジャーナリストが、違う狙いをもった『ジャーナリスト』に後ろから攻撃される危険な時代になっている。私の娘は『殺す』とまで脅迫された」と述べた。


(弁護士ドットコムニュース)