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キミノオルフェ、1stアルバム試聴会レポ 蟻「すごく大好きなアルバムができた」

2018年06月03日 17:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 キミノオルフェの1stアルバム『君が息を吸い、僕がそれを吐いて』(6月4日デジタルリリース)の先行試聴会とトークイベントが、5月31日にSpincoaster Music Barで開催された。


 今回のイベントでは、最先端のハイレゾ音源が体験ができる同会場でアルバム全10曲を試聴したのち、キミノオルフェ・蟻とプロデューサーの津倉悠槙氏によるアルバム制作に関するトークが約1時間ほど行われた。本稿ではその模様をレポートする。


(参考:DAOKOの声はなぜクリエイターを魅了する?


 アルバム試聴会が始まる前、参加者全員に真っ白いカードが配布され、「試聴中、それぞれが気になった歌詞を書く」という課題が出された。言葉を大切にするキミノオルフェらしい提案に、試聴する側も一層の気合が入る。高音質のアルバムに酔いしれながら、会場は静かながらもライブに似た一体感に包まれた。


 試聴が終わると後方の扉からタイミング良く蟻が登場。「扉の外でアルバムを聴きながら終わったタイミングで入ってきた」と、会場を和ませた。蟻は「すごく大好きなアルバムができた」と率直に語り、「(アルバムが出るまでの)2年間は必要だった、出す出す詐欺にも愛想をつかさず待ってくれてありがとう」とファンに対する感謝を示した。


 2016年2月6日に前のバンド・蟲ふるう夜にが活動停止し、4カ月後の同年6月4日(蟲の日)がキミノオルフェのファーストライブだったエピソードからトークはスタート。バンドの活動停止から毎日吐くように曲を作っていたと語る蟻は、「休憩するとひとりの寂しさに泣いちゃいそうだった」と本音をこぼし、たった4カ月で10曲以上を制作したことを明かした。その期間、ファーストライブを中止にするという論議も交わされるほど追い詰められていたというエピソードも。「私、ストレスに弱いんです」と照れくさそうに笑った。


 アルバムの中で一番思い入れが強い楽曲は「虫ピン」だという。「変態チックなピアノと完成されたトラックに、バトルを仕掛けるような気持ちで詩をのせていった。グロテスクだけど美しくて刹那的な所が気に入ってる」と微笑む。「歌詞がすごい」と蟻は語るが、この可愛らしい笑顔からあの歌詞が生み出されるのかというギャップもすごい。


 今回のアルバムは、さまざまなトラックメイカーとコラボをし、新しいジャンルや音を取り入れ、今までとは違うテイストに仕上がっている。「バンドを辞めるからには、違うものを作らないとメンバーに失礼。曲を作る時はアプローチを変えるという約束を自分の中でしている」という強い信念が制作の原動力となったようだ。


 また、トークイベントには、蟻が新たに才能を開花した“MV監督”としての話や、「バックパック」のMVに出演した現役高校生俳優・川口和宥、「虫ピン」のトラックメイカー・ioniがサプライズで登場し、当時のエピソードを披露。トークの後半では、配布されたカードに書いた歌詞をもとに参加者が質問を投げかけ、蟻が一つひとつの歌詞にこめた想いを語りだす。蟻らしい独特な表現については、津倉氏が分かりやすく通訳するシーンも何度か見受けられ、会場は終始楽しい笑いに包まれていた。


 トークイベントの最後、蟻は「疑うことから信じることへのグラデーション」をアルバムのコンセプトにしていると語り、アルバムタイトルである『君が息を吸い、僕がそれを吐いて』については、「気持ちがいっぱいいっぱいになると呼吸が止まる時があるけど、あなたが吸った息を私が吐いて、世界が回りだしたらいいなという願いをこめてタイトルをつけた」と、蟻らしい言葉で締めくくった。


 トークイベント終了後、蟻が参加者のカードにサインを綴りながら、全員と丁寧に言葉を交わしていた。「あなたの物語を紡いでいく存在になろうと決意してキミノオルフェという名前を背負った」と語っていた蟻は、一人ひとりの物語を大切にしているのだろう。参加者が書いたお気に入りの歌詞を自身のスマートフォンで一枚ずつ嬉しそうに撮影していた姿がとても印象的だった。(鈴木美志)