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地上波ドラマとの違いとは?  『会社は学校じゃねぇんだよ』P陣が語る、AbemaTVならではの強み

2018年06月02日 12:02  リアルサウンド

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 AbemaSPECIALチャンネルにて放送中の、AbemaTV開局2周年記念オリジナル連続ドラマ『会社は学校じゃねぇんだよ』が、若者を中心に大きな注目を集めている。三浦翔平が連続ドラマ初主演を務める本作は、金もなければコネもないが、夢だけはでかい主人公・藤村鉄平(三浦翔平)が、地の底まで落ちても這い上がり、夢のために邁進する、ベンチャー企業の奮闘を描いたリベンジサクセスストーリーだ。


参考:三浦翔平主演『会社は学校じゃねぇんだよ』がアツい! 超現代的なドラマの根幹にある熱量の高さ


 今回リアルサウンド映画部では、本作のプロデューサーであるメディアミックス・ジャパンよりAbemaTVに出向中の神通勉氏と、AbemaTVの編成制作本部制作局長で本作のプロデユーサーにも名を連ねる谷口達彦氏にインタビューを行った。ドラマの制作背景から、視聴者からの反響、そして地上波ドラマとの違いなどについて語ってもらった。(編集部)


――この『会社は学校じゃねぇんだよ』というドラマは、そもそもどんな発想からスタートしたドラマなのでしょう?


谷口達彦(以下、谷口):このドラマのアイデア自体は、もともと社長の藤田(晋)から出ています。AbemaTVのオリジナルドラマのコンテンツに関しては基本的に藤田が決めているのですが、そこで「ベンチャー企業を題材としたドラマをやりたい」という話が藤田のほうから出て。これまでの日本のテレビドラマで描かれていたベンチャー企業の社長というのは、比較的ビッグマネーみたいなものに寄っていきがちでしたが、本当のネットベンチャーの社長というのは、全然そんなことはなくて。自分たちで作れば、そのあたりのリアリティを、ちゃんと出せるのではないかという話になり制作に向けて進んでいきました。


――医者が医者ドラマを作ったり、刑事が刑事ドラマを作ったりするように、ベンチャー企業の社長がベンチャー企業のドラマを作ろうと。


谷口:そういうことになりますかね(笑)。


――といった話を受けて、本作のプロデューサーである神通さんは、どのようなドラマにしていこうと?


神通勉(以下、神通):僕のところに話がきたときは、鈴木おさむさんが脚本を書き、三浦翔平さんが主演を務めるといったように、ある程度その枠組みたいなものは整っていました。『渋谷ではたらく社長の告白』という藤田社長の本をもとにドラマを作るということで、あの本自体すごく面白い本ですし、起業することで降りかかってくる厳しい現実や孤独と絶望など、ドラマにしたらきっと面白いものになるんじゃないかとは思いました。そういう期待感とワクワクがあったので、そこを第一に作っていければいいなと思っていました。


――神通さんは、『特命係長 只野仁』(テレビ朝日系)シリーズなど、これまで数多くの地上波ドラマに関わってきましたが、今回はAbemaTVというインターネット放送局のドラマということで、何がいちばん違いましたか?


神通:地上波との違いというところで言えば、ターゲットの違いがひとつ挙げられるかと思います。地上波のドラマは今、テレビをよく観る上の世代向けのものが多く、刑事・医者・弁護士などを主人公としたものが多いので、ダイレクトに若者に向けたドラマって、実はあまりないんですよね。そもそも若者層が、あまりテレビを観なくなったという背景があるからだとは思うのですが、若者向けをやっても視聴率が取りにくいので、どんどん上の世代向けのものになっていくという。そういう風潮があるなかで、AbemaTVの場合は、明確に若者向けのドラマをやりたいという話だったので、そこは大きな違いですかね。


――実際にドラマを制作していくなかでの、違いみたいなものは感じましたか?


神通:何よりもまず、自由度が高いことです。それこそ、今回の『会社は学校じゃねぇんだよ』の場合、1時間の放送枠があってそのなかの本編の放送尺って、実は明確には決められてはいません。大体30分から40分のあいだで本編を作って、そのあと『まだまだ終わりじゃねぇんだよ』というタイトルで出演者たちが登場する現場裏トークの番組を放送して、トータルで1時間になっています。地上波の場合、CMのタイミングも含めて、どうしてもあらかじめ枠が決まってしまっているので、脚本の段階からその枠にはまるものを作らなければならないし、編集に関してもそうです。そういったどうしても制約が多くなってしまうものと比べると、AbemaTVの自由度は非常に魅力的でした。


――プロデューサーとしては、ここはこだわったという点はどこでしょう?


神通:今回のドラマで言ったら、タイトルにもなっている、この「会社は学校じゃねぇんだよ!」という、三浦翔平さんが毎回劇中で決め台詞として使うフレーズですね。そこは非常に重きを置きました。その台詞を、どんな文脈のなかで、どう言わせるのが、いちばん違和感なく、なおかつ物語のなかで効果的に響くかっていう。それについては、脚本の鈴木おさむさんや、監督の藤井道人さんも含め、毎回いろんな議論をしていました。物語の最初の頃は、明確な敵みたいなものがいて、それに対して三浦さんがその台詞を言ってスカッとする感じだったのですが、後半にいくにつれて、いろんなバリエーションを持たせたりしているので、そこはちょっと注目していただきたいところですね。


――毎回、同じ台詞であるにもかかわらず、物語の進展に伴い、そのニュアンスがちょっとずつ変わっていくのが面白いと思いました。


神通:そうですね。全8話あるなかで、最初の4話までが「第1章」で、そこから2年の時間経過があって第5話から後半戦に突入していく感じなので、そういう意味では、三浦さんの役作り的にも、その2年のあいだに何があったのかが大事になっています。最初は勢いだけで、起業とかビジネスのこともわからなかった三浦さん演じる「鉄平」が、2年のあいだに死ぬ気で勉強して、ビジネスのこともいろいろわかってきたという、その成長みたいなところも見せたいと思っています。あと、会社が大きくなっていくにつれて、社内でのすれ違いみたいなことも出てきますし、社長という立場の孤独感みたいなところも描きたいところではありました。三浦さん演じる「鉄平」というのは、それを踏まえながらのキャラクターになっていると思います。


――三浦さん演じる「鉄平」という主人公の人物造形は、本作のキーになっていますよね。ある意味、責任重大というか。


神通:そうですね。鈴木おさむさんと三浦翔平さんは、以前『奪い愛、冬』(テレビ朝日系)というドラマでもご一緒されていて、そこで三浦さんは、キレるシーンで「怪演」に近いような演技もされていて、話題になっていました。三浦さん自身、俳優として、かなり振り切ったお芝居をされていて。三浦さんのそういう面は、今回のドラマでも活かされていて、若い人たちにも、かなり刺さるのではないかと思っています。もちろん、全部が全部そういうお芝居ではないですが、一発パチンとスイッチが入ったときに、決め台詞を言って、バシッと啖呵を切るみたいな。そういうところはやりたいなと思っていて、逆算して作ったみたいなところは、ちょっとあるかもしれないですね。


――このドラマの原案は、藤田社長となっていますが、物語の前半部であるインフルエンサー事業の話など、現在サイバーエージェントのグループ企業であるWAVESTの代表取締役社長・松村淳平さんの話も、ちょっと混じっていますよね。


谷口:確かに藤田の書籍を原案にしているという点に加えて、新卒1年目でWAVESTを立ち上げた松村の話も混じっています。元々「会社は学校じゃねぇんだよ」というフレーズは、4年前に少しバズった彼のブログのタイトルなんです。そこで彼が、学生気分の抜けない同期に対する苛立ちを綴っていて。このドラマの主人公は、藤田と彼の一部分を掛け合わせたような設定になっているのですが、それはどちらかと言うと、リアリティの追求みたいなところが大きいです。たとえば今、先見の明があってネット広告代理店事業をやりますと言っても、全然タイムリーではないですよね。もっと厳密に言うと、インフルエンサー事業というのも、今はそれほど目新しくはないというか、すでにレッドオーシャンになっていて、その次のステップに進まなければならないようなフェーズに入っています。ただそうやって、インフルエンサー事業を立ち上げた若者が、そこからさらに化けるというストーリーであれば、今も十分にあり得る話かなとは思っていて。だから、ドラマの最初の設定としては、今から3、4年前とか、それぐらいに合わせています。


――なるほど。ドラマの後半部分は、藤田さんの本とリンクする部分が多いような気がしますけど、そもそもこのドラマは、藤田さんの伝記ドラマではないという。


谷口:伝記ドラマではなく、その「思い」――「21世紀を代表する会社を創る」という「強い信念」や「起業するということ」に関してのリアルな描き方は、基本的に藤田の書籍をベースにしているのですが、そこで実際何をやっていくのかというところは、ドラマとしての今の時代に合わせたアレンジをしています。そこはやはり、今の若者にちゃんと届けたいという思いがあるからです。


――過去の話ではなく、現在進行形の話というか……そういう意味では、立身出世物語でありつつ、今の若者たちの青春群像を描いたドラマにもなっていますよね。


神通:そうですね。「鉄平」と一緒に会社を立ち上げた「火高(早乙女太一)」であるとか、その後合流する「華子(宇野実彩子(AAA))」など、その辺りの人間ドラマというのは、実際会社を作っていくなかでもあることでしょうし、そこをちゃんと描きたいというのはありました。5話からは後半の第2章となっているのでまた一段上がったなかで、非常に濃い人間ドラマが展開していきます。


――先ほど谷口さんが、ベンチャー企業のリアリティを出したかったと言っていましたが、具体的にはどんなところに留意したのでしょう?


谷口:ベンチャー企業の社長と言っても、別にバブリーな感じではなく実際起業して、その事業が上手くいっていたとしても、ベンチャー企業の社長って、実は全然お金を持っていなかったりします。それこそ、新卒の給料と、そんなに変わらない人もいるかと思います。そういうところが、今までのドラマでは割とデフォルメされて描かれることが多く、メディアのフィルターを通すと、どうしてもそういうきらびやかな若手社長のイメージが作られがちなんですけど、実際、そんなことないよねっていうのが藤田の実体験としてもあって(笑)。華やかな印象はあるけど、実際はこのドラマにもあるように、寝袋持参でずっと会社にいて働いていたりするのでそういう部分を描いています。あと、このドラマは、起業から上場までを一気に駆け上がっていくサクセスストーリーになっているわけですが、その過程で起きる障壁というのは、脚本を書かれている(鈴木)おさむさん自身、スタートアップやインターネット界隈の動向とかに詳しかったり、実際に藤田とも話しながら、いろいろやり取りして作っているところがあって。なので、起きている現象のリアリティに関する議論は、すごくなされていると思います。


――そのあたりは、綿密な打ち合わせのもと、生み出された物語であると。


谷口:物語というか、その素材ですよね。ネットベンチャーの各ステップにおける気持ちや状態みたいな素材を、藤田のほうから(鈴木)おさむさんのほうに、かなり出ていたので。で、その素材をもとに、脚本を書いていったという。


――素材といっても、過去の事例とかではなく、そこで生じるエモーションの部分に焦点が当てられているように思いました。


谷口:そうですね。オフィスで働く社員のファッションなどは、実際にIT企業で働く我々を見ながら作っていった部分もありますけど、脚本でグッとくるポイントというのは、エモーショナルな部分かもしれないですね。藤田自身、このドラマを観て、起業する若者がもっと増えてくれたら嬉しいみたいなことは、もともと言っていましたので。そういう「熱」みたいなものは、すごく入っているドラマだと思います。もちろん、上場であるとか、その先の企業成長で得られる満足感や、その結果としてのお金みたいなものはありますが、いわゆる一攫千金みたいな話ではないです。それよりも反骨精神とか、仕事に熱狂する若者たちの物語であるというところなんだと思います。


神通:実際は、一攫千金的なステレオタイプで描いたほうが、画面的には面白いかもしれないですけど、そこはやはりリアリティ重視で、安っぽい話にはしたくなかったです。これから終盤に向けて、かなり波乱の展開になっていきますが、「鉄平」自身に一個、すごく軸があり、「21世紀を代表する会社を創る」という思いのもと、全部行動していくので。観ていただければ、視聴者にも納得してもらえるもの、ちゃんと伝わるものがあるのではないかと思っています。


――このドラマで面白いと思ったのは、若者たちを主人公とした新しいビジネスを描きながらも、ところどころベタというか、人間臭い部分をちゃんと描いているところでした。


神通:もともと友情とか夢というのが前半部の大きなテーマですし、その部分は昔から変わらない王道的なものなので、その芯の部分は変えずに……もちろん映像などは、スタイリッシュなものを意識してつくっています。今回は、制作プロダクションにROBOTさんに入っていただき、31歳とまだお若い藤井道人監督に撮っていただいているので、そこはきっちりスタイリッシュな画にしてもらいつつ、決めるところはわかりやすく決めています。自分で言うのも何ですけど、そのあたりのバランスは、結構上手くいったかなって思っています。


――放送後の反響については、いかがですか?


谷口:Twitterをはじめ、各SNSの反響というのが、ひとつダイレクトに誰でも見ることのできる反響としてありますが、そのひとつひとつを見ていくと、史上稀に見るほど絶賛の嵐なんです。基本は賛否両論あって、揚げ足取りたい人や酷評する人がいて成り立つものだと思うのですが、実際に観てくれた人たちの「思わず感想を書かずにはいられない」みたいな気持ちが、すごく前面に出ていて。それはすごく嬉しいことです。今のところ、放送済みのものは全てYouTubeのAbemaTV公式チャンネルにアップしているのですが、「感動した」とか「まわりに勧めています」、「ホントその通りだわ」みたいなコメントが多くて。決め台詞である「会社は学校じゃねぇんだよ!」を、パロディみたいに使っている人がいたりするのも嬉しいです。


神通:SNSを見ていて嬉しいなと思うのは、「イッキ観した」っていう声が、非常に多いことですね。やはり、我々としても、それは尺についてもそうですし、観やすさとかテンポ感といったものなど、いろいろ工夫してやってきたところがあるので。あと、このドラマを観て「やる気が出た!」とか「頑張ろう!」みたいな気持ちになってくれている人が、すごく多いことですね。それは、作り手である我々としても、非常に嬉しいことではあります。


――思いがけない反響、想定外の反響みたいなものもありましたか?


神通:そうですね……あまりないですけど、ドラマの前半部で、「鉄平」、「火高」、「華子」の三角関係みたいなことを、ちょっと匂わせているんですけど、その部分は予想以上の反応がありました。やっぱりみんな、恋愛模様に、興味あるんだなっていう(笑)。「華子」ファンみたいな方も、たくさんいてくださるようですし、それぐらい感情移入して観てくれているのは、すごく嬉しいことです。


――「華子」と言えば、先週放送された第6話で衝撃の展開が……。


神通:多くの視聴者の方から「衝撃的すぎる・・。」「思わず涙した。」などの反響が寄せられました。今回の展開によってまた、いろんな人間ドラマが巻き起こりますし、前半部分の三角形関係的な展開も、今後どうなっていくのかというところに加えて、さらに新しいビジネスの話が絡んできます。ちょうど先日、まだ音楽とかも入ってない状態で、7話、8話を観たのですが、僕は号泣しましたから。


――あ、そういう展開に。


神通:具体的な内容は言えないですけど、それを観たスタッフたちは、みんなそういう感じになっています。最終的には、泣ける話になってくるという(笑)。


――では最後、視聴者に向けて何かひとつメッセージを。


神通:やはり、このドラマの場合、まずは観てもらうということが非常に大事だと思っています。地上波のテレビと違って、わざわざ観にきてもらわないといけないので、とりわけ第1話は、そこを非常に重視して作っているので、まだご覧になっていない方は、とりあえず第1話を観てもらいたいです。先ほど谷口が言ったように、放送済みのものは、全部YouTubeのAbemaTV公式チャンネルにアップされているので。実際、第1話を観てハマったという人も非常に多いので、それを観ていだければ、若者たちの熱い思いとか、夢に向かっていく志、すごく嫌な敵がいて、そいつをぶっ倒していく痛快さなどを、きっと感じでいただけると思います。まずはぜひ第1話を観てみてください!


――これから終盤にかけて、さらに盛り上がるようですし、やはり最終回はリアルタイムで視聴したほうが……。


神通:そうですね。AbemaTVの良いところのひとつは、みなさんのコメントがリアルタイムで出てくるところです。ひとりで観ていても、きっとネットを通じていろいろ盛り上がれると思うので、そういう臨場感みたいなものは、是非味わってもらえればと思います。(取材・文=麦倉正樹)