2018年06月02日 10:22 弁護士ドットコム
女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」の運営会社スマートデイズが経営破綻した問題で、物件所有者(オーナー)の大半に多額の融資をしたスルガ銀行について、複数の行員が融資審査の書類改ざんに関わったとして告発状が警視庁に提出されている。
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オーナー側を支援する弁護団によると、融資基準を満たすためオーナーの預金通帳のコピーに手が加えられ、残高1万円のところ3000万円に水増しするなどの改ざん行為が確認されたという。スルガ銀行の「貸し手責任」がどのように問われるか、注目されている。
一方、この問題が明るみに出るにつれ、ネット上などでは、「そもそもその程度の残高でどうして借りるのがおかしい」「借りた側の責任はないのか」といった指摘が出ている。弁護団は5月22日、「オーナー側は改ざんを知らなかったのか」との記者の問いに対し、「偽造された数字を見せられたという例はない」(河合弘之弁護士)と答えた。
借り手側の責任についてどう考えるか、みずほ銀行に約17年勤務した経験をもつ天野仁弁護士に聞いた。
ーー融資の責任はどう考えられますか
「本来、融資取引では、貸し手はお金を貸し付ければ責任を果たしたことになり、あとは借り手側の返済の責任だけとなります。しかし、本件での責任論はそれとは異なります」
ーーどういうことでしょうか
「本件では、オーナー側の弁護団は、スルガ銀行がスマートデイズと組んで、『シェアハウスへの投資によって借入金を十分返済できるだけの収益が上がる』という内容の虚偽の事業計画を提示して、オーナーを騙して借入れをさせた詐欺的融資あるいは説明義務違反の融資であると主張しているようです。
融資が詐欺や説明義務違反によるものであれば、オーナーは借りなくてもよいお金を借りさせられたことになり、それによって、オーナーに損害が生じれば、スルガ銀行はオーナーに対して損害賠償責任を負うことになります。本件で言われている『貸し手責任』はこの意味です」
ーーでは、「借り手責任」はどう考えられますか
「通常、事業計画は事業者側(本件でいえば、スマートデイズとオーナー)が作成するものであり、銀行はそれを審査して、お金を貸すかどうかを決める立場に過ぎないはずです。したがって、事業計画に虚偽があったかどうかを見抜けなかった責任は、スルガ銀行よりも、むしろ、事業者側であるオーナーにあるというのが、本件で言われている『借り手責任』の実質です。
これは、法的には、スルガ銀行の損害賠償責任を減じる要素(過失相殺)ということになります。スマートデイズが経営破綻してしまったので、実際には損害の回収は難しいですが、この考え方からは、オーナーは損害賠償請求をするのであれば、スルガ銀行ではなく、事業計画を作成したスマートデイズを相手にすべきということになります」
ーー本件ではスルガ銀行の関与が指摘されています
「はい。本件では、通常の融資の構図とは異なり、スマートデイズとスルガ銀行がタッグを組んで、オーナーに対して融資とセットでシェアハウス投資をするよう勧誘したようです。さらに本件の融資は、通常の融資よりも高い金利で行われ、スルガ銀行としても高い収益があがるため強力に推進していたようです。
その背景として、収益至上主義による過度な収益目標が営業現場に課されて、オーナーに不当な勧誘が行われた可能性は否定できません。行員が預金通帳等の『改ざん』を認識していたと言われていることからも問題の深さを感じます。バブル時代の銀行の不動産への過剰融資問題を彷彿とさせます。
いずれにしても、この点の判断に際しては、融資に至る経緯、オーナーの資産や投資経験・知識、銀行のセールス手法や融資審査方法等を総合的に検討する必要があると思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
天野 仁(あまの・ひとし)弁護士
弁護士法人ステラ代表弁護士。取り扱い業務は、一般民事事件、家事事件、企業法務、刑事事件など多岐にわたる。みずほ銀行に約17年間勤務した経験を活かし、企業の顧問や会社関係の訴訟、金融商品投資被害等の事件を扱うほか、離婚の財産分与や相続の遺産分割などの家事事件においても金融資産の調査などに強みを持つ。
事務所名:弁護士法人ステラ
事務所URL:https://stellalaw.jp