トップへ

男性の育休「ごめん、2日だけ」に妻絶句…それでも取得率はアップ、企業イメージが向上する現実

2018年06月02日 10:22  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

制度はあっても使いにくいーー。代表例のひとつが男性の育休取得でしょう。千葉市が5月24日に明らかにした2017年度実績は、目標を2年前倒しで上回る素晴らしいものと評価されましたが、それでも期間は10日未満が7割だったといいます。どうして短い期間の割合が多いのか、民間ではわずか2日のケースも。あわせて考えます。


【関連記事:いじめ、就活…キラキラネームで辛い思いをしたくない! 改名するための手続きまとめ】


●千葉市22.9%、良き先例になる期待

千葉市では、市の男性職員(教育、消防含む)が2017年度に育児休業を取得した率が22.9%でした。10.3%だった2016年度から一段と伸びました。育休の取得予定を職場で聞く取り組みなどの効果が出て、「育休を取るのが前提という考え方に転換した」ということです。


総務省や厚労省がまとめた資料によると、全国的に見れば男性の取得率は低いのが実態。2016年度は地方公務員が3.6%、国家公務員が8.2%で、5月30日発表の速報値では民間企業(全国6160事業所が対象)で5.14%となっています。千葉市の22.9%は突出しており、SNS上でも、「素晴らしい」と好意的に受け止められました。


ただ、女性の育休取得率(千葉市、2017年度に100%)からはまだ離れており、千葉市では今後はすべての男性職員が育休を取得することを目指すといいます。他の組織が見習うような「良き先例」になるかどうか、今後の伸びが注目されそうです。


●育休期間「10日未満」が7割、背景には懐事情も

育休取得は、率だけでなく、どれくらいの期間にわたって取るのかも大事な要素。千葉市の場合、最長で331日間の取得者もいましたが、10日未満が7割でした。地方公務員なら制度上は子どもが3歳(民間は原則1歳、最長2歳。企業によってさらに長い場合も)になるまで取得できますが、なぜ短期間の取得者が多いのでしょうか。


千葉市給与課によると、育休中は無給ですが、5日間まで互助会による手当が出て実質的に給与が減りません。それ以降は一定の条件のもと、原則として子どもが1歳になるまで育児休業手当金が支給されますが、手取りとしては相当減ってしまいます。このため、すべての職員が必ずしも長期取得を希望するわけではないそうです。


こうした事情は、他の行政機関や民間企業でも概ね同様といっていいでしょう。たとえ、上司が「もっと取りなよ」と快く背中を押してくれる職場であっても、出産、育児には多くの費用がかかります。「懐事情」を考えれば、現実的な判断が迫られるのは仕方がないのかもしれません。


●企業のイメージUPに都合よく使われる

一方、取りたくても取れない職場が多いことも指摘されます。それは、全国的に取得率が低迷(5.14%)していることからうかがえます。近年では、「男性の育休取得率が高い」「100%を達成した」ーーとアピールする企業もありますが、内部の人間からは「有休を数日使ったのと同じ」という冷ややかな声も聞こえてきます。


ある保険会社の30代男性社員の場合、育休は2日間でした。「ごめん、育休2日だけだわ」と伝えると、妻は「たったそれだけ…」と絶句。ある銀行の40代男性行員は3日間で、妻には「ありがたいけど、短期間だけ育児を手伝われてもペースが乱れる」と言われたそうです。2人は、自社の評判を高めるために都合よく使われた印象さえ抱きました。


厚労省によると、男性の育休取得期間について調べた直近のデータは「平成27年度雇用均等基本調査」。それによると、「5日未満」で職場復帰した人の割合は56.9%で、「5日から2週間未満」は17.8%。一方、「6カ月から8カ月未満」が0.2%、「8カ月から10カ月未満」が0.7%、「10カ月から12カ月未満」が0.1%でした。


●育休を理由とした「不利益な取り扱い」は法律で禁止

育児・介護休業法が定める育休期間は、原則として子どもが1歳になるまでとされ、保育園に預けられないなどの理由により最長で2歳まで延長できます。ところが、実際は多くの男性が育休を取得できず、取得できても短期間で終える場合が大半。数日間の育休で、育児参加を十分に果たすのはきわめて困難です。


もちろん、捉え方は様々で、「少しでも取れるだけマシ」「仕事や稼ぎのことを考えれば育休はむしろいらない」「出勤前や帰宅後、休日に育児参加しているから育休はいらない」などと考える家庭も一定数あるのかもしれません。


ただ、経済的に支障がなく、育休を長期取得したいと考える男性が、職場環境の「有形無形のプレッシャー」により断念させられるという事態は明らかに不当でしょう。育児・介護休業法は、育休申請や取得を理由に、労働者に不利益な取り扱いをすることを禁止しています(10条)。


男性の育休について、皆さんはどう考えますか?


(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama 約半年の育休取得経験あり


(弁護士ドットコムニュース)