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MOROHAの音楽は強烈に“自分と向き合わされる”ーー行定勲監督務める「革命」MVを見て

2018年06月01日 18:03  リアルサウンド

リアルサウンド

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 MOROHA「革命」のMVが公開された。6月6日リリースの、過去10年間の代表曲12曲を再レコーディングしたメジャーデビューアルバム『MOROHA BEST ~十年再録~』に収録された曲で、オリジナルバージョンは2013年11月に、当時所属していた<ROSE RECORDS>からリリースされた2ndアルバム『MOROHA Ⅱ』に入っている。


 アレンジ等は大きく変わっていないが、時制に合わせて歌詞がちょっと直されたりしている(自分の歳が「俺たち今年もう26だぜ」が「30だぜ」になっている)。4月からテレビ東京金曜深夜でオンエアされている、真利子哲也監督のドラマ『宮本から君へ』のエンディングテーマになっている曲だ。


 MVを撮ったのは行定勲。どういう内容のMVかについては、クリックして観ていただければすむので具体的に説明はしないが、ひとつだけ書くなら、8割がライブシーンの再現であるこの作品で行定勲がやりたかったことは、「MOROHAとMOROHAの音楽が刺さった人の可視化」ではないかと思う。


 つまり、行定監督自身が、MOROHAをこんなふうに聴いている、ということを、立場を青年期の男女に置き換えて、そのまま映像にしたのだと思う。


 では、その「こんなふうに聴いている」ということの具体的な内容について。以前にもこのリアルサウンドで書いたが(こちらです)、聴くことによってその人が「MOROHAと向き合う」のではなく「自分と向き合う」ことになる、そういう聴き方だ。


 「アフロはそうなのか」ではなく、「自分はどうなんだ」。自分が自分の中で棚上げにしていることや、うやむやにしていることや、あきらめていること。己の怠惰な部分、ずるい部分、言い訳がましい部分、みっともない部分。それらすべてに、否応なしに向き合わされてしまう音楽である、ということだ。


 だから楽しくないし、気分よくもない。よって、合わない人は徹底的に合わないだろうが、音楽の魅力は楽しく気持ちよくさせてくれることだけではないことを知っている人には、徹底的に刺さることになる。


 MOROHAに限らず、すぐれたポップミュージックにはそういう、「受け手が自分と向き合うことになる」作用があるがーーいや、映画でも文学でも演劇でもそうだから、すぐれた表現にはそういう作用がある、と言った方がいいか。


 とにかく、それを、誰よりも最短距離で、最速で、ダイレクトに聴き手にもたらすのがMOROHAだ、ということだ。いや、その「誰よりも最短距離で最速でダイレクトに自分と向き合わせる音楽」を実現するために、あの「リズムもメロディも排して、一緒に歌ったり踊ったりできない状態にして、語りとアコギだけで音楽をやる」というスタイルを開発したんじゃないか、という気すらしてきた、書いているうちに。なるほど。自分で納得してどうする。


 くり返すが、だからMOROHAはダメな人は徹底的にダメだろうが、ハマった人はとんでもないのめり込み方をすることになる。MOROHAが地上波のテレビ等でも取り上げられるようになったのは、生田斗真や東出昌大などの著名人が絶賛したのがきっかけだったことはよく知られているが、それも、その「とんでもないハマり方」のわかりやすい表れだと思う。ちなみに、MOROHAが強烈であるがあまり、それを真剣に推す生田斗真や東出昌大に対して「そうか、MOROHA好きなのか。そういう人なのか」というふうにこちらの認識が変わる、というのもあります。平たく言うと「世間から見えてるよりも、弱い部分がある人なんだな」というか。それは平たく言いすぎ。でも、こちらが親近感を持ったことは事実です。あちらが持たれてうれしいかどうかはともかくとして。


このMVと『MOROHA BEST~十年再録~』でメジャーレーベルに籍を移したMOROHAが、これからどうなっていくのか、そのドキュメントを楽しみにしている。それも前にリアルサウンドに書いたが(しつこいがこちらです)、他のバンドとはあきらかに異なる「どうなっていくのかが楽しみ」だ。


 あとひとつ。このMVを行定勲が撮ったことにしろ、真利子哲也がドラマのエンディングに起用したことにしろ、松居大悟が『アイスと雨音』にMOROHAを出演させたことにしろ(ライブシーンが何度があるのですが、この映画もいろんな意味ですごいです)、そうやって映像作家たちがMOROHAに惹かれていくのはなぜだろう。ということも、今後の展開を見守りながら、またいずれ考えてみたいと思います。(文=兵庫慎司)