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小島藤子×桐生コウジが語る、『馬の骨』にぶつけた思い 「みんな“馬の骨”なりに頑張っている」

2018年06月01日 17:41  リアルサウンド

リアルサウンド

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 NHK連続テレビ小説『ひよっこ』をはじめ、映画・ドラマと出演作が相次ぐ小島藤子が、映画初主演を務めた『馬の骨』。1980年代後半の第2次バンドブームの火付け役となった伝説のテレビ番組『三宅裕司のいかすバンド天国』(TBS系)、通称『イカ天』に、バンド「馬の骨」として出演した桐生コウジが、自身の体験を基にしたオフビートコメディだ。過去の栄光を忘れられない自称音楽家の熊田(桐生コウジ)と、シンガーソングライターを目指す地下アイドル・ユカ(小島藤子)の奇妙な交流を描く。


 リアルサウンド映画部では、脚本・監督に加え熊田を演じた桐生コウジと、主演を務めた小島藤子にツーショットインタビューを行った。劇中との関係性と同様に、抜群のコンビネーションを見せてくれた2人。製作の裏側から、本作への思いまでたっぷりと語ってもらった。


●桐生「30年前の自分をユカに、今の自分を熊田に投影した」


ーー各所で話題となった2015年の『ディアーディアー』(菊地健雄監督作)に続く、オフィス桐生製作3作目となりますが、本作では脚本と監督、そして出演も果たしています。桐生さん自身の自伝的な要素も孕んだ作品ですが、製作のきっかけは?


桐生コウジ(以下、桐生):プレスでは、「平成が終わる前に、ボクはこの映画を作らなければならない」と格好いいことを言っているのですが、企画のベースは10年前に経験した夜の工事現場なんです。その日は雨上がりだったんですが、アスファルトからスモークのように煙が出ていて、そこに映画の照明のように強い光があたっていたんです。それがすごく幻想的で。さらに、重機や工事員の作業音が音楽のように豊かに聞こえて、まるで映画みたいだなと。


ーーまさに本作のラストシーンですね。


桐生:そうなんです。「イカ天」や「アイドル」など、いろんな要素を盛り込みましたが、実はストーリーの根幹は何も決まっていなくて、出発点は工事現場。で、自分自身、熊田と同じで『イカ天』に出演して、音楽が中途半端なまま俳優になって、気がついたら映画製作にも手を出して、本当は何がしたいんだ?とずっと自問自答してきました。そんなとき、元号が変わると。自分のけじめのためにも、「馬の骨」を映画として残したい、そんな思いの元、本作が出来上がっていきました。


ーー熊田だけの物語にもできたと思うのですが、小島さん演じるユカを入れたのはどんな理由でしょうか?


桐生:熊田に今の自分を、ユカに30年前の自分を投影した部分はあります。当時、人気番組に出演して、「音楽で食っていける」と一瞬でも思ったわけです。だけど、周りにはすごい人たちがたくさんいて、そんなに甘い世界ではなかった。でも、あのときは何かを信じて必死に頑張っていた。そんな若いときの熱を映画に入れたいなと。


小島藤子(以下、小島):桐生さんはこれまでお仕事をさせていただいた監督たちと違って、ほとんど現場で指示はなかったですし、そういった背景もお話されてなくて。最初にお会いしたときも、「歌、大丈夫?」と言われたぐらいで。そんな思いがあったなんて今知りました(笑)。


●小島「いまはどんなイメージもすべて受け入れられる」


ーー小島さんは、地下アイドル、そしてシンガーソングライターというユカを演じてみてどうでしたか。


小島:ユカは「ツキノワ★ベアーズ」というアイドルとして活動していますが、メンバーからも嫌われて、自分の思うような活動もできない歯がゆさを抱えています。私自身、歌もダンスも初めての挑戦だったので、自分ができないことへの悔しさや情けなさを感じるところはありました。


ーーユカはファンからのイメージと理想の自分、そして自分自身とのギャップがありますが、小島さん自身もそれは感じることがありますか。


小島:10代の頃は、初めて会った方から「ミステリアスで賢そうなキャラクター」だと思われることが多かったんです。でも、私自身は単純明快な中学生男子みたいな感じだと思っていて(笑)。だから、先入観を持ってイメージを作られるのが嫌な部分もあって、「本当の私はこうだから」と事務所にもわがままを言った時期もありました。なのでそういった部分で、ユカを演じながら当時を思い出していました。今は、ユカが劇中ですべてを受け入れて一歩を踏み出したのと同じように、あえて全然違うイメージを持たれてもいいんじゃないかと思うようにもなりました。最近はとても生きやすいです(笑)。


ーー映画のクライマックスで披露するユカの楽曲の歌詞は、小島さん自身が手がけたそうで。


小島:実は劇中とは違う完成された楽曲がもともとはあったんです。それで撮影前も練習していて、分からないところは桐生さんに確認しに行っていたのですが……。


桐生:最初の楽曲を聴いていると、やっぱりユカの曲ではないなと。どんな歌詞になっても、字余りになってもメロディーはつけることができると思ったので、歌詞を自分で書いてみてとお願いしました。


小島:最初はちょっと気の利いた言葉でも書いてみようと思っていたんですけど、全然パッとしなくて。どうしようと思い、台本を開いて改めてユカのセリフを読み込んでみたんです。そこから言葉を書き連ねて桐生さんに見せてみると、「すごくいい」と言ってくださって。それは小島藤子としてというよりもユカとしての言葉だったんですよね。


ーー「逆転劇をはじめましょう」というフレーズが、本作のテーマとも合っていてすごくいいですよね。


桐生:そうそう。任せてよかったと思ったよ。


小島:ありがとうございます。ユカとしては、ギターを教えてくれた熊田も、シェアハウスで一緒に暮らしているみんなも、アイドル時代から応援してくれているファンの方も、みんな勝手にユカのイメージを作って、好き勝手言っているじゃないかと。そしてそんな理想に応えられないユカの思いもあって、「絶対に見返す!」というユカの強い気持ちからとっさに出たフレーズでした。


●少し前を向ける、その繰り返しでいい


ーー桐生さんはどんな点に惹かれて小島さんを主演に?


桐生:あの作品を観て、この演技を観て、というのではなく、まずは顔のイメージだったのですが、不思議と彼女の雰囲気がピタッと完全にハマったというか。自分が生粋の監督じゃないからか、どうも“主演女優ぶる”ような人が1番苦手なんです。役者であれば、自分をきれいに見せたい、たくさん映りたいと思うことは普通だと思うのですが、彼女には全然そういうところがなくて、すごく自然体なんです。クランクイン前から一緒にギターの練習をしてたというのもあるけど、監督と主演女優という関係性よりも、“仲間”という意識が強いです。


小島:確かに、「監督」とは呼んでなかったですね(笑)。私も映画初主演という責任は感じていたのですが、現場では主演だからどうこうということは一切思っていませんでした。ユカも熊田も、シェアハウスで暮らしているみんなにも、全員にスポットライトが当たっている作品でもあったので。登場人物の気持ちは、顔だけじゃなくて何気ない部分にこそ表れるときがあると思うんです。作品によっては、「しっかり顔を見せて」と言われることもあるのですが、本作ではそういったことが全然ありませんでした。だからすごくやりやすかったです。


桐生:俺はこれを聞いてびっくりして(笑)。ここまで顔を見せなくていいという女優もなかなかいないですよ。彼女は作品にすごく向き合っていながら、ガチガチの“演技論”みたいなものに固まっているタイプでもないので、現場でも臨機応変さがあるんです。その点はすごくやりやすかった。


小島:太ったり、痩せたり、ギターの練習をしたり、事前に準備をしなくてはいけないものはありますが、それは「役作り」とは全然違うところの領域だっと思っていて。役のために、事前に感情を入れ込んできました、ということはあまりしたくなくて、現場でさっと入り込めることが、役者だと思っています。私がこう感じたので、監督に意見をする、というのは私の中で絶対ないなって思ってることで。作品全体を見ているのは役者ではなく、監督でありカメラマンさん。スタッフの方々が求めるものに臨機応変に対応していきたいです。


ーー本作は現代が舞台ではありますが、「イカ天」や閉店してしまった「新宿JAM」の存在など、何とも言えぬノスタルジックさがあります。


小島:そうなんですよね。ユカと熊田が暮らすシェアハウスの雰囲気とか、ちょっと懐かしい匂いがする感じがあって不思議で。それがすごいいいなと思います。数年後、この映画が今度は『イカ天』みたいに、「昔こんな映画あったね」と思われたらうれしいです。


桐生:平成の終わりにこんな映画があってもいいかなと。ミュージシャン、役者、監督なんて言っても、一歩間違えればどこの誰だかわからない素性の知れない、まさに「馬の骨」。だけど、みんな「馬の骨」なりに頑張っているんですよ。映画の中で、熊田もユカも、1曲歌っただけで、何かを成し遂げたわけではない。でも、少し前を向けた。その繰り返しでいいじゃないですか。


(取材・文=石井達也、撮影=池村隆司)