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伊藤峻太×地曵豪×ウダタカキが語る、自主映画『ユートピア』の可能性 「“絶対にできないことはない”を証明した」

2018年06月01日 15:51  リアルサウンド

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 高校3年生の頃に撮り上げた映画『虹色★ロケット』が注目を浴びた伊藤峻太監督の最新作『ユートピア』が、現在下北沢トリウッドにて公開されている。絵本『ハーメルンの笛吹き男』をモチーフにした本作は、現代の東京に暮らすまみが、1284年にドイツのハーメルンで笛吹き男によってさらわれた130人の子供の1人であるベアと出会い、彼女をさらった笛吹き男の正体に迫る模様を描いたSFファンタジーだ。


参考:10年以上を経て完成したSFファンタジー『ユートピア』 時間をかけるにふさわしいテーマとは?


 今回リアルサウンド映画部では、先日アメリカの『The Hollywood Reporter』誌の記事において、門脇麦や村上虹郎と並んで「世界に進出する準備ができた4人の日本人俳優」にも選ばれた、本作で笛吹き男のマグスを演じた地曵豪、白石和彌監督の『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で主演を務め、本作ではオールデ役を務めたウダタカキ、そしてメガホンを取った伊藤監督による鼎談を行った。故・若松孝二監督の作品をはじめとするさまざまな作品に出演している地曵とウダの2人が本作に出演することになったきっかけや、構想から公開まで10年もの年月がかかった背景などについて、じっくりと語り合ってもらった。


――公開から1ヶ月ほど経ちますが、観客の反応などはいかがですか?


伊藤峻太(以下、伊藤):お客さんの感想やリアクションは全て新鮮ですね。設定やストーリーが複雑なだけに、もちろん分かりにくいという人もいれば、それを深読みして自分なりに解釈してくれる人もいる。この作品を観たことによって、妄想が止まらなくなったとかイマジネーションが広がったという感想もあって、それはすごくうれしかったですね。でも正直、公開してしまったら作品が自分の手から離れていってしまうというか、勝手に作品が一人歩きしてしまう感覚もあるので、まだ実感できていない部分もあるかもしれません。それと、もう4回も観ていただいている方もいらっしゃって、リピーターがすごく多いのには驚いているのですが、そこまで悪い意見が届いてこないので、もっとたくさんの方に観ていただきたいなとは思っています。否定的な意見が出てくることも含めて作品は世に出す意味があると思うので、そのためにはもっと観てもらわないといけないなと。


――地曵さんとウダさんはこれまでさまざま作品に出演されていますが、どのような経緯でこの作品に出演することになったんですか?


地曵豪(以下、地曵):ある日突然、プロデューサーを務めているトリウッドの大槻(貴宏)さんから出演依頼の連絡があったのがきっかけでした。でも最初に企画書を読んだときは、笛吹き男のマグスはもっと年上の設定なんじゃないかと思ったんです。僕は5年前の撮影当時は37歳だったので、マグスはもっと年配の人の方が監督はよかったんじゃないかなって。


伊藤:(笑)。確かに最初イメージ画を書いている時点では、白い髭が生えているイメージだったので、もっと年配の方を想定していたのは事実ですね。ただ、だんだん余裕がなくなってきて、プロデューサーの提案を「なるほど、なるほど」って……(笑)。


地曵:絶対そうだよね(笑)。『ユートピア』の台本を読んだ後に、この話はファンタジーでありながら実はすごく政治的な話だと感じました。僕とウダくんは若松孝二監督の『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2008年公開)という映画で革命家の役を演じているんです。『ユートピア』のマグスも体制を破壊しようする革命家なので……革命家の役をやっていたから革命家役のオファーがきたのかなと当時は思いました(笑)。でも実はSFやアニメが大好きなのでオファーがきてすごく嬉しかったし、ぜひやりたいと思いました。SF好きを爆発させる機会が初めて自分の人生に訪れたので、一生懸命やろうと思ったんです。


ウダタカキ(以下、ウダ):僕らが出ている若松さんの作品を大槻さんがちゃんと観てくれていたからということでもあるよね。僕も地曵くんも、若松さんに会ったのはここ(トリウッド)が最後で、若松さんが亡くなる前にトークショーをやっていたんですよね。だからすごく思い出のある劇場ではあるんですけど、大槻さんが声をかけてくれたのは、僕が相変わらず適当なことばかり言っていたからみたいです(笑)。


伊藤:いつだったかは覚えていないんですけど、『ユートピア』の打ち合わせでトリウッドに来たときに、廊下にウダさんがいて、そこで大槻さんから「ウダさんどう?」って言われたんですよね。


ウダ:大槻さん、適当だな~(笑)。


地曵:でもそういう偶然っていいよね。僕も若松さんと知り合ったのは新宿の飲み屋だったから。


ウダ:それで、若松さんに絡んだんですよね?


地曵:そうそう。あるバーで泥酔していたら、偶然そこに来た若松監督が僕の左隣に座ったんです。お店の人に「監督」って呼ばれていたので勇気を出して「芝居やってるんです」と話しかけました。僕はそのときかなり酔っていたんですが(笑)。そうしたら初対面の僕に向かって「連合赤軍の映画を撮影するんだ。絶対残さなきゃいけない話なんだ」と本当にいろいろ話をしてくれました。それがきっかけでオーディションを受けたいと思ったんです。だからそういう偶然は本当に大事だなって。


伊藤:でも、若松組のような現場でこれまで鍛えられてきた地曵さんとウダさんのおかげで、『ユートピア』の現場が底上げされた部分もありました。


地曵:ウダは現場で他の俳優部にダメ出ししてたよね(笑)。


ウダ:撮影は2~3週間だったんですけど、このスケジュールで、しかもCGのこととかを考えなきゃいけないから、絶対に撮り切れないと思ったんですよね。しかも今回は地曵くんが1番年上ぐらいの若い人たちが多い現場だったから、僕らがちゃんとしなきゃいけないとどこかで思っていて。他のキャストの子たちはすごく怖かったみたいですけど(笑)。


地曵:個人的な考えですが、物語の骨格や世界観のリアルさを支えているのは主人公やマグスではなくて、ユートピア人のオールデやコニやエアリだと思うんです。SFって言ってしまえば“ごっこ遊び”なので、それに血を通わせるのは役者のテンションや集中力でしかない。そういう意味であの映画のリアリティを支えているのはウダタカキや、森郁月、そして高木万平なんだなと試写を観て感じました。これもまた偶然かもしれないけれど、その他のキャストも含めて力のある俳優が『ユートピア』に集まったのは、本当に幸運なことだったなと思っています。


ーー撮影が行われたのは2013年だったんですよね。撮影終了後、公開まで5年もの月日が過ぎていったわけですが、地曵さんとウダさんは作品の進捗具合や公開時期など気になりませんでしたか?


地曵:僕は半年に1回とか1年に1回のタイミングで、伊藤監督に「何やってんの?」「ちゃんと生きてるの?」って嫌がらせメール送ってました(笑)。


伊藤:嫌がらせメールって言っていますけど、基本的に励ましや激励のメールでしたよね。生きてるかという生存確認と、「ここまできたら限界までこだわれ、俺はいつまでも待つぞ」というような。


ウダ:2年くらい前にやっと公開するという情報が出てきたんですけど、僕はそれでも「まあ、どうかな……」と思っていました(笑)。


――撮影が終わってから公開までに5年もかかったのはVFXの作業に時間がかかったということなのでしょうか?


伊藤:そうですね。コンピューターの能力の限界もあるし、合成やCGで理想の画を目指す上で試行錯誤は避けられず、基本的に一発でOKになることはほとんどないんです。それに例えば、10秒間のカットをレンダリングしようとしたら、40時間とかかかっちゃうこともある。しかもその中でエラーが起きていることも結構あって、そうなってしまったらまた40時間やり直しなんですよね。もしもVFXに5年かかると事前にわかっていたら、心が持たなかったと思います。1年で終わらせようという気持ちでやって、結果的に5年かかってしまった感じなので……。振り返るとゾッとしますけど、ゴールしようと思ったら意外とまだで、ずっと走り続けていた感覚なんですよね。


地曵:実は今日伊藤監督と対談をすると聞いていたので、予習として監督が高校生の頃に撮った『虹色★ロケット』をもう1回観直してきたんです。そうしたら『ユートピア』とテーマが共通していてビックリしました。どちらの作品にも“世界は何かの犠牲の上に成り立っている”という概念がある。しかも両方とも主人公に対して「いつも笑ってたよ」という同じセリフが出てくる。世界を変える変えないみたいな話はひとまず置いておいて、どんなにつらい世界でも笑って生きていかなければいけない、という共通したテーマが伊藤監督にはずっとあるんだなと思って。それを17歳の伊藤監督が考えていることがすごいと思いました。


伊藤:『ユートピア』の公開前に『虹色★ロケット』がトリウッドで再上映されて、実は僕もそこで10年ぶりぐらいに観直したんですよ。自分は出演もしているので恥ずかしい気持ちもあるんですけど、10年経って冷静に観られるようになって、共通するセリフがあるというのは確かにそうだなと思いました。中でも最も共通しているのが、“作る”ということ。『虹色★ロケット』は、主人公の少年少女たちがアーティスティック・ギャラクシー科という新しい科を作る話で、今回の『ユートピア』は、もうほとんどそれ自体がテーマになっていて、新しい世界を作る話なんです。


ウダ:『ユートピア』も一番最初は高校を卒業したぐらいのときにアイデアが浮かんでいるわけじゃない? そこから約10年経つ間に自分の考え方とかは全く変わっていないの? ここはこうじゃなかったなとか。


伊藤:それは結構ありますね。『虹色★ロケット』を撮ったのが17歳とか18歳。『ユートピア』を作ろうと思って構想し始めたのが19歳だったんです。今もう31歳になりましたけど、やっぱり完成した映画を観ても「19歳の映画だな」って感じるところはすごくありますね。まあ5年前に撮影は終わっているので、少なくとも31歳の人が作った映画ではないなと。でもそこまで客観的に観れないところもあって、それは次の作品を撮ってようやく分かってくるのかなと思います。そう言えば、ウダさんに初めてシナリオを読んでもらったときに「ユートピア人の友情の部分がさっぱり分からない」と言われたんですよね。それを言われたときに「確かに」と思って。


ウダ:作品のテーマなのに俺ヒドいこと言ってるね(笑)。


伊藤:でもそれは作品を観て理解できるかどうかというよりも、彼らに感情移入できないっていう意味だったんですよね。僕が19歳の頃に「これがいい」と思ってそのまま進めてきたものが、26歳になったら実際変わっていて。当時一緒に映画を撮っていた仲間との関係性も違うものになっていたので、友達というものに対しての考え方も変化していたんです。だけど、作品では19歳のときの僕が思う友情や理想が入っているから、僕も混乱しながら撮っているところもあって、編集段階でかなりカットしている部分もあるんです。構想を考えていた19歳のときの僕と、撮影を終えて編集をしているときの26歳以降の僕の考え方の違いに気づけたのは、そのウダさんの意見のおかげだったかもしれません。


ウダ:『ユートピア』の脚本を初めて読んだとき、僕は学園モノじゃないかなと思ったんです。SFの壮大な話ではあるけれど、ユートピアという学園があって、俺がクラスの先生で、地曵くんが用務員のおじさん(笑)。そこでどう考えても矛盾があるという校則を僕は生徒たちに教えていて、クラスの生徒たちもみんな盲目的に信じようと思ってやっているんだけれど、カリスマ用務員のおじさんが校則を破ってしまって、その瞬間にみんながユートピア学園の校則に対して「本当にこれで合ってたの?」と気づく。それによって、今まで仲が悪かった子たちやいじめられていた子もみんな仲良くなっていくという。伊藤さんはそういう“人が仲良くなること”を撮りたい人だと思っていたから、「何でこうなるの?」と感情移入できない部分に対してツッコんだんでしょうね。


ーーそうやって紆余曲折しながら10年以上もの歳月をかけて完成したこの『ユートピア』は、みなさんにとってどんな意味を持つ作品になりましたか?


地曵:僕は最初に台本を読んだときから絶対面白い作品になると思っていたし、今でも映画界において面白いことになると思っています。さっきアニメやSFが好きだという話をしましたが、例えば押井守監督の『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』も、劇場公開当初はお客さんが全然入らなくて上映もすぐに終わっちゃったんです。でもその後、アメリカの『ビルボード』ビデオ週間売り上げ1位になったのをきっかけに日本でも人気が爆発しました。押井監督の名作と言えば『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』や『機動警察パトレイバー 2 the Movie』だと思うんですが、それらの作品を観ていないような、特にアニメ好きではない映画ファンが『攻殻』公開後から数年も経ってから押井守を語るようになったんです。もしかしたら『ユートピア』もそれぐらい時間がかかってしまうかもしれないけれど、それぐらい僕はこの作品に可能性があると思っています。だから関わることができて本当によかったなって思うんです。


ウダ:僕は『風の谷のナウシカ』が大好きなんですけど、小学校3年生のときに初めて観たときにすごく衝撃を受けて、「ナウシカになりたい」と思ったんです。そうやってああいう世界観の話を撮りたいなと思う人って、世の中にはたくさんいると思うんですけど、予算も限られていてCGもどこまでできるかわからない、ましてやインディペンデントや自主映画で撮ろうなんてある意味現実的ではないですよね。やるにしても、もっと大きなバジェットの作品を撮れるまでキャリアを積むとか、ある程度設定を妥協するとか、多くの人はそういうことを考えると思うんです。でも、伊藤さんは実際10年かかっちゃったけど、やり遂げてしまった。実は最初にこの話をもらったとき、インディーズ映画で、しかもユートピア語というオリジナル言語を話さなければいけないと聞いて、「いやぁ、これはヤバい香りするわ」と思ったんです(笑)。でもやりたい気持ちもすごく分かったし、実際に監督と会って話してみたら、逃げずにやろうとしていることが伝わってきたので、俺もやってやろうと。昨今インディーズ映画も増えていますけど、こんな作品は他にないと思います。でもこの作品は「絶対にできないことはない」ということを証明したと思うので、作り手の方にも是非観ていただいて、今後こういう作品がまた現れてほしいなと思います。


伊藤:僕も自分で編集をしている段階で「これはすごいことになってる」と思ったんですけど、撮影時はこの作品がやっていることの大変さが全然理解できていなかったと思うんです。地曵さん、ウダさんをはじめとする役者の方々と一緒に作ったスタッフ、そして僕の10数年分のとてつもない念のようなものが、スクリーンから溢れ出てくる作品になっているので、是非たくさんの方々に観ていただきたいですね。(取材・文・写真=宮川翔)