トップへ

広瀬香美さんの事務所「芸名使うな」、独禁法に触れる可能性も…移籍宣言で騒動に

2018年06月01日 15:02  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

「ロマンスの神様」などのヒット曲で知られるアーティスト、広瀬香美さんが5月28日、自身のTwitterやFacebookなどで、「新しい事務所にて活動も新たにスタートを切りました」と「移籍宣言」した。これに対し、これまで所属していた事務所、オフィスサーティーは公式サイトで抗議文を発表した。


【関連記事:街中で「わざとぶつかってくるおじさん」は暴行罪の可能性 「女性や子ども標的」SNSで報告相次ぐ】


抗議文では、この移籍宣言は事務所に許可を得ずに行われたといい、「『広瀬香美』は弊社代表取締役である平野ヨーイチ氏が命名した芸名であり、『広瀬香美』の芸名の使用権限は、弊社及び平野ヨーイチ氏に帰属しており、弊社当社所属のアーティストとしての活動以外には、『広瀬香美』の芸名を使用できません」と断言。広瀬香美さんこと石井麻美さんが、「『広瀬香美』の名を弊社に無断で使用して、芸能活動を行なおうとしている」と厳しく批判している。


また、事務所では「広瀬香美」の名を使用した芸能活動の一切の禁止を求めるとともに、「断固たる法的措置をとる所存」としている。もしも、無断で「広瀬香美」の芸名を使用した芸能活動を行った場合には、「これに加担した第三者に対しても,損害賠償請求の対象とすることを含め厳しい対応をとる所存」と今後についても警告を発している。


しばしば、芸能人の移籍や独立でトラブルとなる芸名。事務所と芸能人との契約で芸能人側に不利が生じている実態について、公正取引委員会の有識者会議は2月、独禁法違反の恐れがあるとする報告書をまとめている。


では、所属していた事務所の許しがなければ、移籍や独立後に芸名を使うことはできないのだろうか。芸能人の権利問題に詳しい佐藤大和弁護士に聞いた。


●契約終了後の「芸名使用禁止」は独禁法上問題になる可能性

事務所と芸能人が移籍や独立に伴って契約を終了する場合、終了後もその芸名の使用に「事務所の許諾」は必要?



「今まで数え切れないほどの芸能人のマネジメント契約書(専属契約書等)を見てきましたが、全ての芸能事務所において『芸名』について定めているわけではなく、『契約書で芸名について定めている芸能事務所』と『契約書において芸名について定めていない芸能事務所』があります。


そして、芸名について定めがあるマネジメント契約書の多くには『芸名に関する権利は全て甲(事務所)に帰属する。』『本契約終了後に乙(タレント)がこの芸名を使用する場合には、甲(事務所)の書面による承諾を必要とする』等と、契約終了後の芸名の使用について『事務所の許諾が必要』としています」


場合によっては、芸能人に不利な契約のようにもみえるが…


「そうですね。今年の2月15日に公表された公正取引委員会の『人材と競争政策に関する検討会』報告書では、『移籍等をする芸能人に対して不利益を課すこと』または『芸能事務所が芸能人の権利や成果物を独占すること』等は独占禁止法上問題となる可能性があるという旨を公表しました。そのため、個別具体的なケースによりますが、たとえ契約書において、芸能事務所側が、契約終了後の芸名の使用について『事務所の許諾が必要』と定めていても、独占禁止法上問題となる可能性が十分にあります。


現在、この公表を受け、各芸能事務所では、芸名に関する定めを含めて、マネジメント契約書の内容について見直しがされ始めており、実際に私のところにも多くの相談があります。このように芸能人の権利について見直しがされているなか、今回のような芸能事務所側が発表等は、残念としか言いようがありません」


●もしも許諾なく「広瀬香美」で芸能活動をすると訴えられる?

広瀬香美さんがもしも、以前の事務所の許諾なく「広瀬香美」を使用して芸能活動をした場合、損害賠償請求の対象になりえる?


「公正取引委員会の報告書にもあるとおり、独占禁止法上問題となる可能性がある以上、たとえ芸能事務所側が広瀬香美さんに対して、芸名の使用について損害賠償を請求したり芸名の継続使用の禁止を求めたりしても、裁判所は契約書の法的拘束力は認めず、芸能事務所側の請求を認める可能性は低いといえます。


芸能事務所側は『社長が命名した芸名』であることも主張していますが、特段の事情がない限り、結論は変わらないと思います。


ただ裁判等をされる可能性があることで、メディアも芸名の使用や広瀬さんの起用について躊躇する可能性が高く、広瀬さん側に対する影響はとても大きいと思います。芸能事務所側の発表にはそういった狙いがあった可能性も否定できません。今回の件、詳しい経緯は明らかにされていませんが、このような争い方は、双方ともに今後のイメージを低下させるだけではなく、双方の経済的な損失も大きくなる争い方であるといえます。


多くのファンのためにも、双方ともに冷静な協議をしつつ、広瀬さん側も芸能事務所側も利益になるような解決方法はたくさんあるため、早期かつ円満な解決を目指して欲しいと強く願っています」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
佐藤 大和(さとう・やまと)弁護士
代表弁護士。毎週月曜「バイキング」に出演中。芸能人の権利を守る「日本エンターテイナーライツ協会(ERA)」共同代表理事。エンターテインメント分野に強く、多くのタレント、ユーチューバー、スポーツ選手等の顧問弁護士をしている。厚生労働省「労働法教育に関する支援対策事業」教材作成委員を務めている。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/