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林遣都、『おっさんずラブ』で役者としての実力を遺憾なく発揮 主演デビューから10年の変化を辿る

2018年06月01日 06:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 テレビ朝日系で放送中の連続ドラマ『おっさんずラブ』が、ドラマ好きを中心に中毒者を増やしている。2016年に単発放送され、今期連続ドラマ化された、モテない33歳のおっさんを中心にめぐるピュアなラブストーリーであり、単独版から続けて出演の田中圭&吉田鋼太郎、連続ドラマ版から登場の林遣都のメイン3人のいずれもに、「代表作!」の声が上がっている。


牧(林遣都)が春田(田中圭)との家を出て1年後……【写真】


 そこで、ときに顔芸を見せながらの熱演で作品をけん引する田中と吉田の先輩俳優たちに対し、微妙な表情の変化に心の内を滲ませながら、強烈な存在感を発揮しているのが牧凌太を演じる林遣都だ。


 1990年12月生まれの林。20代も後半となり、大人の役者としての空気をまといはじめた。芸能界入りは05年。07年に、児童文学作品を映画化した『バッテリー』で主演デビューを飾る。天才ピッチャー役を瑞々しく演じて日本アカデミー賞、キネマ旬報ベスト・テンをはじめとした新人賞を受賞し、一躍存在を知らしめた。


 翌年からは立て続けに主演映画に出演。特に『ダイブ!!』『ラブファイト』、『風が強く吹いている』と、デビュー作の野球にはじまり、水泳の飛び込み競技、ボクシング、駅伝とスポーツものに挑戦し、高い身体能力と、ストイックな姿勢を見せていく。近年、林を知るようになった若い層にはイメージがないかもしれないが、デビューから2010年以前の林には、可愛らしい顔に細マッチョな体型を持つ、体育会系俳優の印象が強かった。


 やがて連続ドラマ初主演作であり、映画版にも主演した『荒川アンダー ザ ブリッジ』で奇想天外なコメディワールドに挑む。そして映画『闇金ウシジマくん』『莫逆家族 バクギャクファミーリア』、ドラマ『カラマーゾフの兄弟』(フジテレビ系)『玉川区役所 OF THE DEAD』(テレビ東京系)、『残念な夫。』(フジテレビ系)、『HiGH&LOW』シリーズなどで、デビュー以来多くを占めていた主演に縛られることなく、多岐にわたるジャンルで役者としての演技を積んでいく。


 16年には『おっさんずラブ』に先駆け、映画『にがくてあまい』で、川口春奈演じるヒロインと同居を始めるゲイの渚を演じ、ここでも料理上手でキレイ好きなできる男子を違和感なく見せた。


 そして『おっさんずラブ』に並び、近年の林の代表作に挙げられるNetflixオリジナルドラマ『火花』で主演を務める。いわずもがな、又吉直樹による芥川受賞作のドラマ化であり、林はお笑いコンビ「スパークス」のボケ担当である徳永役で、原作ファンからイメージにぴったり!と大絶賛を受ける。芸人としての生き方、波岡一喜演じる神谷への思い、主人公の抱える感情を全身全霊で体現してみせた。


 その後も25歳の童貞くんを演じたR-15指定の主演映画『チェリーボーイズ』などで、果敢に攻め続けてきた林が、現在、遺憾なくその実力を発揮しているのが、『おっさんずラブ』というわけだ。


 多くのファンが泥沼のようにハマった話題作も、ついに最終回を迎える。前回第6話では、田中演じる春田とともに、実家に挨拶に行くまでの仲に発展しながら、ラストには春田と吉田演じる黒澤が同棲しているという衝撃の急展開で、視聴者を大混乱の渦へと投げ落とした。


 第1話での「先輩が巨乳好きなのは知っています。でも……」につづく爆弾級のセリフをはじめとする、直球の想い、その一方で、わずかな表情の変化で伝える牧の心情、そして良きドラマには必ず必要なルールである“セリフは嘘を付く”を見事に表した、第6回終盤での「春田さんのことなんか、好きじゃない!」の切なさ。


 林も気が付けば20代後半。10代のころのストイックな肉体を通じた役作りから、人間ドラマでの繊細さ、R指定作品、そしておっさん同士の恋愛など、さまざまな作品、役柄を通じて変化を遂げてきたが、振り返ると、彼自身の佇まいから醸し出される品の良さが一貫しているのが、林の強みだ。この先も役者としての変化を続けながら、品の良さをベースに、どんなジャンルで、どんな顔を見せてくれるのか、楽しみで仕方ない。


 そしてまずは、視聴者お待ちかねの『おっさんずラブ』最終回。オリジナルストーリーのため、どんな最後が待つのかは、予想ができない。牧に、皆に、幸あれ。


(望月ふみ)