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三代目JSB、ソロ作が示す“未来” CRAZYBOY、RYUJI IMAICHI、HIROOMI TOSAKA、それぞれの音楽性

2018年05月31日 10:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE(以下、三代目JSB)にとって、この2年はトップアーティストとして走り続けながらも、メンバーそれぞれが新たな道を模索し、それを形にする時期だったのだろう。


参考:多人種が参加するストリートダンスの祭典、『HOUSE OF EXILE』に見る真のミックス文化


 2014年、春夏秋冬を題材として、四季ごとにリリースしたコンセプチュアルなシングル作品『S.A.K.U.R.A.』、『R.Y.U.S.E.I.』、『C.O.S.M.O.S. ~秋桜~』、『O.R.I.O.N.』は、いずれも好セールスを記録し、中でも「R.Y.U.S.E.I.」は三代目JSBの名を日本中に轟かせるほどの国民的ヒット曲に。これらの楽曲を収録した2015年のオリジナルアルバム『PLANET SEVEN』はミリオンセラーを獲得し、三代目JSBは名実ともにトップアーティストとなった。


 その翌年にリリースした『THE JSB LEGACY』には、ELLYが初めてラッパー・CRAZYBOY名義で制作に携わった「Feel So Alive」や、オランダの世界的DJであるAfrojackを迎えた「Summer Madness feat. Afrojack」、今市隆二のソロ曲「Over & Over」などの楽曲が収録され、三代目JSBの次のモードが伺える作風だった。


 そして、6月6日にリリースされる約2年ぶりのオリジナルアルバム『FUTURE』は、7人のメンバーそれぞれの役割と個性がさらに明確になり、音楽的にも大きな進化を遂げた作品となった。『FUTURE』は三代目JSBとしてのアルバムのほかに、ボーカルを務める今市隆二と登坂広臣、それぞれのソロアルバムを収録した三枚組で、三代目JSBの魅力を多面的に描いている。この作品を読み解くために、本稿ではソロアーティストとして活躍する3名、ELLYことCRAZYBOY、今市隆二ことRYUJI IMAICHI、登坂広臣ことHIROOMI TOSAKA、それぞれの音楽性を分析してみたい。


■CRAZYBOY


 三代目JSBのメンバーの中でもいち早くソロ活動を開始したCRAZYBOYは、最新のストレート・ヒップホップに真正面から挑戦したことで、J-POPのシーンのみならず、アンダーグラウンドのヒップホップシーンからも一目置かれる存在となった。


 2014年、先んじてソロデビューしていたEXILE / EXILE THE SECONDのSHOKICHIの楽曲「THE ANTHEM feat. DOBERMAN INC,SWAY,ELLY」でラッパーとしてのキャリアをスタートしたCRAZYBOYは、2017年2月に待望のデビューシングル『NEOTOKYO EP』をリリースする。


 WHITE JAMのラップ担当で、フリースタイルの名手としても知られるGASHIMA、湘南乃風や東方神起のヒット曲も手がけるトラックメイカーのDJ firstを迎えて制作した表題曲「NEOTOKYO」では、攻撃的なシンセサウンドとトラップの上で、オートチューンを絶妙に効かせた先鋭的なラップを披露。近未来の東京をド派手なビジュアルで表現したMVもさることながら、三代目JSBのメンバーでしか歌えない覚悟の決まったリリックや、ダンスと連動したマイクさばきにも注目が集まった。まさに、メジャーシーンのど真ん中で活躍するアーティストが表現する“SWAG”と言えるもので、ヒップホップシーンでも彼のスタイルに賛同するものは少なくなかった。


 NITRO MICROPHONE UNDERGROUNDのMC・DABO、過酷な生い立ちを鋭いリリックで歌い上げるANARCHY、2000年代のジャジーヒップホップ・ムーブメントを牽引したトラックメイカー・KERO ONE、Matt CabとTOMAによるプロデュースユニット・THE BACKCOURTなどが制作陣に名を連ねているのは、そのプロップスの現れである。


 ラッパーのダースレイダーは、CRAZYBOYの活動を「彼みたいな人が真ん中にドーンといることで、ほかのヒップホップ・アーティストの選択肢も増えるんですよ。(中略)いろんなスタイルが出てくることが、シーンの活性化であり、ヒップホップというカルチャーを盛り上げることに繋がるんです」と評している(参照:CRAZYBOYはヒップホップをどう変える? DARTHREIDER の『NEOTOKYO WORLD』評)。メジャーとアンダーグラウンドの架け橋としても、CRAZYBOYの活動には期待が寄せられているのだ。


 そんなCRAZYBOYは、7月4日に早くもベストアルバム『NEOTOKYO FOREVER』をリリースすることが決定している。このスピード感もまたラッパーらしく、頼もしい限り。


■RYUJI IMAICHI


 CRAZYBOYがヒップホップアーティストとして活躍する一方、RYUJI IMAICHIは世界基準のR&Bに挑戦している。2018年1月にリリースされた初のソロ名義シングル『ONE DAY』は、アーバンかつコンテンポラリーな仕上がりの洗練されたR&B楽曲で、その音楽的方向性は一作目にして極めて明確に示された。自身の俯いた肖像をモノクロで表現したシンプルなアートワークも、現行の海外のR&Bのモードを的確に反映させたものである。


 続く『Angel』は、日本のR&B界のヒットメイカーであるT.Kura、LL BROTHERSのTAKANORIとともに、RYUJI IMAICHIが作詞作曲を手がけた作品で、ファンキーなディスコチューンの上で爽快な美メロを聴かせる一曲に。軽やかさの中に色気を漂わせる歌い回しに、R&Bシンガーとしてのバランス感の良さが感じられる。


 そして、三作目からは海外の巨匠たちとともに、日本のR&Bの新機軸となる作品を模索し始める。RYUJI IMAICHIはなんと、フェイバリット・アーティストの一人であり、米R&B界でもトップクラスの美メロの達人であるBrian McKnightの自宅に2カ月間ホームステイして制作を行ったのだ。そうして完成したシングル『Thank you』は、Brian McKnight譲りの琴線に触れる繊細なメロディに、RYUJI IMAICHIの温かく優しい人柄を織り込んだスピリチュアルな作品となった。なお、ふたりの制作の模様は『FUTURE』付録の長編ドキュメンタリー『SEVEN/7』で観ることができる。


 さらに驚くべきことに、4作目『Alter Ego』は、いまもっとも注目すべき世界的R&Bシンガーのひとり、The Weekendのプロデューサー&エンジニアを務めるIllangeloが制作。昨今のモードであるアンビエントR&Bに取り組んだ同曲は、RYUJI IMAICHIの声の処理にもリバーブがかかり、空間的な奥行きを感じさせるメロウネスなサウンドに仕上がった。Alter Ego=別人格というタイトル通り、自身の抱える葛藤を描いた内省的な歌詞もまた、RYUJI IMAICHIの新境地といえよう。こうした作品を日本語で楽しめることに、ボーダーレスになりつつある昨今の音楽シーンの面白さと可能性を感じることができた。


 今回、『FUTURE』に収録されるRYUJI IMAICHIのアルバムには、さらにNe-Yoとの共作や、Brian McKnightとのデュエット曲も収録される。日本のR&B史においても、エポックとなる一枚といえそうだ。


■HIROOMI TOSAKA


 R&Bならではの繊細な歌唱表現を得意とするRYUJI IMAICHIに対し、HIROOMI TOSAKAは最先端のダンスミュージックと日本語詞の融合にチャレンジしている。ある意味、三人の中ではもっとも三代目JSBに近いアプローチといえそうだが、HIROOMI TOSAKAの場合はさらに先鋭的なリズム表現を追求しているところがポイントだ。


 特筆すべきは、全曲がオランダの世界的DJ/プロデューサーのAfrojackと共作を行なっているところだろう。Afrojackは、2010年代のEDMムーブメントを牽引した人物で、キャッチーな歌モノと狂騒的なシンセサウンドを組み合わせる独自のセンスと、フロアを確実に熱狂へと誘う展開力が高く評価されている。近年では、その音楽性を活かしながらトラップミュージックを手がけることも多く、ポストEDMともいえるサウンドを構築している。


 HIROOMI TOSAKAの楽曲群は、アムステルダムにて共同制作。第一弾シングル『WASTED LOVE』では、緊張感のある展開と、サビをインストゥルメンタルにする“音サビ”で、リスナーたちを驚かせた。続く『DIAMOND SUNSET』は、流行のトロピカルテイストを取り入れたチルアウトにぴったりな楽曲で、ミドルテンポのグルーヴとそれに合わせた譜割りが心地いい仕上がり。第三弾となる『LUXE』では、盟友CRAZYBOYとフィーチャリング。ダークで退廃的なサウンドを響かせたスリリングな一曲で、おそらくHIROOMI TOSAKAがもっとも挑戦したかった表現になっているのではないだろうか。


 本作を制作するにあたり、HIROOMI TOSAKAとAfrojackは歌詞をどうするべきか、議論を重ねたという。その結果が、無理のない日本語の発声でありながら、ダンスミュージックならではのグルーヴを感じさせる歌唱に繋がっているのだろう。Afrojackにとっても、日本語の響きをいかにダンスミュージックに落とし込んでいくのかは、大きな課題だったに違いない。


 日本のダンスミュージックの進化を占ううえでも、HIROOMI TOSAKAとAfrojackの実験的な取り組みは、興味深いものといえるだろう。


■振り切った表現が三代目JSBをネクストレベルへ


 こうして分析すると、CRAZYBOY、RYUJI IMAICHI、HIROOMI TOSAKAの三人は、それぞれの方法論でそのジャンルの最も尖った部分に挑み、J-POPの新たな可能性を切り拓いていこうとしているように見える。三代目JSBは、すでに国内の音楽シーンでトップを獲った存在であり、だからこそ自己更新するためには、世界基準を視野に入れた活動を展開していく必要があるのだろう。『FUTURE』と題された本作には、文字通り日本の音楽シーンの未来が描かれているのかもしれない。(松田広宣)