5月23日にJAF会長矢代隆義氏に提出された「第2次JAFモータースポーツ振興ワーキンググループ」による「モータースポーツ振興についての答申」(JAFのウェブサイトからダウンロード可能)を読んでいくと、これまでにない大胆な振興策が盛り込まれている。
特に注目すべき点はふたつ。ひとつはドライバーオブザイヤーの創設と顕彰だ。全日本選手権カテゴリーが数多く存在し、マスメディアからみたときに、本当のトップが誰か分からないという指摘が以前からあった。
この問題の解決を図るとともに、選考にマスメディアも巻き込むことで話題作りを狙っている。1,000万円以上の報奨金も用意するのも格付けを明確にするためだろう。
もうひとつ注目すべき点は「答申の具体的な議論」の中にある「ドライバー主体のレースについて」だ。少し長くなるがまず引用する。
「モータースポーツの勝敗には車両やエンジンなどハードの寄与度が高く、プレイヤーたるドライバーの技量の巧拙が観客や、視聴者から見えにくい。そこに自動車メーカーの参戦する意味があり、その関与度によってカテゴリーの盛衰が左右されることになる。既にコスト面からの制約が競技規則などに反映されつつある。
これからの社会情勢や技術動向から考えて、自動車メーカーの関与度が下がってくる可能性がある。
従ってこれからモータースポーツの振興を図るには、他のスポーツ同様にハードよりプレイヤーの超絶技巧が観客から見え且つ、勝敗に影響する形態が必要である。その為の技術、競技規則の作成検討をJAFとして行う。」(原文ママ)
答申書という文書の性格上、抽象化されているが、主旨は観客、視聴者を強く意識したエンターテイメント型のモータースポーツを実現するための車両規則を新たに作るということであり、その車両を新しい競技フォーマットで走らせることを目指しているように読める。既存カテゴリーの改造なのか、あるいは新規カテゴリーを創設するのか、その点には触れていない。
しかし、これまでの技術規則、競技規則はFIA制定の規則を国内に導入するか、統括団体が大枠を決めた規則をJAFとして認めるというケースが多く、JAFが主導してひとつのビジョンを目指して技術、競技規則を制定した例は少ない。
それだけにこの答申内容は画期的である。またこれまで欧州型の参加者側からの発想による車両規則、競技規則が中心であったこと考えれば、それを反転させ観客や視聴者側を軸に思考をスタートさせること自体、過激ですらある。
さらに答申内で創設を提言しているJAFモータースポーツ審議会直属のプロモーション・タスクフォース「モータースポーツ振興委員会(仮称)」が機能すれば、答申が絵に描いた餅で終わることなく、実現が推進されていくことが期待される。
「他のスポーツ同様にハードよりプレイヤーの超絶技巧が観客から見え且つ、勝敗に影響する形態が必要である」の具体的目指すところは、どこにあるのだろう? 分かりやすい“超絶技巧”はドリフトである。また、エンターテイメント志向で興行的に成功している例としては北米のストックカーレースが挙げられるだろう。
技術規則、競技規則の検討は今後創設される「モータースポーツ振興委員会(仮称)」によって具体化されていくはずで、日本人の嗜好に合った新しいエンターテイメント型カテゴリー提案の具体化が待たれる。