2018年05月30日 10:52 弁護士ドットコム
親が育てられない子どもを匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)の運用で知られる「慈恵病院」(熊本市)が、予期せぬ妊娠で危険な孤立出産を防ぐために、妊婦が匿名で出産できる「内密出産」の導入に向け、「国に法整備と法解釈の見解を求めたい」と5月29日、記者会見で話した。
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内密出産を推進する背景には何があるのか。慈恵病院がホスト役になり、赤ちゃんポストをテーマにした国際シンポジウム「アジアヘルスプロモーション会議」の議論を紹介したい。熊本市で4月14、15日に開かれ、アメリカ、ドイツ、韓国など11か国から400人が集まり、母子が抱える課題が話し合われた。(ルポライター・樋田敦子)
匿名で赤ちゃんを受け入れる「赤ちゃんポスト」は2000年、世界で初めてドイツで開設された。「ベビークラッペ」という名称で、保育園や母子支援施設を運営する「シュテルニパルク」がハンブルグに置いた。慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」は、この「ベビークラッペ」をモデルにしている。
ドイツでは以後、国内93か所に赤ちゃんポストが置かれ、病院での匿名出産も始まった。ところが子どもの出自を知る権利が保障されないとの批判を受け、2014年に内密出産法が制定された。以降、内密出産に集約されるかとも思われたが、現在も、赤ちゃんポストは存在し、母親の情報を一切明かさない匿名出産も、子どもの出自を知る権利を考慮した内密出産も行われている。
ドイツで2番目に赤ちゃんポストを設置した『アガぺの家』のガルベ・フリーデリケさん(73歳)がシンポに登壇。「母子の命を救うために、選択肢をできるだけ多く用意することが大事だ」と話していた。
アメリカでは2000年代以降、全ての州で消防署や病院を訪れて、新生児を直接渡せば匿名で預けられる法律ができた。これまで3400人が預けられたが、それでも3日に1人程度の新生児がゴミ箱や玄関先で発見されるなど、子どもが死亡する事件が後を絶たなかったという。
こうした状況を受けて、2015年にだれにも会わずに新生児を預けられる「ベビーボックス」の設置を許可する法律が成立。翌2016年には、インディアナ州で初めて、ベビーボックスができた。
創設したモニカ・ケルシーさん(45歳)は消防士。自身も生後2時間後に病院に遺棄され、特別養子縁組で養親の元で育った。37歳のとき、実母に会いに行った。そこで、自分が実母が17歳で性暴力を受けてできた子どもであることを知った。実父が性暴力の加害者であることにショックを受けたが、実母が「会いたがっていた」ことを知った。
「出自を知る権利は重要だが、まずは子どもの生きる権利が優先です。顔を合わせて新生児を託す方法では、小さな町では、すぐに誰だかわかってしまう。赤ちゃんポストは決して良い選択ではないけれど、完全な匿名性を確保するためには必要です」
全米50州にベビーボックスを設置すべく活動を行っている。インディアナ州では、ベビーボックスができて以降、遺棄事件はなくなった。
韓国では、ジュサラン共同体教会が、2009年に初めてベビーボックスを設置した。当初、預けられる赤ちゃんは毎年平均で20~30人だったものの、2012年に養子縁組特例法が施行されて大きな変化があった。同法は生みの親による出生登録を義務化したため、10代の未婚の母の子どもや婚外関係で生まれた子どもがベビーボックスに預けられ始めたのだ。17年まで毎年200人以上が保護されているという。
「ベビーボックスは緊急救済所。乳児の遺棄問題を解決するためには、ドイツ型の秘密出産が必要です。そのため『秘密出産に関する特例法案』を作って、国会議員に働きかけ国会に提出しました。法案には母親に関する情報の開示や、父親に国が養育費の請求する、などと盛り込んだ。この制度が広がれば、ベビーボックスへの預け入れが少なくなると思う」と、イ・ジョンラク牧師は語った。
そして日本からは、慈恵病院の蓮田健副院長が、内密出産のシステムについて説明。ゆりかごの利用が減少傾向にあり、社会的な関心が低くなってきているのではないか、とも危惧した。また「誰にも知られずに病院で産みたい」という相談も多いことから、内密出産を進めているが、母親の情報を管理する機関が決まっていないこと、家族の同意なしに医療行為を行った場合の病院の責任の所在など、課題は山積みだとした。
(弁護士ドットコムニュース)