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渡部篤郎、坂口健太郎の行く手を阻む徹底した悪役に 『シグナル』卑劣な警察の姿

2018年05月30日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 言葉を失うほどに卑劣な警察の姿に思わず観ていて苦しくなる。『シグナル 長期未解決事件捜査班』(関西テレビ・フジテレビ系)の第8話は、核心に迫り、悲しみに暮れる姿で終わった。冒頭から岩田一夫(甲本雅裕)の独白、そして死という重々しいシーンで始まると、武蔵野市の集団暴行事件の真相、三枝健人(坂口健太郎)の兄である加藤亮太(神尾楓珠)が無実にも関わらず罪を着せられた理不尽さなど、心苦しい展開が続いた。


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 未解決捜査班は、岩田の殺害現場にいたことで殺人の容疑者となってしまった健人の件で、岩田殺害事件の捜査から外れることに。しかし健人が、自身の知っている真相を桜井美咲(吉瀬美智子)に打ち明けたことで、警視庁の抱える隠蔽を暴こうと捜査をはじめる。このシーンでは、これまでの事件で培ってきた、健人と未解決捜査班の強い絆が描かれ、心強さを感じずにはいられなかった。健人が家族を大切にする想いに呼応するように、しっかりと寄り添う未解決捜査班の姿に、健人はもう孤独ではないのだとわかる。中本慎之助(渡部篤郎)の心ない態度や、事件の真相で観ていて気が滅入ってしまうシーンが多いところをカバーし、暖かい気持ちを思い出させてくれた。


 一方、中本を演じる渡部篤郎は、徹底した悪役で健人の行く手を阻み、ドラマを盛り上げる。一切自分の悪事を名言せずとも、悪の道へ手招きするような台詞回しはインパクトの強いものとなった。完全な悪役として描かれ、渡部のまとう品位と権威によって、その手口の狡猾さはさらに誇張されて視聴者に届く。憎しみに溢れてしまうほどの悪役を演じきれてしまう実力に、ただただ圧倒された。


 第8話では、今までの事件や、劇中で解明されていなかった謎が「なぜ」こうなってしまったのかという理由が明かされる回となった。具体的な解決はしていないものの、物事が起こる「経緯」をしっかり描くことで、今まで以上に感情移入しやすい回となった印象だ。大山剛志(北村一輝)の抱えるジレンマに対して釈然としない気持ちになったり、健人の兄が背負う理不尽の重みを感じたり。各々が役を通して表現した”やり切れなさ”は、第8話の最も重要なスパイスとなった。そんな理不尽さを抱えつつも、ラストシーンでは第1話から謎とされていた大山の行方が発見されるなど、物語の進展を肌で感じられる展開となる。岩田の死で始まり、大山の死体の発見で終わる流れは、物語の展開を汲んでいて非常に綺麗な構成だったと言える。


 また、関係性を描き、謎を散りばめてきた第1話から第6話に対し、第7話からは伏線回収に徹底した。さらに第8話では前回に関与した事件を深掘りする展開となり、全体を通しても非常に質の高い作りになっている。視聴者への問題提起から、起こった問題の事実を見せていく段階、そして知的好奇心に強く訴えかける解明の段階を経た構成は、後半の重要なシーンにおいて視聴者が健人と大山の抱える想いに深く入り込む手助けとなっただろう。盛り上げるべきところでしっかり視聴者の気持ちをリードできる作品の手腕を感じた。


(Nana Numoto)