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ポルシェの“本気”が見える新GT3 R。「多くのカスタマーに受け入れられるはず」

2018年05月29日 17:41  AUTOSPORT web

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2019年からデリバリーが予定される新ポルシェ911 GT3 R
2018年に向けて、ベントレー・コンチネンタルGT3やアストンマーチン・バンテージ等新たなGT3カーのカスタマー向けのデビューが予定されているが、なかでも注目なのが5月11日に発表されたポルシェ911 GT3 Rだ。その改良点のポイントを、ポルシェのモータースポーツ/GTカー担当副社長であるフランク・シュテファン・バリザー博士に聞いた。

 GT3の黎明期からカテゴリーを支えてきたポルシェだが、ドイツやイタリアを中心とした各スポーツカーメーカーが多くの魅力的なマシンをマーケットに投入してきたことから、相対的にシェアは低下していた。2016年からは現行のタイプ991のデリバリーが始まり、今季はさらにフロントの空力を改善するアップデートパーツを販売。その競争力はニュルブルクリンク24時間での優勝や、スーパーGTでの活躍でも証明されている。

 そんなポルシェ911 GT3 Rのさらなるパフォーマンスアップを狙ったのが、今回発表された2019年モデルのGT3 Rだ。GT3カーは最終的にシリーズによる性能調整が施されるため“圧倒的に速い”というわけにはならないが、これまでの弱点をつぶし、GT3の特徴である“クルマを買うカスタマーチーム&ジェントルマンドライバー”を意識した改良が施された。その範囲は、これまでのモデルのアップデートは対応していないほどだ。

 このGT3 Rについて、ポルシェのモータースポーツ/GTカー担当副社長であるフランク・シュテファン・バリザー博士に話を聞くと、「基本的に911のコンセプトは前モデルと同様だが、ひとつひとつのディテールはすべて新しくなっており、同じ部分はまったくないはずだ。ドライビングフィールを含めてね」と教えてくれた。

■カスタマーからのリクエストを改善
 19年からの新GT3 Rの特徴は数多い。エンジンはエキゾーストの可変バルブタイミング機構を備え、ドライバビリティを向上。燃焼効率も高められた。また、『Eクラッチ』というボタンによって発進が非常に簡単になっている。

「油圧装置を備えており、クラッチはボタンを操作して繋ぐことになる。非常に操作は簡単だ」とバリザー。モータースポーツにおいてこういったシステムの耐久性は問題がないのだろうか? という質問をすると、「使用するのはわずか数秒だからね。ポルシェとして採用するのは初めてだが、他メーカーも使っているし、その有用性は証明されている。GT500やDTMでも採用されているものだよ」と教えてくれた。

 また、ポルシェはそのレイアウトから、これまで給油マンがボンネットに登ってリグを刺していたが、その光景は今季までだ。給油口は左右を向きふたつ備えられ、片方だけを露出することでコースの右向き、左向きに対応する。

 これらの内容からも分かるとおり、新GT3 Rはカスタマーチームやドライバーからのリクエストが大いに反映されていることが伝わってくる。これまでのGT3 Rに装着されていたヘッドライトは光量も少なく、今季ドバイ24時間に参加したD'station Racingのドライバーたちからは「見えない」という意見も出ていた。

 しかし新たなLEDヘッドライト(すでにニュル等での使用を想定したキットとしては存在していた)は「ライトの光量も今までとは比較にならない。GTEと同等のものを使っているよ。日本人は夜が見づらいって? もう大丈夫だろう」とバリザー。

 ポルシェのGT3カーとしては初となるエアコンの装着、重心位置の変化を防ぐべく固定化。アジャスタブルペダルボックスを組み合わせ、ドライビングポジションを合わせる。また、ボンネットピンもフラットタイプが採用されたりと、作業性も考えられている。

■「GT3マーケットの10~15%のシェア獲得を」
 もちろん、性能面の向上が新GT3 Rの最大のセールスポイント。フロントフェンダーのリップ、フェンダー上部のホイールアーチエアベントなど、さまざまな空力面での改良により、なんと30%ものダウンフォース向上を果たしている。フロントタイヤサイズの変更、GTE譲りのダブルウィッシュボーンのサスペンションなど、これまでのポルシェの概念を覆す開発が行われた(当然、GT300ではこれに合わせたタイヤ開発が重要になるだろう)。

「ポルシェとしては、GT3マーケットの10~15%のシェア獲得を目指していきたいと思っている。先ほど述べたEクラッチをはじめ、エアコンを初めて搭載している。ベストなコンディションで走れればジェントルマンはもちろんプロにも受け入れられると思うし、台数も増やせると思っている」とバリザーは新GT3 Rの出来映えに自信をみせる。

「シートも固定式になったし、空力性能が上がりブレーキ性能も上がったので、プロ、アマ問わずに日本のカスタマーに受け入れられるGT3カーになっていると思う。もちろん日本ではスーパーGTはもちろん、ブランパンGTシリーズ・アジアのカスタマーにも受け入れてもらえると思っている」

 激化するGT3マーケットに向け、巨人ポルシェが本腰を入れて取り組んだのがこの新型GT3 Rなのは間違いない。価格の面も含めて、日本のレーシングチームにとっても気になる存在になるだろう。