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Superfly、1年7カ月ぶりのシングルで迎えた新たなスタート 「今だからできることを積み重ねて」

2018年05月28日 16:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 Superflyがニューシングル『Bloom』をリリースする。昨年4月にデビュー10周年を記念したベスト盤『Superfly 10th Anniversary Greatest Hits “LOVE, PEACE & FIRE”』を発表し、11月には『Superfly 10th Anniversary Premium LIVE “Bloom”』を開催したSuperfly。1年7カ月ぶりのリリースとなる本作には休養期間を経て、新たなスタートを切った現在のモードが色濃く反映されている。


 リアルサウンドでは、越智志帆にインタビュー。壮大なオーケストラサウンドを取り入れ、いしわたり淳治が作詞、蔦谷好位置が作編曲を担当した表題曲「Bloom」、越智自身が作詞作曲を手がけ、ジャズのテイストを前面に押し出した「Fall」、Disc.2に収録された「Superfly 10th Anniversary Premium LIVE “Bloom”」の音源を中心に語ってもらった。(森朋之)


■「休んでいる間もずっと『Bloom』のことが忘れられなかった」


ーーニューシングル『Bloom』の表題曲は、オーケストラとの共演による美しいバラードナンバー。楽曲の制作はいつ頃からスタートしたんですか?


越智志帆(以下、越智):曲自体はアルバム『WHITE』(2015年5月)を作っていたときのデモ音源のなかにあったんです。でも、そのときは「いま歌うべき曲じゃないかな」という感じだったんですよね。当時はポップな曲よりも、ちょっと変わったアプローチの曲に興味があったから、「いい曲だけど、ちょっと違うな」と思ってしまって。その後、アルバムのツアーと次の年(2016年)のアリーナツアーをやって、次の制作に向けてデモを聴き直したときに「なんて素晴らしい曲なんだろう!」と感じました。


ーー曲の印象が変わった?


越智:そうですね。長いツアーが終わって、「柔らかい曲を歌いたいな」と思ったのかな。デモの段階ではシンプルなバンドアレンジだったんですが、「どうしてこの曲を歌わなかったんだろう?」というくらい感動してしまって。仮歌だけ録って、その後私自身が体調を壊してしまって休みに入ったんですけど、その間もずっとこの曲のことが忘れられなかったんです。お風呂でもよく鼻歌で歌ってたんですけど、とにかくメロディが綺麗で、歌っていると癒されるんですよ。浄化作用ですね(笑)。その期間に口ずさんでいたのはこの曲だけだったから、よほど心に残っていたんでしょうね。


ーー休んでいた期間を経て最初のシングルが「Bloom」になったのは、必然だったんですね。


越智:そうだと思います。ずっとこの曲が頭のなかにあったし、去年の11月のライブ(『Superfly 10th Anniversary Premium LIVE “Bloom”』)が決まったとき、「ぜひお客さんにも聴いてもらいたい」という気持ちになって、蔦谷好位置さんにオーケストラアレンジをしてもらったんです。きらびやかでハッピーで、陽の雰囲気をまとったサウンドというのかな。蔦谷さんはこういうアレンジが得意だし、とても気合いを入れてくれた印象がありました。イントロでストリングスのメロディが上がり下がりするパートがあるんですけど、実際の演奏を聴いたときにすごく感動して。「あのフレーズが素敵でした」と蔦谷さんに伝えたら、「あれはカーテンを1枚1枚開けていくようなイメージでアレンジした」と言ってたんです。そのイメージ、私もすごく共感できたんですよね。ライブで歌うことだったり、再スタートというイメージも重なって、「感動の理由がわかった!」って。蔦谷さんとは、そういう共鳴ができるんですよ。彼は映像をイメージしながら音を作ることが多くて、私は音を聴くことで映像を想像するので。


ーー作詞のいしわたり淳治さんも、「愛をこめて花束を」をはじめSuperflyの楽曲を数多く手掛けています。


越智:『WHITE』のときに久々に参加してもらったのですが、今回もぜひお願いしたいと思いました。「Bloom」はライブで聴いてもらうことが決まっていたので、「10周年であることを含めて、感謝の気持ちを歌いたいです」とお伝えして歌詞を書いていただきました。「愛をこめて花束を」もいしわたりさんの歌詞だから「あれから10年経って、きれいな花が咲いた」というイメージもありましたね。サビ頭の<咲いた>というフレーズは私が入れたいと言ったんですよ。


ーー大らかなメロディと<咲いた>という言葉のマッチングがすごくいいですよね。


越智:ひとつの音符にひとつの文字を乗せたかったんです。ライブで聴いてもらうという目的もあったし、ちゃんと言葉が伝わる歌詞にしたいなって。お客さんは初めてこの曲を聴くわけだし、音や言葉を詰め込み過ぎると伝わりづらいですからね。いしわたりさんの歌詞は、もともとすごく歌いやすいんです。音に対する言葉の乗せ方が自然で、なめらかで。「Bloom」では<誰も気づかないかもしれない/こんなささやかな花には>という歌詞がいちばん好きですね。大きいスケールの曲なんですけど、こういうリアルなフレーズが入っているのがすごいし、人間らしい温かさが伝わってきて、ここを歌うたびにグッと涙が出そうになるんですよ。この歌詞があることで、花の健気さ、強さがさらに感じられるというのかな。レコーディングのときも、ここを切なく聴かせるにはどうしたらいいんだろう? って考えてましたね。あえてノンブレスで歌って、息が苦しくなる感じが切なさにつながるんじゃないか、とか。ブレスを入れるかどうかで歌の表情は大きく変わるし、そういう工夫をしたくなる歌詞なんですよね。


ーーなるほど。レコーディング自体も久しぶりだったんですよね?


越智:1年ぶりくらいですね。スタジオに行く前はドキドキしたし、ちょっと怖いなって思ってたんですけど、大所帯のストリングスの演奏を聴いたときにうっとりしちゃって(笑)。すぐに「ここはこういう感じにしてほしい」というアイデアも自然と出て来たし、みなさんの素晴らしい演奏によって、すっと制作に入ることができました。ミュージシャンの方々と「久しぶり。元気だった?」みたいな話をするのも楽しかったですね。


■「完璧じゃない部分も歌詞に込められるようになった」


ーー2曲目の「Fall」は志帆さんの作詞・作曲によるナンバー。SOIL&“PIMP”SESSIONSのメンバー(秋田ゴールドマン/Ba、みどりん/Dr)が参加した本格的なジャズサウンドによる楽曲ですね。


越智:そう、すごく本格的なジャズなんですよ。最初はちょっと躊躇ったというか、もっと無機質な音も入れたほうがいいのかなと思ったんですけど、アレンジの蔦谷さんと相談しているうちに「生音を活かしたストレートなジャズにしよう」ということになって。いい曲になったし、やって良かったなと思います。


ーージャズはもともと好きなんですか?


越智:休んでるときは、インストのジャズかクラシックをよく流していたんです。時間を縦に刻むような音楽ではなくて、気持ち良く揺れるような感じだから、ぜんぜん邪魔にならないんですよね。ジャズはセロニアス・モンクばっかりでしたけど(笑)、(『Fall』のジャズアレンジには)そういう影響もあるのかな。この曲はドラマ(TBS系金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』)の主題歌で、番組のスタッフの方から「スピード感のある曲がほしい」と言われていて。ただ、私としては今までのようなロックチューンがイメージできなかったんです。もっと跳ねたリズムがいいなと思ったのも、こういうアレンジになった理由かもしれないです。


ーーいまの志帆さんのモードが反映されているんですね。<hey hey hell 地獄へ堕ちてゆけ>みたいなフレーズもあるから、ロックアレンジにするとKISSみたいになりそうだし。


越智:確かに(笑)。不倫のドラマだから、「できるだけドロドロしたほうがいいな」と思って。あとは“毒が身体に回る”とか“落とし穴”というキーワードを番組側からもらったんです。そこから“魔が差す”というワードが浮かんだときに「書けそう!」と思ったんですよ。“魔が差す”って恋愛に限ったことでもないじゃないですか? 私もよく魔が差すというか(笑)、あとになって「何でこんなことやっちゃったかな」っていう失敗が多いんです。誰でもそういう経験はあると思うし、みなさんに共感してもらえるんじゃないかなって。この曲の主人公は、男の人に近づいて“魔が差す”という状態にする魔物みたいな存在をイメージしました。自分の経験を活かしつつ、ちょっとファンタジーっぽい感じにしたというか。


ーー志帆さん、“よく魔が差す”というイメージはないですけどね。Superflyのパブリックイメージは、どちらかというと“強くて凛とした女性”じゃないですか?


越智:よく言われるんですけど、ぜんぜんそんなことないんです。しょっちゅう魔が差すし(笑)、ドジなので。そういう完璧じゃない部分も歌詞に込められるようになったんでしょうね。「Fall」もそんなに深刻な感じではなくて、男性に近づいた魔物のような女性が「この男、バカだな」って鼻で笑うくらいのテンションなので。


ーー失敗を肯定する感じ、いいですね。


越智:そうですよね。私も自分の失敗が許せないタイプだったんですよ。ライブのときも、何かミスするたびに心がギスギスしてしまって……。いまはそれも変わってきましたね。去年の11月のライブのとき、すごく久々に鍵盤の弾き語りをやったんです。きっと本番は緊張するだろうから、一生懸命に練習して「これなら大丈夫」という状態まで持っていって。本番でもノーミスだったんですけど、最後の最後、「ここは感動するだろうな」というところでミスして、不協和音みたいな音を出しちゃったんですよ。以前だったら「ステージに立つ資格がない」って落ち込んだと思うけど、そのときは「私じゃなくて鍵盤が悪い」って(笑)。そこはずいぶん変わったと思います。


■「いままでの自分に捉われずに歌いたかった」


ーーシングルのDisc.2には、そのときのライブ(『Superfly 10th Anniversary Premium LIVE “Bloom”』)の音源を収録。いまの話を聞く限り、リラックスしてやれたのかと思いましたが、いかがですか?


越智:はい。最初は不安だったんですよ、実は。1年半以上まったく人前で歌ってなかったし、大きな声を出すこともなかったので。でも、ステージに上がってみたら、まったく緊張しなかったんです。準備を丁寧にやったおかげもあると思うけど、「自分の家にみんなが遊びに来た」くらいの気持ちでステージに立てたので。普段とは違うクラシックホールのライブだったから、私が緊張しちゃうとお客さんもガチガチになっちゃいますからね。そうならなくて良かったです。とてもリラックスできていたし、スッキリしました。「歌うって健康的!」みたいな。声を出すって、身体にいいですよね。


ーー健康法の話みたいになってますが(笑)。


越智:(笑)。本当に気持ち良かったんですよ。身体の底からエネルギーがグーッと湧いてきて、それが循環して。ミュージシャンのみなさんの雰囲気も良かったんです。再スタートという意味合いもあったし、それが「みんなで一緒にライブを作ろう」というムードにつながったのかなって。


ーーそもそも、どうして再スタートを見せる場所がオーケストラライブだったんですか?


越智:何でだったかな?


スタッフ:自分で言い出したんですよ。


越智:あ、そうだ(笑)。まず「バンドじゃないな」と思ったんです。バンドでリアレンジするとどうなるか予測がつくし、過去の自分に戻ってしまう気がして。だったらオーケストラのみなさんと一緒にガラッと変えて、いままでの自分に捉われずに歌いたかった。知らないこと、わからないことがやりたかったんでしょうね、きっと。実際にライブを作っていくのは大変でした。最初はもっと小さい編成をイメージしてたんだけど、やりたいことがどんどん増えていって、最終的には30人近い大編成になって。音の圧もしっかりしていたし、歌っていて気持ち良かったです。


ーー歌われた楽曲も「愛をこめて花束を」「Force」「Alright!!」など代表曲ばかりですからね。Superflyの楽曲の良さを再認識できたのでは?


越智:そういうところもありました。多保(孝一)くんの曲が多いんですけど、とにかくメロディがいいし、どんなアレンジにしても、曲の個性がまったく消えないんです。「Good-bye」も歌っててすごく気持ち良かったですね。自分を解放できたし、空を飛んでるような感覚があって。普段から「リラックスしよう」と意識して生活していたのも良かったんでしょうね。当日は「いまできることをやればいい」という気持ちになれていたし、ご機嫌だったせいか、MCの予定はなかったのにめちゃくちゃ喋っていたみたいで(笑)。幕間で映像を流していたんですけど、ステージ袖に引っ込んだときにスタッフから「よくしゃべるね」って言われました(笑)。


ーー気負いがないというか、いい意味で肩の力が抜けていたんでしょうね。


越智:そうですね。ステージに立ってみないとどうなるかわからないと思ったから、事前にスタッフさんたちにも「止まりたかったら止まるかもしれないし、喋りたくなるかもしれないです」と伝えていて。“その場の空気によって”みたいなことも、休む前はできなかったんです。演出はもちろん、曲間もあらかじめしっかり決めて、それを再現するという感じでライブに臨んでいたので。気持ち的に一呼吸置きたいときも、「予定通り、すぐに次の曲に行こう」みたいな感じでやっていたというか。11月のライブのときはまったくそうじゃなくて、気持ちも楽でした。


ーー思い切って休んだことが良かったのかもしれないですね。


越智:そうだと思います。11月のライブをやると決めたときは「まだ早いかな」と思ってたんですよ、実は。でも、想像以上に気持ち良く歌えたし、「Bloom」も披露できて。いいきっかけになりました。


ーー夏にはフェスの出演も決定しています。活動のペースも上がっていきそうですか?


越智:拳を挙げて「行くぞ!」という感じではないですけどね(笑)。この先は良い意味で変わっていく時期だと思うし、過去に捉われず、今だからできることを積み重ねていきたいなって。パワフルな曲を求められることもあるだろうけど、もしかしたら本当の意味では今のほうがパワフルかもしれないし。「Fall」も激しい曲だけど、今までとは違う、妖艶な激しさを表現できたと思ってるんですよ。そのときどきの自分をしっかり出しながら、ゆっくりやっていきたいです。


ーー音楽性も変化しそうですか?


越智:自分でも、「これからどうなるんだろう?」と思ってますね(笑)。いちリスナーとして音楽に接するときに、生活のなかで自然に入ってくるものもあるし、そのなかで「これはいいな」と感じるものを作品として発表していって。それが最終的にどうなるかは、まだわからないです。無意識に任せて作っていって、それを一つにまとめたときに「こういう流れになったんだね」ってわかればいいかなって。どうなるか、私自身も楽しみです。(取材・文=森朋之)