トップへ

韓国インディロックに新展開? Silica GEL、Say Sue Meら変わりゆくシーン牽引するバンド4組

2018年05月28日 15:32  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 「韓国の音楽」といえば、グローバルに躍進を続けるK-POPのアイドルグループを真っ先に思い浮かべる人が多いだろう。その一方で、新曲「Citizen Kane」も話題のHYUKOHや、女性シンガーソングライターのイ・ランの活躍を通して、日本でも、K-POP以外の音楽が浸透しはじめている。


 とはいえ、日本で注目を集めやすかったのは、チャン・ギハと顔たちやSultan of the Disco、そして前述のHYUKOHなど、ファンクやディスコ、R&Bのフィーリングを消化したものーーつまり、いわゆる「ブラックミュージック」の影響が色濃いものだったように思う。


 ここ1~2年で頭角をあらわしてきたロックバンドは、そうした系譜とはまた違ったサウンドを奏でている。本稿では、4つのバンドを例に、韓国インディロックのいまを紹介しよう。


■Silica GEL
 Silica GEL(シリカゲル)は、2013年、ソウル芸術大学の学生を中心に結成された7人組。2015年に1st EPをリリースして注目を集め、2016年には韓国大衆音楽賞の新人賞を受賞。楽器の演奏を担当するメンバー5人全員が作曲を担当しているため、サウンドはバラエティに富む。フォーキーであったり、ファンキーであったり、ドリームポップ的であったり、まさにハイブリッド。と同時に、どこか牧歌的で人懐こいメロディに韓国らしさを覚える。


 アートワークやMVも自ら手がけるDIY精神も見どころだ。これからの活躍が期待されていたが、残念ながらメンバーの兵役の関係で現在は活動休止中。カムバックが果たされることを願ってやまない。


■ADOY


 ADOY (アドイ)は、2017年にデビューした4人組バンドだ。活動開始から日は浅いものの、他バンドでキャリアを積んだメンバーが集まっている。ボーカルのオ・ジュファンとドラマーのバク・グンチャンは、SUMMER SONICへの出演経験もあるEastern Sidekickの元メンバーだ。Eastern Sidekick時代はガレージロックにのせてワイルドな歌声を披露していたオ・ジュファンは、ADOYでは80年代を意識したシンセポップの上でささやくような甘いボーカルを聞かせてくれる。流麗なメロディラインと女性コーラスが印象的だ。


 彼らのEPやシングルのアートワークには、少しレトロなアニメ調のイラストが用いられている(上のジャケ写は最新曲「Young」のもの)。手がけているのは韓国の画家であるAokizy。サウンドの質感とあいまって、折からの80年代リバイバルのみならず、ヴェイパーウェイヴやフューチャーファンクの文脈も深読みしたくなる。


■Se So Neon
 2017年もっとも注目を集めたバンドといえば、2016年結成の3人組Se So Neon(セソニョン)だ。つい先日(5月22日)初来日公演を果たした彼らは、正式に音源をリリースする前からそのパフォーマンスが評判を呼んでいたが、2017年リリースのデビューEP『夏羽』が評価され、2018年の韓国大衆音楽賞では新人賞と最優秀ロックソング賞を受賞。ミュージシャンからの支持も厚く、2017年の単独公演で、HYUKOHがシークレットゲストとしてオープニングアクトを務めたことも話題になった。


 彼らの魅力は、抜群の演奏力とうねるようなグルーヴだ。サイケデリックなギターと縦横無尽に動くベースライン、力強いドラムスのアンサンブルには、新人らしからぬ貫禄がある。女性ボーカル兼ギターを務める、ファン・ソユンのハスキーで中性的な歌声も、バンドにとって重要なアクセントになっている。骨太さと繊細さを兼ね備えた音楽性に、今後の活躍が期待される。


 これまで紹介した3バンドはいずれも、ソウルが拠点だ。ソウルはインディシーンの中心地であるホンデを抱えていることもあって、バンドが集中している。それに対して、最後に紹介するSay Sue Me (セイ・スー・ミー)は、朝鮮半島の南端、釜山を拠点として、グローバルに注目を集める4人組のインディロックバンドだ。


■Say Sue Me
 彼らのサウンドは、主に60年代のサーフロック。しかし、メロディやリフには90年代のUSインディを思わせるポップさがある。深いリヴァーブの手触りは、シューゲイザーやドリームポップといってもいいだろう。ボーカル兼ギターのチェ・スミは女性で、話し声の美しさがきっかけでバンドに誘われたというだけあり、淡々とした透き通るような歌声が、ストレートなギターロックのサウンドに溶け込んでいる。


 2012年の結成以来彼らは、多くのライブハウスを抱えるソウルとは違い、会場もオーディエンスの絶対数も少ない釜山で、地道に活動を続けてきた。しかし、イギリスのレーベル<Damnably>を通じて欧米のリスナーに紹介されると一躍話題に。たとえば、先ごろリリースされた最新作『Where We Were Together』(6月には日本盤もリリースされる予定)からの楽曲は、『BBC6』でヘビープレイされている。


 このように、韓国のインディシーンはいま、サウンドのクオリティが高く多様性にも富むバンドが次々と登場し、活況を呈している。また、インディといえばホンデといった一極集中の傾向を覆すように、釜山発のバンドが欧米のリスナーの注目を集め、逆輸入的に評価を高めてもいる。言うなれば、ゼロ年代末から次第に盛り上がってきたシーンが成熟し、音楽的にも、地理的な勢力図から見ても、次の展開を予感させるプレイヤーが揃いつつあるのだ。日本でも夏フェスやライブハウスに韓国のミュージシャンが登場することも珍しくなくなったいま、一度K-POPに限らない韓国インディロックのサウンドに触れてみてほしい。(文=imdkm)