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可夢偉のスーパーフォーミュラ初優勝を奪ったいくつかの“分かれめ”/第3戦SUGO

2018年05月27日 21:01  AUTOSPORT web

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小林可夢偉/carrozzeria Team KCMG
小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)の優勝がSUGOの魔物に食われた。全日本スーパーフォーミュラ選手権第3戦の決勝レースで序盤から速さを見せ、トップを走行した可夢偉は、チェッカーを受けたとき6位。その分かれめはどこにあったのか。

 スーパーフォーミュラ第3戦の決勝レース、可夢偉は2番グリッドからスタートした。可夢偉がスタートに選択したのはソフトタイヤ。一方、優勝した山本尚貴(TEAM MUGEN)もソフトタイヤを履き、6番グリッドからスタートした。2018年のスーパーフォーミュラはレース中のタイヤ交換義務があるため、最低でも1回ピットインを行い、ミディアムタイヤを履く必要がある。

 可夢偉はポールポジションの野尻智紀(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)に続き、2番手でオープニングラップを終える。さらに14周目のメインストレートでトップの野尻に並ぶと、1コーナーの飛び込みでアウトからオーバーテイク。トップに浮上するとその周だけで2番手以下との差を1秒に広げる速さをみせる。

「走り始めから野尻選手よりも速いなとは思っていました」

 レース後、可夢偉はそう語っている。しかし、千代勝正(B-MAX RACING TEAM)とジェームス・ロシター(VANTELIN TEAM TOM'S)の接触アクシデントにより、18周目にセーフティカーが入った。これがひとつめの“分かれめ”だ。

 セーフティカーが入ったタイミングで、山本はすぐさまピットイン。一方、可夢偉はコース上にとどまりステイアウトを選んだ。どちらもチームの指示だ。

 ステイアウトした可夢偉は、コース上でプッシュし続けた。2年前、関口雄飛(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)が見せた作戦と同じ展開に持ち込もうとしたのだ。

 2016年のスーパーフォーミュラ第6戦SUGOで、関口がトップ走行中にセーフティカーが導入された。ピット作業を行っていなかった関口は、レース再開後に猛プッシュ。すでにピットを終えた2番手以下に34秒という大差をつけてピットインし、トップの座を守ったままコースに復帰すると、そのまま優勝を飾ってみせた。

 そのレースの再現なるか──。スーパーフォーミュラファンの頭には、このときのレースがよぎったことだろう。

「だから、(コース上でプッシュしようと)頑張ったんですよ」と可夢偉は言う。ソフトタイヤで周回を重ねる可夢偉のペースは、確かに安定していてなおかつ速かった。38周目にはそのときのファステスト、1分7秒894を記録している。可夢偉はもともと、ソフトタイヤの方が(マシンに)合っているとコメントしており、相性のよさも一役買ったのかもしれない。

 山本はピットアウト後、事実上のトップ争いの相手である可夢偉を追いかけたが、その差は詰まらなかった。このときの状況について、山本は「なんとしても可夢偉選手に離されないようにしなければと思っていたけれど、燃料が重くなかなかペースが上がらなかった」と語っている。

 ピット作業後にふたたびトップでコースに戻るべくプッシュする可夢偉と追う山本。確実に可夢偉のマージンは広がっていたが、ここでふたつめの“分かれめ”がやってきた。可夢偉のマシンに搭載された燃料量だ。ラップペースが落ちないなか、可夢偉は44周目でピットイン。山本との差は30秒もなかった。付け加えると、可夢偉のピット作業時間は17.2秒とやや長めでもあった。

「燃料はあったんですけど、僕たち、(2017年第3戦)富士でパーコレーションが起きてエンジンが止まってしまいました。そのリスクを避けたかったんです。それを考えると、あのラップ(44周)がデッドラインでした」

 とはいえ、可夢偉は山本との差が35秒あっても優勝は難しかったと考えている。

「35秒(山本との差が)あっても無理だったと思います。可能性はありませんでしたね」

 ミディアムタイヤを履いてピットアウトした可夢偉は、トム・ディルマン(UOMO SUNOCO TEAM LEMANS)の後ろ、11番手で戦列に戻っている。このとき、山本は可夢偉のはるか前方の5番手。その差は大きく、残り周回数は23周。現実的に考えて、優勝争いからの脱落が決定的となった瞬間だった。

「ミディアムタイヤだからよけい厳しかったです。ピットアウトからのウォームアップが悪かったから、けっこうきつかったですね。僕なりに頑張りましたけど、あれが精いっぱいでした」

 レースにタラレバはない。しかし、もしセーフティカーが導入されていなかったら、もし燃料さえもてば……。さまざまな“if”が重なり合い、可夢偉の優勝を奪っていった。

「もしなにもなければ勝てたか? 100%(勝てた)」

 2015年からスーパーフォーミュラに参戦し、今年でフル参戦3シーズン目を迎えている可夢偉だが、いまだ表彰台の頂点には手が届いておらず、今回もあとわずかのところで勝利が手からこぼれ落ちてしまった。

 今シーズンは第1戦鈴鹿で予選10位、決勝10位。第2戦オートポリスは予選8位、そして第3戦SUGOは予選2位と確実に調子は上向いている。7月の第4戦富士スピードウェイまでの1カ月強。「どんな気持ちで迎えばいいか分かんないですよ」という6月のル・マン24時間耐久レースで大金星を挙げて、その勢いのまま乗り込めるか。