2018年05月27日 10:12 リアルサウンド
新たなアウトロー・ムービー『ゼニガタ』が、5月26日に封切られた。主人公のダークヒーローを演じるのは、韓国から逆輸入的に日本デビューを果たし、日に日に勢いを増し続ける大谷亮平。
今回リアルサウンド映画部では、表の顔は居酒屋店主、裏の顔は闇金稼業である主人公・銭形富男を演じた大谷にインタビューを行った。映画初主演を果たした本作の魅力や撮影現場での様子、さらには日本での俳優活動について話を聞いた。
■『ゼニガタ』が映画初主演作にして、日本でのスクリーンデビュー作
ーー“闇金”業界を描いた本作、普通に生活していればなかなか覗き込むことさえない世界観が印象的でした。大谷さんが感じた本作の魅力はどんなところでしたか?
大谷:僕が演じた富男が構えている居酒屋では、10日で3割というありえない利率の金貸しをしています。そんなところを頼ってお金を借りにくる人たちには、“普通ではない”理由がありますよね。そんな人間一人ひとりのドラマが連なっているのが、本作の面白さだと思います。富男はダークヒーロー的な役どころなので、そのお金がどこに行くのか、またそのお金の行き先を見守ったり、それぞれのその後を追っていかなくてはならない。映画を観る方々は、富男の側に立って観ることができるし、ワケアリのキャラクターたちの誰かに自分のことを重ねて観ることもできる。いろんな観方ができるのが、この映画の大きな魅力だと思います。実際すでに観た方に話を聞くと、人によっては富男視点、また別の人には他のキャラクターの誰かの視点と、共感するポイントが人それぞれみたいです。僕は富男役を演じてはいますけど、何回か観ていくたびに、ほかのキャラクターに気持ちがいくこともあるのではないかなと。
ーー大谷さんにとって本作が映画初主演というのが驚きでした。
大谷:スクリーンに映るというのはテレビとはまた違う、俳優としての格別の喜びがあります。それに初主演という以前に、これが日本でのスクリーンデビューなんです。だから主演した喜び以上に、スクリーンデビューした喜びが大きいです。しかも、主人公がしっかり立っていなければ成り立たないような作品だったので、やりがいもあり、同時にプレッシャーもありました。
■「富男は“鉄の男”」
ーー富男は表向きは居酒屋、裏は闇金稼業というかなり特異なキャラクターです。役作りでの意識や、何か準備したことはありますか?
大谷:監督が「鉄の男、鉄の男」だとおっしゃっていたのですが、銭形はとにかく“動じない男”なんですよね。銭形は下の名前が富男なんですけど、演じる自分が名前を「鉄男」だと勘違いしてしまうくらい、キャラクターの中に一本の太い幹を持っていないといけないなと考えていましたし、そのような立ち位置でいなければいけないなと思っていました。「感情を出さないし、見せてはいけない男なんだ」と自分に言い聞かせて、言動や所作以上に動じない存在感というものを常に意識しました。
ーー富男の「嘘をつくとき男は目を逸らす。女は目を合わせてくる」というセリフが魅力的でした。
大谷:本当は僕自身は逆だと思っているんですよ。僕はむしろ、男は逸らさないなと思いました。でも、金貸しの世界ではそういうのがあるんでしょうね。
ーー闇金についてはどう思いますか?
大谷:僕は全く別世界のことだと思っていますね……。
■「渋川清彦さんは僕の中でラスボス的な存在」
ーー本作はキャスティングも大きな魅力のひとつです。現場はどうでした?
大谷:富男は居酒屋にいることが多かったんですが、あの居酒屋は、照明が点いていても、なんだかどんよりとしているんです。それがこの映画のテイストを体現しているなと感じていたし、みんなで遊ぶような雰囲気ではなかったですね(笑)。でも小林且弥くん(銭形静香役)と、田中俊介くん(剣持八雲役)とは役柄上で重要な関係性ですし、積極的にコミュニケーションを取るようにしました。あんまりワイワイするメンバーではないので、役についてだったり、プライベートの話をしたり、特に小林くんとは一つ前の作品で一緒に撮影をしていたので、「また一緒にやれて良かったね」と話しました。
ーー本作で重要な役どころを演じた、小林さんや渋川清彦(磯ケ谷剣役)さんは、この手の“アウトロー系”のキャラクターを多く演じている印象です。
大谷:渋川さんとは僕が日本でデビューした作品でご一緒していたんです。そのときは柔らかい役を演じられていたので、僕の中では柔らかいイメージでした。今回の共演シーンはほとんど最後だけなのですが、撮影時にスーツをびしっと着て、部下役の方々を引き連れて入ってきたときはさすがの貫禄でしたね。「ついに来たか……」と、僕の中ではラスボス的な存在でした。でも、「ここでしっかり闘わないといけない」というシーンだったので、渋川さんに対して抱いてしまった、「おお!」という気持ちを出さないように努めました。これがこの映画で一番大変なところでしたね。なので先程お話した、感情を表に出してはいけないという感覚は、ここでメーターが一気に上がっていました。
■「ああ、日本でやってるんだ」
ーー韓国での芸能活動開始が2003年で、すでに15年のキャリアがありますが、日本での活動はまだ2年です。日本の作品で現場に入るときの心境はどんなものでしょう。
大谷:この2年でいろいろな作品に参加させてもらったので、やっと慣れてきたかなという思いです。ソウルに行く前から知っていた方々と共演するのは不思議な気持ちでしたし、そういう意味では、最初は素人感覚で現場に入っていったところがあります。また、撮影現場で皆が日本語でコミュニケーションを取っているというのも、当たり前のことなはずなのにどこか不思議に感じていました。分からない撮影用語がいくつもありましたし、日常生活を含め、僕がいない間にいろんな言葉が新しく生まれていて。そんな中、良い役ばかりいただいていたので、なんとか対応して乗り越えてきました。でも今でもふと、「ああ、日本でやってるんだ」と思うときがあります。
ーー日本で活動を再開した当初は緊張することも?
大谷:日本に来た当初はありました。最初の作品の一番初めのシーンが、福山雅治さんとの共演だったのですが、当時の僕は「割本」(撮影当日のシーンのみを抜粋して作った本)というものを知らなくて、いざ撮影に入ってみたらセリフが変わっていたんです。撮影当日に割本をチェックするのが当たり前であることを知らなくて。そもそも福山さんと共演するということだけで頭の中がいっぱいだったので、テンパりました。
ーー俳優活動をやっていて、韓国と日本での現場の違いはありますか?
大谷:韓国で出演した映画は数本だけなのですが、規模がちょっと違うものだったんです。僕が参加したのはドラマばかりだったので、なかなか比較するのは難しいですね。でもこの作品って、ちょっと韓国映画っぽい雰囲気があるんです。最近の日本ではあまりないテイストの作品じゃないかなと思います。韓国と日本の現場の違いみたいなことではないのですが、僕が韓国で生活してきた経験が、自然とこの作品に反映されている部分もあるのかなとは思います。
ーー韓国映画ファンの方も楽しんでくれそうですよね。
大谷:だと嬉しいですね。いま韓国では居酒屋ブームなんですよ。“日本の居酒屋風”の飲み屋さんが多いんです。メニューも木板に書いてあるものがあったりして。でも実際にはそのメニューの商品は置いていない。メニューはただの飾りなんです。でもそうやって、韓国の人たちは日本の居酒屋にすごく関心があるので、面白いですよね。
(折田侑駿)