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「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『リバースダイアリー』

2018年05月25日 18:52  リアルサウンド

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 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、リアルサウンド映画部の薩摩侍こと折田が、『リバースダイアリー』をプッシュします。


参考:【作品評】『四月の永い夢』が描く、喪失感からの解放 “気づき”によって世界は“詩的”なものへ


 『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』一色に染まった感の強かった映画界。公開から約1ヶ月が経ち、少しは落ち着くのかと思いきや、話題作が続々と公開される。この週末に公開される日本映画だけに目を向けてみても、またも小松菜奈が自身のキャリアのベストを更新した『恋は雨上がりのように』、生田斗真と瑛太が共演し瀬々敬久監督がメガホンを取った『友罪』、山田洋次監督が豪華キャストとともに撮り上げた『妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII』と、話題の大作が目白押し。しかしこの5月は大作だけでなく、『枝葉のこと』や『四月の永い夢』といった、気鋭の映画作家が手がけ、ミニシアターで公開される作品にも多くの注目が集まっていた。そんななか、この週末に都内のユーロスペース1館から公開スタートをきる『リバースダイアリー』は要チェックの作品だ。


 小説家を志しながらもゴーストライターで生計を立てている男・白石理人は、風変わりな女優志望の女性・本田沙紀との奇妙な出会いを果たす。少しずつ距離を縮めていく2人だが、あるとき白石は彼女の日記から、その出会いが偶然ではなかったことを知る……。


 物語について、あるいは登場人物について、つい勢いでキーボードを叩きたくなってしまうのだが、うっかりネタバレに触れてしまいかねない、非常に繊細な作品である。そんな本作の製作、脚本、監督、編集を手がけたのは、園田新だ。本作は国内外の10を超える映画祭に招待され、うち、最優秀作品賞や最優秀脚本賞など8つの賞を受賞。若い男女が出会うことによって彼らの日常が変質していくさまを、ラブストーリー、サスペンス、さらにはスリラーと、ジャンルを軽やかに横断しながら実に鮮やかな手腕で描き出している。


 いや、“横断”というと少し語弊があるかもしれない。それらのジャンルはつねにまた別のジャンルを含んでいる。恋の駆け引きというものはそもそもサスペンスであるだろうし、歪んだ恋心がスリラーの誘引装置となることも多い。ここに出てくる人物たちの変質していく日常は、一歩先がまったく読めない。というのも、ラブストーリーがはじまったものだと思いきや、終始なぜだか不安感が拭えないのだ。その不安感の根拠は、ジャンルレスに観客を翻弄する脚本の妙もさることながら、画面内に周到に配置された、まさに「リバース」という言葉を象徴するような鏡の存在や、彼ら男女の視線の交錯劇といった細部にも宿っているように思える。


 先述した『四月の永い夢』も趣向は違えど「喪失」を扱った作品であったが、あちらの作品にハマった方には、ぜひこの『リバースダイアリー』もマストな鑑賞をオススメしたい。別れと出会い、偶然と必然、ラブストーリーがはじまる“ドキドキ”と、それと平行して静かにサスペンスが進行していく“ドキドキ”。それらが織りなすドラマは、世界の終わりと始まりを同時に目撃してしまったような衝撃を与える。と、言えばちょっと大げさだろうか。いや、そんなことはない(と、言いたい……それほどまでに好きになってしまった)。しかし観る者の誰しもに、何かしらの引っかかりをもたらすことは間違いない。


(リアルサウンド編集部)