第102回インディアナポリス500出場33台が決まり、ターボのブーストをレース仕様に戻して走る月曜日のプラクティスも終了。次に走るのは金曜日のファイナルプラクティス1時間で、その後が日曜日の正午過ぎにスタートが切られる決勝レースとなる。
予選ではシボレーが優勢で、チーム・ペンスキーの4人と、エド・カーペンター・レーシングの3人がポールポジションを争うファストナイン入り。ホンダはセバスチャン・ブルデー(デイル・コイン・レーシング)が最速で5番手、ホンダ2番手は昨年を含め3回のポールポジション獲得歴を持つスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)だったが、今年はファスト9で最も遅い9番手という結果に終わった。
先に行われた10番グリッド以降を決める予選でも、トップ2はトニー・カナーンとルーキーのマテウス・レイスト。シボレーユーザーのAJ・フォイト・レーシングコンビで、この4年で3勝利しているホンダV6ツインターボ搭載のアンドレッティ・オートスポート勢を上回った。
グリッドを決定した予選2日目ポールデイは日差しが強く路面温度の高いコンディションだったが、今の時点では決勝日は午前中に雨が降り、午後もは気温も湿度も高い状況が続くという予報が出ている。
暑くなればオーバーテイクは難しくなる。特に今年から採用されているエアロキットでその傾向は強いとエントラントたちは口を揃えている。ドラッグの大きくされたマシンはより大きなドラフティング効果を生んでいるが、2台以上が前方を走っている状況では発生する乱気流が昨年までより激しく、後ろを走るマシンはフロントが浮き気味になってグリップが低下しているようなのだ。
このようなコンディションで争われるレースでは、予選と同じくペンスキー勢が速そうだ。彼らはプラクティス初日からトラフィックテストをもっとも多く行っており、そのスピードも高い。予選最速は4人がかりでも逃したが、トップ8から発進する彼ら4人は全員が優勝候補だ。
では、その中で誰が強そうかと言えば3勝、2位も3回と今年の出場者中で右に出るもののない実績を誇るエリオ・カストロネベスだ。史上最多に並ぶ4勝目を狙う彼はモチベーションもひときわ高い。
カストロネベス以外のペンスキーフルシーズンを戦っているレギュラー組3人は、全員が一度タイトルを獲得しているが、インディ500での優勝はない。彼らは最大のライバルであるチームメイトたちから頭ひとつ抜け出すキャリアとするために、インディでの勝利を強く欲している。
予選2番手で初めてのフロントロウスタートを切るシモン・パジェノーは、インディでは過去6年でトップ10フィニッシュが1回しかなく、レースで弱いイメージ。今シーズン序盤はチームメイトたちとの戦いで遅れを取ってもいる。このビッグレースで優勝してシーズンの流れも、自らのキャリアも大きく変えたいところだ。
ウィル・パワーは3人の中ではもっともインディでの実績は高く、カストロネベスに次ぐ2番目の優勝候補だ。不運に見舞われたり、ミスを冒すことも少なくない彼は、2015年にチームメイトのファン・パブロ・モントーヤに逆転されて2位となった。あの悔しさだけは二度と味わいたくないと考えていることだろう。
優勝候補筆頭のチーム・ペンスキー4人に対抗するドライバーたちは?
ジョセフ・ニューガーデンはペンスキー入り初年度にチャンピオンになった男。今シーズンも現在ポイントリーダーで、今いちばん勢いに乗っている。ミスが少なく、生来の運も持っていると見える彼の過去6回のインディでベストフィニッシュは2016年の3位だ。
彼らを打ち負かしてPPを獲得したカーペンターは、レースでも強いだろう。彼は決勝モードのプラクティス4日間で一度もトップ10を外していない。ダートオーバル育ちのカーペンターがペンスキーの通算17勝目を阻み、悲願のインディ500初優勝を飾ったら、アメリカンドリームの実現として全米が湧き上がるだろう。
フルシーズン参戦初年度のスペンサー・ピゴットは、競争力のあるオーバル用マシンを初めて与えられてスピードを着々と上げて来ているが、世界最大のレースでの今年の目標は優勝争いに絡み、上位で完走することだろう。
ダニカ・パトリックのキャリア最後のレースでの目標は、デイトナ500で果たせなかったレースでの完走に置かれているはずだ。トップ10入り6回の実績が示す通り、彼女のゴールまでマシンを運ぶ能力は高い。マシンにポテンシャルはあり、上位にポジションを保って戦うチャンスは十分。チェッカーフラッグを大歓声を浴びながら受け、ステアリングを置くハッピーエンドを迎えられる可能性大だ。
ブルデーとディクソンは粘り強いレースで勝機を伺う戦いを見せるだろう。ブルデーはレース用のマシンセッティングもハイレベルに仕上げている。ディクソンには強豪チームならではの総合力の高さがある。
ダークホースは予選10番手のカナーン。2013年ウイナーはインディでいつも速く、戦い方も最も深く理解している。アンドレッティ勢が彼に続く。
レースモードでのプラクティスを多く重ねていたチームだからだ。決勝で力を発揮することを彼ら自身も強く期待している。予選12なんてのアンドレッティ三世=マルコ、予選14番手だった2014年ウイナーのライアン・ハンター-レイはどこまでシボレー軍団に食い下がれるだろう。
現在のインディカーシリーズで最も走りにキレのあるアレクサンダー・ロッシは、最後列グリッドからのスタートというハンディキャップをどこまで跳ね返せるか。全車をパスして1ラップの周回遅れを取り戻してトップ争いまで駆け上がった第2戦フェニックスと同じ戦いぶりを見せることができたらエキサイティングだ。
今シーズン序盤での活躍で大きな注目を集めて来ているルーキーのロバート・ウィケンス(シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)は予選18番手。スーパースピードウェイへの順応も良いが、月曜のプラクティスでは初アクシデント。チームメイトのジェイムズ・ヒンチクリフがまさかの予選落ちを喫し、チームはトーンダウン気味だが、栄えあるルーキーオブザイヤー受賞を目指す。
予選でルーキー最速だったのはレイスト。クラッシュせずに完走できればルーキー最上位でのフィニッシュも可能だろう。
最後に佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)。昨年度ウイナーは思わぬ苦戦を強いられてきている。予選2日目に一気にスピードアップしてグリッドは16番手まで上げたが、月曜のプラクティスではトラフィックでのハンドリングを狙い通りに向上させることができず、グリッドに並べるマシンのセッティングはもう一度検討をし直さねばならない状況に追い込まれている。
しかし、苦境から抜け出してレース終盤には上位でポジションを争うという、過去のインディ500で何度も見て来ている戦いぶりが琢磨なら再現可能と期待したい。