「日本が良くなると思った」「社会貢献になると思った」――不当な懲戒請求を受けた佐々木亮弁護士と北周士弁護士によると、請求者たちは口々にこう話しているという。
弁護士のツイートを貼りつけただけの懲戒請求書や「外患誘致罪」と書かれた紙片だけが入った怪しい手紙。傍から見ればレベルの低い嫌がらせにしか見えないが、これを「社会貢献」だと考える人々がいるようだ。それも20代の若い人々ではなく、どうやら中高年が多いという。
保守系ブログを読んで「本当のことが書いてあると思った」
北弁護士は5月16日の会見で請求者の人物像について、「比較的高齢者が多いという印象を受けます。若い人がノリでやっているというわけではないようです」と語っていた。懲戒請求の動機については、「これで日本がよくなると思った」「時代を変えられると思った」と話していたという。
「朝鮮学校の無償化に賛成している弁護士を"反日"と認定し、懲戒請求を行えば日本が良くなると思っていたらしいのです。ただ、懲戒請求の仕組みについて正確に理解している人は少なく、匿名でできると勘違いしていたようです。ネットで言うところの"電凸"のようなイメージでやっているのではないでしょうか」
懲戒請求の仕組みどころか、佐々木弁護士と朝鮮学校無償化との関わりについて事実確認をしていなかった人もいたようだ。佐々木弁護士は17日、電話での以下のようなやり取りをツイッターに投稿している。
私「ところで、なんで私を懲戒請求したの?」
男「名前があったので、申し訳ありません。」
私「でも、私は朝鮮学校のことなんて何もやってないよ?」
男「えっ?」
私「えっ?」
懲戒請求は、保守派の政治ブログの扇動を受けて行われた。ブログは、記者会見を受けて「日本人と在日朝鮮人の戦いが始まった」と書くなど、かなり突飛な内容だ。しかし懲戒請求を行った人たちは「今まで聞いたことのない本当のことが書いてあると思った」と話していたという。
「ブログを読むのをやめたという人に聞くと『洗脳状態だった』と言っていました。周囲の人に『そんな風に懲戒請求をしてはいけない』と言われて気が付いたといいます。私が電話で話した人の中にはすでに定年された方や40~50代の方がいました。20代の人は今のところいません」(佐々木弁護士)
年齢については、佐々木弁護士のツイートに詳しい。「1番若くて43歳。40代後半から50代が層が厚く、60代、70代もおられる」(5月18日)という。やはり若い"ネトウヨ"が短慮軽率で行っているわけではなさそうだ。
佐々木弁護士はキャリコネニュースに対して、「記者会見後、新たに和解を申し出てきた人もいました」と話す。
「50代の女性は、社会貢献になると思い、あまり確認もせずに行っていたようです。女性もそれなりにいて、男性と女性は7:3くらいか6:4くらいの割合だと思います」
時間に余裕のある中高年の方が"政治活動"に勤しみやすい?
ITジャーナリストの井上トシユキさんは「今の中高年はちょうど職場でパソコンを使い始めた世代。しかし中には自分でパソコンを使ったり、2ちゃんねるを使ったりすることなくネットリテラシーを身に付けていない人もいます」と指摘する。
「そうした人たちがブログに煽られて懲戒請求を行い、鬱憤を晴らしているのでしょう。きちんと確認することもせず、脊髄反射で行動しているのかもしれません」
若い人に比べて時間に余裕があることも関係していそうだ。
「若い人は残業やデート、漫画や動画といった娯楽で忙しいですからね。子育ても終わり、時間に余裕のある中高年の方がこうした"政治活動"に時間を割きやすいのかもしれません」
佐々木弁護士と北弁護士は6月20日頃まで和解を呼びかけ、和解に応じなかった人は順次提訴する予定だ。最終的にはブログ主の刑事責任も追及する。裁判の過程でどのような人々がどのような理由で懲戒請求を行ったのか明らかになるのを待ちたい。