■「映画のアイデアが浮かんだ日からこの日を楽しみに」
ウェス・アンダーソン監督の新作映画『犬ヶ島』のイベント『「犬ヶ島」公開記念スペシャル・ナイト』が、本日5月21日に東京・渋谷のユーロライブで開催。ウェス・アンダーソン監督と、同作で声優を務めたコーユー・ランキン、ジェフ・ゴールドブラム、野村訓市が登壇した。
『犬ヶ島』は近未来の日本を舞台にしたストップモーションアニメーション。予告編上映に続いて4人が客席から入場すると会場は大きな拍手で包まれた。
『ライフ・アクアティック』が公開された2005年以来のプロモーション来日となるウェス・アンダーソンは「6年前からこの映画を製作していたが、一番最初にアイデアが浮かんだその日から私はこの日を楽しみにしていました」とコメント。
10代の時に見たという『タンポポ』(監督:伊丹十三)や『羅生門』をはじめとする黒澤明作品など、影響を受けた日本映画のタイトルを挙げつつ、「この映画の舞台になっている日本は僕のイマジネーションの中の日本です。日本の文化や日本の人々、日本の映画からインスピレーションを受けた『僕の日本』をこの映画の中で描きました」「この映画が頭に浮かんだその日から、このような舞台で日本の観客を前にお話しすることを思い描いていた。この瞬間が僕のゴールだったんです」と映画の舞台となった日本での公開を喜んだ。
■ストップモーションアニメは「手作りの職人と仕事ができる。それが最大の喜び」
ウェス・アンダーソン監督にとって『犬ヶ島』は、2011年公開の『ファンタスティックMr.FOX』以来のストップモーションアニメ作品となる。
ストップモーションアニメと実写映画の魅力の違いを尋ねられると「僕がストップモーションアニメーションで一番好きなのは、アンディ(・ジェント)のようにパペットを作る人、セットや小道具を作る人など、手作りの職人と仕事をすることができること。それが最大の喜び」と明かす。
そして「ストップモーションはとても古風な手法だと言えるでしょう。今は色んな技術があるけど、1つ1つ動かして1コマずつ撮影していくやり方は、映画の歴史が始まってからずっと続いているものだし、それに携わることは僕の1つの夢でした」
「キャラクターに命を吹き込むのは半分が声優の仕事。残りの半分はアニメーターが少しずつパペットを動かして演技を付けていくことによって生まれると僕は思う。今回参加してくれたアニメーターは世界でも有数の方々です。まるで魔法をかけているみたいに、物体のはずのパペットが彼らが動かすことによってものを考え、感じる1つの生き物にみたいになるんです」とアニメーターの仕事に感銘を受けたと明かした。
■キャスター役・野田洋次郎のキャスティング裏話も
キュートなパペットたちの動きだけでなく、多彩な声優陣も同作の見どころの1つ。今回来日したコーユー・ランキン、ジェフ・ゴールドブラムやエドワード・ノートン、ビル・マーレイ、グレタ・ガーウィグ、フランシス・マクドーマンド、スカーレット・ヨハンソン、オノ・ヨーコ、ティルダ・スウィントンらに加えて、日本からも野田洋次郎(RADWIMPS)、村上虹郎、渡辺謙、夏木マリといった面々が参加している。
キャスティングディレクターを務めた野村訓市は「ウェスとは長い付き合いで、彼は家族みたいな温かい付き合いをする人。だから日本のキャストを集める時もお互いを知っている方が良いなと思っていた」とキャスティングの背景を明かし、「監督と話してそれぞれのキャラクターがどういう人なのかを細かく聞いていたので、そのイメージに年齢や恰好が近い人、なおかつ言うことを聞いてくれそうな友達を集めて声をかけた」と笑わせた。
またニュースキャスター役を演じた野田洋次郎は、当初は違う役を演じる予定だったという裏話も。野田がセリフを読んだ音声を聞いた監督が「この声はニュースキャスターに向いてる声」と判断し、役が変更になったという。野村は「(映画には)短いながらも色んな人が出ているので、見ながらこの声は誰の声かを見つけるのも楽しい見方かも」と話した。
■11歳の主演声優コーユー・ランキン、苦労したのは「全部」
2007年生まれの主演声優コーユー・ランキンはアフレコを振り返り「ウェス監督はとても優しくて、僕は最初はとても緊張していたけど、ウェス監督が落ち着いてたので僕も落ち着いた」と初々しく語る。
セリフを言うのは難しかったか、どこに苦労したか?という質問には「難しかったです」「(苦労したのは)全部です」と答え、「『ベルリン映画祭』で映画を初めて見たときは感動しました。ストップモーションとは思えないくらい色や音がすごくて、本当に良い映画です」とアピールした。
一方のジェフ・ゴールドブラムは『グランド・ブダペスト・ホテル』『ライフ・アクアティック』に出演するなど、ウェス・アンダーソン作品の常連。今回はゴシップ好きの犬・デュークの声を演じている。
「ウェスやアンディ、訓市たちは長い間この映画に関わったということだが、私の場合は脚本を読み、スタジオに行って、2時間レコーディングしただけ。しかもその時監督はニューヨークにいたので、遠隔から私は演出されて2時間の仕事を終えた。それだけなんです」と笑わせつつ、「この映画は1回以上見るべき。魔法がかけられたような素晴らしさがある。ウェス・アンダーソンは才能溢れる歴史に残る監督だと思う。とにかく素晴らしい体験をしたということを力説したい」と熱く語った。
■ウェス・アンダーソン「日本に対する敬愛を感じていただければ幸せ」
イベントでは来場者の質問に監督が答えるコーナーも。
ウェス・アンダーソンの作品を「孤独」という視点から研究しているという観客に「孤独」というテーマについて尋ねられると、「『犬ヶ島』の主人公・アタリは両親を亡くして孤独を感じている。1人の少年には荷が重すぎるようなことに、孤独の中で挑みます。『孤独』はこの映画の大きな部分を占めると思う」と回答し、さらに「いつか作りたいと思ってる物語が頭の中にある。いつになるかわからないけどこの題材は僕にとって重要なので、いつかは『孤独』をもっとフィーチャーした映画を作りたいと思っています」と明かした。
最後にウェス・アンダーソンはトークを次のように締めくくった。
「心を込めてこの映画を作りました。日本に来れただけでも嬉しいし、映画を見て楽しんでくれたらそれ以上のことはない。同時にこの映画を作った人たちの日本の文化や映画、日本の人々に対する敬愛を感じていただければ幸せです」
『犬ヶ島』は、「犬インフルエンザ」の大流行によって犬ヶ島に隔離された愛犬を探す少年と、犬たちの冒険を描いた作品。5月25日から全国で公開される。