是枝裕和監督の最新作『万引き家族』が、『第71回カンヌ国際映画祭』がパルムドールを受賞。日本映画としては21年ぶりの快挙となった。
是枝監督の公式会見、審査員のコメント、『万引き家族』キャストのコメントが到着したので、以下に紹介したい。
■審査員は称賛。「とにかく恋に落ちてしまった」
審査員長を務めたケイト・ブランシェットは以下のコメント。
<この作品は演技、監督、撮影、など総合的に素晴らしかった。選ぶにあたって気に入っていた作品を落とさないといけないのはつらかったし、難しかったけど最終的に私たちは意見が合致した。『万引き家族』はとにかく素晴らしかった。>
映画『ブレード・ランナー2049』『メッセージ』などで知られるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督。
<この作品は私たちに深い感動を与えてくれました。とにかく恋に落ちてしまった。上品で素晴らしくとても深い。魂をわし掴みにされた。>
■是枝裕和監督が語る『万引き家族』
授賞式後に現地で行なわれた公式会見に臨んだ是枝裕和監督。『万引き家族』だけでなく、これまでの是枝作品についての質問が続いた。
『万引き家族』について、「家族」というテーマは普遍的だが、家族の関わり合いを日本的な観点、個人的にどのように考えているかという質問には以下のように回答。
<あまり家族を描くときにどうすると日本的か日本的じゃないかということを考えては作りません。ただ、今の日本の社会の中で、隅に追いやられている、本当であれば見過ごしてしまうかもしれない家族の姿をどう可視化するかということは考えます。それは『誰も知らない』の時もそうでしたし、今回もそうでした。僕が子供の時に住んでいた家は、あの家と同じように平屋で狭くて、僕は自分の部屋がなかったので、押し入れの中に宝物と教科書を持ち込んで自分の部屋にしていた記憶があるので、その押し入れから大人の世界を見るということは自分の実体験としてあります。万引きをしていた訳ではありません。(笑)>
なぜ『万引き家族』の物語、家族像を作ったのか、そしてそれがなぜ監督にとって重要なのかについては、
<どうして描こうと思ったかというのを後付けで語ると、監督はだいたい嘘をつくのでそんなに本当の事を話さないと思いますけど。一つは『そして父になる』は、「家族は時間なのか血なのか」という事を問いながら作った映画だったんですけど、その先に、産まないと親になれないのだろうかという問いを立ててみようと思いました。今回の物語の中心にいるのは、自分の子供ではない子供を育てながら父親に、母親になりたいと思う、そういう人たちの話をやろうと思ったのが最初でした。彼らをどういう状況に置こうかというのを考えたときに、ここ数年日本で起きているいくつかの家族をめぐる出来事を、新聞とかニュースで目にした時、経済的にかなり追い込まれた状況で、万引きとか年金を不正に受給することでかろうじて生活を成り立たせている家族というものの中に、そういうテーマ、モチーフを持ち込んでみようかなと思ったのが今回の映画になりました。>
子供を被写体にした撮影と演技指導について。
<子どもはいつもオーディションでいつもいろんな子たちに会って、その年代の特徴を掴みながら、自分が撮りたいと思う子供を残していきます。台本はいつも渡さないので、現場に入って僕が口伝えで台詞を伝えたり、時には役者に演出の一部を担ってもらいながら子供からどういう感情、表情を引き出すかという事を手伝ってもらいながら撮影現場で全部作っていくというやり方をします。なので、彼らは予習もしてこないし、宿題もないので、毎日笑顔で撮影現場にやってくる、そういう環境を目指しています。>
今後も『三度目の殺人』のように、異なるジャンルの作品に挑戦していくのかという質問に対しては、
<今回の作品のカンヌでの認知と受賞によって、「家族」ドラマの作家だという風な捉え方がまたますます強くなってしまうかもしれませんけど、自分ではそうは思っていないので様々なジャンルにチャレンジできればなと思っています。自分が年齢を重ねていって変化していくと、色んな家族の形、見えてくる家族の形というのも変わってくるので、決して同じことを繰り返していくのではなくて、60代、70代になった時にまた違う「家族」のドラマが出来るのではないかなと思っています。>
■「この賞をもらった監督として恥ずかしくない作品を」
現地での囲み取材では、以下のコメント。
<発表される順番が毎年違うので、気が付いたらグランプリとパルムドールしか残っていなかった。残っている監督が誰かもはっきりわからなくなっていて、でも周りがザワザワしてきたので、不安な気持ちもありつつという感じでした。>
現在の心境については、
<(トロフィーが)すごい重いです。ずっとトロフィーを持ち続けているので腕がガチガチなんですけど、これをいただくというのは、監督として本当に重い出来事で、この先、この賞をもらった監督として恥ずかしくない作品をまたつくらなければならないなという覚悟を新たにしています。>
自身にとってのパルムドールとは。
<悲願ってよく新聞に書かれていたんですけど、言ったことは一度もなくて…。賞というのは目標にするものではないといつも思っています。この場所に来て、クロージングセレモニーに立てるということはとても光栄なことですし、ましてや最高賞をいただくというのは、僕自身のキャリアにとっても大きなステップアップとなるでしょうし、これであと20年くらいはつくりたいなという勇気をもらった気がします。>
受賞したことで燃え尽きてしまうのではないか?という質問。
<全然そんな心配はしていないですね。目指していないというとかっこよすぎるかもしれませんけど、これで映画の企画が通りやすくなるなと(笑)むしろこの先、どういう風に自分で撮りたいものを実現していくか、この賞はそういうところでのエネルギーにはなるなと思っています。>
なお日本にいる『万引き家族』キャストとの連絡は、
<今この状況でLINEのやり取りをしていて、合間にちょっとずつ写真を送ったり、まだちょっとバタバタしていて「おめでとう」「素晴らしい」ぐらいの会話しか交わせていないです。>
帰国後は「リリーさんとかサクラさんと子供たちも含め、トロフィーを持って会えるといいなと思っています」。さらに樹木希林には今回の受賞で「天狗にならないように(笑)」と言われるのではないかと付け加えた。
■『万引き家族』キャストのコメント到着。リリー・フランキー「監督、めちゃくちゃカッコいいです!」
6月8日から日本公開される『万引き家族』は、東京の下町を舞台に「万引き」で生計を立てる一家を描く物語。ある日、団地の廊下で震えていたじゅりを治が家に連れて帰り、娘として育てることを決意するが、ある事件をきっかけに家族が引き裂かれ、それぞれが抱えていた秘密や願いが明らかになっていく、というあらすじだ。劇伴音楽は細野晴臣が担当した。キャストにはリリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、樹木希林らが名を連ねている。
『そして父になる』『海街diary』『海よりもまだ深く』にこれまで出演し、是枝作品の常連となったリリー・フランキー。『万引き家族』では日雇い労働者の治役を演じたリリーは、以下のように祝福。
<リリー・フランキーのコメント
監督、本当に本当におめでとうございます! 獲ると信じていましたが、現実になると驚きと感動でじんましんが出ました(実話)。 監督、めちゃくちゃカッコいいです!>
2018年後期のNHK連続テレビ小説『まんぷく』でヒロインを演じることが決まっている安藤サクラ。初の是枝監督作『万引き家族』ではリリー演じる治の妻・信代役を演じた。
<安藤サクラのコメント
やったー!本当におめでとうございます!! こんな特別な瞬間を共有できること、こころから嬉しく思います! 万歳!>
信代の妹・亜紀役を演じた松岡茉優。松岡の出演作を観てきた是枝監督は、当初想定していたキャラクターの設定も含め、松岡にあわせて脚本を書き直したというエピソードもある。
<松岡茉優のコメント
あの家族はいたのだと肯定してもらったようで嬉しいです。 思い出をいつまでも愛しています。>
『歩いても 歩いても』『奇跡』『そして父になる』『海街diary』『海よりもまだ深く』などに出演し、是枝監督作品の「顔」とも言える樹木希林。
<樹木希林のコメント
往きの飛行機の避雷針が雷を受けました。 異様な響きと共に私の座席の天井が破け、酸素マスクや破片やゴミや、バラバラッと落ちて来ました。 「是枝さんもうくす玉が割れちゃったから賞はおしまい」――の筈がめでたいことです。>
治の息子・祥太を演じた11歳の城桧吏は「是枝監督、関係者のみなさま」に宛てて以下のコメントを発表。
<城桧吏のコメント
「パルムドール」受賞、本当におめでとうございます! 「万引き家族」という作品に出演できて、改めてとても嬉しい気持ちです。 監督と家族6人でカンヌへ行けて、一生の思い出になりました。 本当にありがとうございました。>
治に拾われてきた子・じゅり役を演じた6歳の佐々木みゆ。
<佐々木みゆのコメント
やったーーー!!!!!!!! かんとくおめでとうございます! みんなでさつえいがんばったから 、とってもうれしいです。はやくかぞくのみんなにあいたいです!>
■授賞式では「さすがに足が震えています」
日本時間の本日5月20日に開催された『カンヌ国際映画祭』授賞式。登壇した是枝裕和監督は以下のようにスピーチした。
<さすがに足が震えています。この場にいられることが本当に幸せです。そしてこの映画祭に参加するといつも思いますが、映画をつくり続けていく勇気をもらいます。そして、対立している人と人を、隔てられている世界と世界を映画が繋ぐ力をもつのではないかという希望を感じます。今回みなさんにいただいた勇気と希望をまず一足早く戻ったスタッフとキャストに分かち合いたいですし、作品が選ばれたにも関わらず、ここに参加できなかったふたりの監督たちとも分かち合いたいですし、これから映画をつくり、ここを目指す若い映画の作り手たちとも分かち合いたいと思います。ありがとうございます。>
今回の『カンヌ国際映画祭』コンペティション部門にはスパイク・リー監督の『Blackkklansman(原題)』、ジャン=リュック・ゴダール監督の『Le Livre d'image(原題)』、イ・チャンドン監督の『BURNING(原題)』、ステファヌ・ブリゼ監督の『At War(原題)』、ジャ・ジャンクー監督の『Ash is Purest White(原題)』、濱口竜介監督の『寝ても覚めても』など21作品が出品していた。
是枝裕和は1962年生まれ、東京・練馬出身。早稲田大学第一文学部卒業後にテレビ制作に携わり、1995年に長編映画『幻の光』でデビュー。2001年の『DISTANCE』で『カンヌ国際映画祭』コンペティション部門に初出品し、2004年の『誰も知らない』で柳楽優弥が『カンヌ国際映画祭』コンペティション部門で最優秀男優賞を当時最年少で受賞した。9年ぶりのコンペティション部門正式出品作となった2013年の福山雅治主演作『そして父になる』は審査員賞に輝いた。『カンヌ』にはこれまで、コンペティション部門に4回、ある視点部門に2回出品しており、7度目の出品で最高賞の栄誉を掴んだ。