2018年05月21日 11:02 弁護士ドットコム
「若者の自動車離れ」が叫ばれる中、そもそも免許を持っていないという人の割合が増えています。結果、就職の内定をもらってから「入社前に運転免許をとっておいてね」などと言われ、慌てて自動車学校に通う人もいるそうです。
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国土交通省の資料によると、自動車の運転免許を持っている20代の割合は、2006年には85.5%でしたが、2011年には81.8%に下がりました。特に都市部の保有率が低く、東京都の20代は63.5%(2011年)しかありませんでした。
プライベートで車を使う予定はないけれど、仕事のために免許が必要ーー。自動車学校に通うとしたら、20~30万円かかりますが、会社に授業料を請求することはできるのでしょうか。労働問題に詳しい古屋文和弁護士に聞きました。
ーー業務に必要な資格だったら、会社が費用を持つんじゃないんですか?
資格や免許取得のための費用を会社と従業員のいずれが負担するかという点について、直接規定している法律はありません。
ただし、採用済み(内定後を含む)の従業員に対して、業務命令として資格等の取得を命じる場合には、本来は会社が利益を上げるために負担すべき費用を従業員に負担させていることになるため、賃金全額払いの原則(労働基準法24条)に違反する可能性があります。
実際には会社により、まちまちとなっているのが現状です。つまり、入社しようとする会社の仕組み次第ということになります。
ーー直接の規定はないけど、労基法に違反する恐れもあるとすれば、トラブルも多そう。費用負担について、どのようなトラブルがあるのですか?
就職活動中の方は、応募時に費用負担や返還条件についてよく確認することをお勧めします。
現状は、特殊な資格などについては、費用を負担する仕組みを置いているという会社が多いと思います。その背景には、採用条件を充実させ、有能な人材を採用したいという狙いがあります。
ただし、その場合でも、無条件で負担するのではなく、会社から従業員に対して費用を貸し付け、一定の条件(例えば、一定期間の在籍など)を課して返済を免除するといった方法がとられることが多いです。会社としては、従業員が資格を取得しても、資格を活かして業務にあたる前に退職してしまう場合を心配しているというわけです。
そして、会社の決めた条件が充たされなかったときに、会社が従業員に費用の返還を求めて争いになるケースがあります。
ーー運転免許の場合はどうでしょう?
運転免許についても、会社の仕組み次第です。もっとも、「普通免許」の費用まで負担している会社は珍しいのではないでしょうか。
運転免許に関する事例として、会社と従業員(運転手)の間で、「第2種運転免許」の取得費用について争いになった裁判例(大阪高裁判決平成22年4月22日)を紹介します。あくまでも一例ですが、この分野では比較的新しい裁判例であり、参考になるものです。
この裁判例では、タクシー会社に入社する際の教習所(第2種運転免許)の授業料について、会社が従業員に貸付けを行い、実働800日の乗務完了をもって返済義務を免除する制度の有効性が問題になりました。
まず、労働基準法16条は、「会社(使用者)は労働契約の不履行について、違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と規定しています。この条文の目的は、退職に際して違約金等を請求すると予め決めておくことで、従業員の退職の自由が制限されることを防ぐ点にあります。
運転手側は、800日乗務しなければ、かかった費用を返還させるという制度は、労働基準法16条に違反するものであり、無効であると主張したのです。
裁判所は、第2種運転免許は固有の資格として従業員の利益になることから、本来は従業員が負担すべきものであることなどを理由に、教習所の授業料を消費貸借契約(貸付け)の対象にすることができ、返還制度は従業員に不利益を及ぼすものではないと判断しました。つまり、このケースでは、返還制度は労基法16条には違反せず、有効だと判断されました。
ただし、この裁判例では、求人広告や採用時に資格取得に関する諸費用について会社の説明不足があったことが指摘されています。会社の側からすれば、この点を参考に、貸付制度の内容について明確な説明をしておくことが、労使トラブルを防ぐ方法の一つだといえます。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
古屋 文和(ふるや・ふみかず)弁護士
会社側の労働分野及び企業法務分野の案件を多く取り扱っている。最近では、経営者向けセミナー(『無期転換ルールの実務上の対応策』、『経営者であれば最低限抑えておきたい労務管理の要点』)にも力を入れている。山梨県弁護士会所属。
事務所名:ひまわり法律事務所
事務所URL:https://bengoshifuruya-law.com/