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井川遥、“わかりにくい優しさ”を丁寧に表現 『半分、青い。』物語のスパイスに

2018年05月21日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 北川悦吏子脚本の連続テレビ小説『半分、青い。』(NHK総合)が第7週を終えた。漫画家志望の鈴愛(永野芽郁)は、東京へやってきて少女漫画家・秋風羽織(豊川悦二)のもとで働き始める。漫画家を志す鈴愛に対して、「ペンを持たせるつもりはない」と言い放った秋風との緊迫したやりとりが魅力的だった第7週。そんな中、今回注目するのは漫画事務所「オフィス・ティンカーベル」になくてはならない存在・菱本若菜(井川遥)である。


参考:北川悦吏子×豊川悦司の信頼感が光る 『半分、青い。』滲み出る漫画家・くらもちふさこへの敬意


 菱本は「オフィス・ティンカーベル」で気難しい秋風のマネジメントを担当する女性である。美しい顔立ちと、フリフリの衣装で可愛らしい印象のある菱本だが、頭の回転が早く、気難しい秋風も彼女の言葉に対して比較的素直に応じる。普段の淡々とした話し方もユニークで、怒ったときの理路整然とした超早口も面白い。


 菱本を演じている井川は、雑誌モデルとして活躍する他、女優として多くのテレビドラマ、映画、舞台などに出演している。NHKの連続テレビ小説は『純情きらり』に続き、本作が2作目となる。


 菱本の魅力は「秋風のために」という行動理念の下、冷静沈着に対応するところである。わがままな秋風の仕事を支えるうえで、彼女の冷静さは必要不可欠だ。秋風のわがままにできる限り対応しつつ、ネームの提出が滞れば甘やかすことなく要求する。アメとムチというほど極端ではないが、秋風をうまく動かすことができるのは菱本ただ1人だろう。


 彼女は「あなたのためではなく、すべては秋風のため」と言いながらも、若いアシスタントを抜かりなくフォローする優しさも持つ。5月16日放送の第39話で、秋風が希望していた船の資料を用意することができなかった鈴愛。アシスタントの裕子(清野菜名)が代わりの船を撮るよう指示していたことも原因なのだが、その様子を目にしていた菱本は、裕子が発した「その船が女の子に人気」という言葉を使い、秋風をなだめる。責任を感じている表情を見せる鈴愛や裕子に対し「いいから仕事に戻りなさい」とその場を収める菱本は、理想の上司像にも思える。彼女がいるからこそ、若手アシスタントは秋風のもとで働きながら漫画家としての実力をあげていけるのだろう。


 菱本は、決して表情豊かなキャラクターではない。そのため、仏頂面と捉えられてしまうかもしれないが、そうではない。菱本は鈴愛が描いた「カケアミ(白黒漫画で疑似的に濃淡をつける技法。平行線をかけ合わせる事で表現できる)」の出来を見て、心の底からワクワクしているような、嬉しさと興奮が思わず滲みでてしまったかのような、魅力的な表情を浮かべる。理路整然とした話口調、冷静な仕事ぶりがゆえに表情が置いてきぼりになる菱本だが、そんな彼女を井川はユニークに演じているのだ。


 また井川は、菱本の「わかりにくい優しさ」を丁寧に表現する。菱本は、東京編において鈴愛をサポートする存在であることは間違いないが、彼女は困っている人に対し、簡単に手を差し伸べるタイプではない。しかし、「秋風のために」鈴愛が良い刺激になると信じてやまない彼女だからこそ、鈴愛の無茶なお願いにも応じる。「秋風にお礼がしたい」という鈴愛のために、秋風が大切にしている愛犬のアルバムをこっそり鈴愛に届ける。「あなたのためではなく、すべて秋風のためです」と話す菱本だが、その目には鈴愛に対する想いものせられていたように感じる。伏し目がちだが信念の強い目をもって菱本を演じる井川。今後鈴愛と接していくことで、また新たな表情を見せてくれることだろう。


 井川の美しさと、フリフリな衣装、独特な演技のミスマッチさが、秋風と若手アシスタントの物語の良いスパイスになっている。秋風のわがままを淡々となだめ、若手アシスタントのミスを冷静に対処する切れ者でありながら、回を追うごとに『半分、青い。』らしいコミカルさも露見しつつある菱本。東京編はまだまだ始まったばかりだ。「オフィス・ティンカーベル」の動向が楽しみである。(片山香帆)