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ceroフリーライブに感じた、『POLY LIFE MULTI SOUL』のダンスミュージック的な側面

2018年05月20日 17:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ceroが5月19日に六本木ヒルズアリーナで4thアルバム『POLY LIFE MULTI SOUL』の発売記念フリーライブ『CROSSING』を開催した。本稿では、この日のライブを踏まえながら、彼らが生み出した快作『POLY LIFE MULTI SOUL』のことにも触れていきたい。


 ceroは髙城晶平、荒内佑、橋本翼の3人による“バンド”であるが、その時々でサポートメンバーを変え、またその編成によって音楽性を劇的に変化させてきた。現在の厚海義朗(Ba)、光永渉(Dr)、古川麦(Cho/Tp)、角銅真実(Per/Cho)、小田朋美(Key/Cho)による編成が始動してしばらく経ったころ、彼らはリアルサウンドのインタビューで下記のように話していたことが強く印象に残っている。


「荒内:今の編成のいいところは、メンバー各々の「能力差」がすごくあるところ。譜面をケータイのメールみたいにパパッと読める人もいれば、読めない人もいて。めちゃくちゃ演奏が上手い人もいれば、俺みたいによくわかんない演奏している人もいる(笑)。どっちが良い悪いじゃなくて。それがすごく豊かだなって思うんです。すごく「社会」っぽいというか」(参考:ceroが考える“都市と音楽の未来” 「今は『オルタナティヴ』な音楽って成立しにくい」


 ceroを3人による“バンド”ではなく、サポートメンバーを含む”社会”や“チーム”としてとらえ直して今回のアルバムを聴くと、その全体像がぼんやりと見えてくる。歌が前で楽器が後ろではなく、声を含む全ての楽器が並列に、水平に鳴っているのが『POLY LIFE MULTI SOUL』というアルバムだ。そういった音像はもちろん、個々のスキルが高いからこそ実現可能なサウンドであり、下手をすればそれぞれの位相がぶつかってしまうという危険性を孕んでもいる。しかし、ceroはその状況を面白がるかのように、リズム楽器においても前作『Obscure Ride』に見られたブラックミュージック~現代ジャズの血肉化をより発展させ、パーカッションが加わったことでさらに複層的な、ポリリズムやクロスリズムといった構造とのシナジーを生み出した。


 そんな楽曲たちが、アルバムの発売から3日後に行われたこの日のライブで演奏された。1曲目はアルバム冒頭を飾る、「Modern Steps」。楽曲のタイトルは現在の編成がスタートした2016年末のツアー『MODERN STEPS TOUR』にも使われていたもので、『Obscure Ride』から『POLY LIFE MULTI SOUL』を繋ぐ楽曲ともいえる。


 2曲目は「魚の骨 鳥の羽根」。アルバムのリード曲として公開されるやいなや、音楽ファンの間でも話題を呼んだこの曲は、複雑なリズムセクションと古川、角銅、小田によるコーラスワークはもちろん秀逸ながら、メロディはキャッチーなものとして成立させ、髙城のラップと歌の中間のような歌唱がよりスキルフルになっていることも感じさせる。その絶妙なバランス感覚がわかりやすく伝わってくる一曲であることは、この日のライブに訪れた観客が各々のリズムで踊っていることが、何よりの証左となっていた。


 続いては『Obscure Ride』から「Summer Soul」。『SMAP×SMAP』出演の際にも歌われるなど、バンドの名を大きく広めることになった1曲だが、現編成では原曲よりも重心が下がったアレンジに。4曲目の「レテの子」は、光永のタムと角銅のパーカッションによるジャングルビートのリズムの上で、髙城のボーカルが自由自在に動き回って生み出されるグルーヴが心地よい。


 6曲目の「Buzzle Bee Ride」は厚海がシンセベースを使い、荒内と小田による鍵盤も意図的にチープな音色をチョイスしたような楽曲だが、生音の打楽器に加え、ボーカルとコーラスの関係性がゴスペル的な重なり方をすることで、無機質なのに温かみがある、という奇妙なバランスを生み出していた。続く「Double Exposure」は“ソウル歌謡”的な作りではあるが、後半になるにつれ、古川のトランペットや角胴のシェイカーをはじめ、リズムセクションが複雑に変化するなどの2面性を持った、アルバムにおいても異彩を放つ一曲だ。


 ライブの最後は、髙城が「今日はタダなんでもうすぐ終わります(笑)。もっと見たい人はツアーに来てください! フジロックにも出ますので!」と言い放ち、アルバムのラストを飾る「POLY LIFE MULTI SOUL」へ。光永によるアフロ・キューバン的なリズムパターンのうえで、R&B~ジャズ~ハウスがクロスオーバーしながら、徐々に温度を上げていく展開。だが、あくまでリズムの起点はシンプルに作られていて、アルバムの中では最もフロア向けともいえる一曲。ライブでも後半に差し掛かるにつれ、一心不乱に踊る観客の姿が目についた。


 この日のライブを見て感じたのは、『POLY LIFE MULTI SOUL』というアルバムの懐の広さだった。編成やプレイヤーの特性を考慮して、アカデミックに作られた楽曲群にも関わらず、無理なく踊れるダンスミュージックのアルバムとしてもしっかり機能している同作。このあとも野外やライブハウスなど、あらゆる場所における演奏で、ときには本人たちのいないダンスフロアで、人々を踊らせ続けるだろう。(中村拓海)