RC F GT3を熟知するSYNTIUM LMcorsa RC F GT3の吉本大樹 強風が吹きすさんだスーパーGT第3戦鈴鹿の予選日。GT300クラスは、終わってみればK-tunes RC F GT3がレクサスRC F GT3にとって、チームにとって、そして鈴鹿でのGT3カーにとって初めてのポールポジションをもたらした。RC F躍進の理由と、2番手につけたHOPPY 86 MCから見える、鈴鹿ならではの話をお届けしよう。
■実は鈴鹿は得意コース。レクサスRC F GT3躍進の理由
今回の予選でポールポジションを獲得したのは、前述のとおりK-tunes RC F GT3。また、公式練習ではSYNTIUM LMcorsa RC F GT3が2番手に続き、レクサスRC F GT3がトップ2を占めていた。
「公式テストの時からタイム的には良かった」と中山雄一、新田守男のふたりが語るとおり、実際にレクサスRC F GT3勢は4月の第1戦岡山の直後に行われた鈴鹿での公式テストから好タイムを記録していた。ただ、昨年は富士やタイでJMS P.MU LMcorsa RC F GT3が優勝を飾っていたとおり、鈴鹿のような特性のコースはあまり得意としないのでは……!? と筆者は少々先入観をもっていた。
「鈴鹿は得意なんですよ」と教えてくれたのは、このレクサスRC F GT3に長年携わってきたSYNTIUM LMcorsa RC F GT3の吉本大樹だ。
「鈴鹿、タイ、それにSUGOがいいんです。中高速コーナーが続くようなコーナーが得意なクルマなんです。重量があるので、立ち上がりが苦手なんですよね」
実際、レクサスRC F GT3は過去のGT500の知見を取り入れて作られたマシンと言われており、大きなダウンフォースを生む。そのボディサイズから直線を得意としているように思えてしまうが、いったんスピードに乗れば、ダウンフォースを活かしてコーナーをクリアすることができる。
またこれはポールポジション記者会見で新田も中山も口を揃えていたのだが、今日の強風がレクサスRC F GT3にうまく作用した可能性も高い。この日の鈴鹿は、ストレートが追い風。逆にS字やヘアピン~スプーンといった区間が逆風となった。つまり加速を伸ばし、ダウンフォースはより効く……というコンディションだ。
これはGT500でも同様で驚異のタイムに繋がったし、他のGT300チームにも共通する条件だが、レクサスRC F GT3にとってはまさに追い風だったのかもしれない。
■130万円の自己負担で詰めたコンマ5秒
2番手につけたのは、GT300マザーシャシーのHOPPY 86 MCだ。金曜日から土屋武士監督、それにドライバーたちも「狙っている」と語っていた。
HOPPY 86 MCは今回、坪井翔をQ1のアタッカーに、松井孝允をQ2のアタッカーに据えた。第1戦岡山と同じだが、実は今回の鈴鹿では、ある狙っていたことがあったという。
「改めて、鈴鹿はドライバーで決まるんだな、と思いましたね」と土屋監督。
「(中山)雄一のタイムもマシンのポテンシャルを引き出したものだし、ドライバーでその差が如実に出る。坪井も乗りに乗ってて速い。坪井はF3に3年間乗っているけど、鈴鹿のフォーミュラの速度域を知っているドライバーなんですよね。一方、孝允は昨年(山下)健太と組んでいたときは、コンマ7~8秒健太と差があったんですよ。でも今年は、坪井とコンマ2~3秒に縮まっている」
「SUGOとかは孝允は速いし、ニュルブルクリンクも走っている。でも、軽いフォーミュラのコーナリングスピードを知っていないと、鈴鹿は速く走れないんですよ。特に今のマザーシャシーは如実に出る。だからF3かスーパーフォーミュラをやっていないと敵わない。それはロジックだから」
実はこの点は、昨年山下と組んでいた段階で松井が認識していたものだ。そこで松井は、自腹で130万円ほどを負担し、12月に鈴鹿で行われた全日本F3選手権の合同テストに参加。F3-N車両ながら、コーナリングスピードを補うトレーニングを積んだ。土屋監督が言う「坪井とコンマ2~3秒に縮まっている」は、その成果だというのだ。
「今年、鈴鹿のQ2というのは孝允にとってひとつのポイントだった。そのためにトレーニングした成果は、ここでしか出せないから。坪井をQ2に行かせた方が良かったけど、その成果がまわりにも本人にも見えないから。だからドキドキしたね(笑)」
愛弟子・松井孝允を育てる土屋監督にとって、今回のQ2は松井のトレーニングの成果を見るためのものだったのだ。「これで孝允もワンステップ踏めたかな」と土屋監督は語っている。
■鈴鹿はすべての力を問う
そんなHOPPY 86 MCだが、本来ならポールポジションから優位にレースを進めるが理想のはず。ただ、結果的に前にK-tunes RC F GT3が入ってしまった。ただ土屋監督は「レースでは前が速く走ってくれれば問題ない。ウチは決勝は強いから。それに無交換は視野には入っているしね」と語っている。
また今回、マザーシャシー勢は性能調整が変更され重くなったが、「ウチは去年までもウエイトを積んで鈴鹿は走っていたから。重りを積んで走るノウハウは知ってる。重くされても速く走れるチームが前に来る」という。
「それが鈴鹿だから。ドライバーもそうだし、チームも力が無いと鈴鹿では速く走れない」
実際、この日の予選結果を見ると、これまでもGT300の上位を争ったチームばかりがQ2に進出している。多くのF1ドライバーもそう語るとおり、鈴鹿サーキットというコースはやはり、ドライバーの技量、そしてクルマ、チームの力を問うコースなのだろう。