アゼルバイジャンGPに続いて、スペインGPでも2019年の提携に向けた会談を行なったホンダとレッドブル。レッドブルのレーシングアドバイザーのヘルムート・マルコ博士と交渉したホンダの山本雅史モータースポーツ部長は「5月15日という期限を設けずに、今後も話し合いを継続することで合意しました」という。
つまり、5月15日の時点でホンダが2019年にパワーユニットを提供するコンストラクター名が書かれた申請書にはトロロッソの名前だけが書かれてあった可能性が高い。そして、レッドブルの名前はルノー側の申請書に書かれて提出されたものと考えられる。
レッドブルは今後のホンダとルノーのアップデートを見て、総合的に判断することになる。そして、ホンダのほうがメリットがある場合は、レッドブルがFIAに事情を説明し、マニュファクチャラー4社の同意を得て、2019年から搭載するPUをルノーからホンダに変更する流れとなる。
ただし、ここでひとつの疑問が発生する。それはチーム名とコンストラクター名だ。
現在のレッドブルの正式なチーム名は『アストンマーチン・レッドブル・レーシング』だ。今年から自動車メーカーのアストンマーチンがタイトルスポンサーに付いたからだ。自動車メーカーがタイトルスポンサーについているチームへホンダがPUを供給することは可能なのか?
山本部長も、その件については社内で議論し、大きな問題にはなっていないという。
「アストンマーチンのヴァンテージ(新車価格が約1980万円)はNSX(新車価格が約2370万円)と車格が同じなので、その辺はホンダでも議論はしました。向こうはどう思っているかはわかりませんが、われわれは競合メーカーだと思っています。ただ、アストンマーチン・レッドブルという名前は変わらないと思います。私もそれについてはこだわっていない」
次にコンストラクター名だ。コンストラクター名とは、チームがFIAに申請する際の車体とPU名だ。今年のレッドブルは『レッドブル・タグ・ホイヤー』とし、ルノーの名前を使用せずに時計メーカーのタグ・ホイヤーの名前で登録している。ホンダがPUを供給する場合、これは可能なのか。山本部長はこう説明する。
「タグ・ホイヤーのバッヂがホンダのパワーユニットに付くことはありません。チームにどのような時計メーカーがスポンサーに付いてもいいですが、ホンダの名前を出さないことはない。最終的にどうなるかはわかりませんが、アストンマーチンやタグホイヤーの件については、私とマルコさんの中では非常にクリアになっています」
つまり、現時点でホンダとレッドブルの交渉は、あくまでパフォーマンス面での見極めに集中しているようだ。
「勝つためにどうすべきか。レッドブルが、ルノーとわれわれを天秤にかけているのは至極当然のことで、われわれもレッドブルと組むからには責任がある。勝つための準備が万全かどうかを判断しなければならない」と山本部長は続けて以下のように語った。
「私たちはマクラーレンとはいい勉強しました。もともとマクラーレンは優れたチームで、ワールドチャンピオンも当時は2人いたわけですから、そこと組んだことは間違いではなかった。でも、ホンダの準備ができていなかった。お互いのレースに対する準備の違いが、すれ違いを生んでいってしまった」
「その過ちを繰り返してはならない。われわれは今でも、まだ4番目。われわれも勝ちたいけれど、今年も勝っているレッドブルと仕事するということは、本当に覚悟がいる決断となります。その点は、マルコさんとも理解を深めながら協議を進めています」
レースは相手がいるため、勝てるかどうかは自分たちだけでは判断できない。いまホンダが考えなければならないのは、『勝てるのか?』ではなく、『勝つためにどうすべきか?』。そのために、レッドブルと組むことは最善の選択であり、たとえそれで2019年に勝てなかったとしても、それを責める者はいないだろう。