是枝裕和監督の新作映画『万引き家族』が『第71回カンヌ国際映画祭』で好評だ。コンペティション部門に正式出品されている同作は、イギリスの映画誌スクリーン・インターナショナル』による『カンヌ』上映作品のレビューにおいて、5月18日時点では第2位に食い込んでいる。現地時間の5月13日に実施された公式上映では、約9分間におよぶスタンディングオベーションが起こったというが、観客からの評価も上々のようだ。
ちなみに受賞予想で『万引き家族』と競っているのは韓国のイ・チャンドン監督による『BURNING(原題)』。村上春樹の小説『納屋を焼く』を原案にした作品で、こちらも注目の作品だ。そのほか、ジャン=リュック・ゴダール監督の『The Image Book(原題)』、スパイク・リー監督の『BlackKlansman(原題)』、濱口竜介監督の『寝ても覚めても』など21作品がパルムドールを争っている。
■是枝裕和監督とカンヌ
「自分が関わっている『映画』という仕事を、もう一度背筋を伸ばして見つめなおす場所です」。先日行なわれた日本メディア向けの取材で、『カンヌ国際映画祭』が自身にどんな意味を持つのか、と問われた是枝監督はそのように答えた。これまでの出品回数は、コンペティション部門に4回、ある視点部門に2回。通算7回目の出品作となる『万引き家族』で、悲願のパルムドール獲得を目指す。この記事では『カンヌ国際映画祭』コンペティション部門に出品された是枝監督作品を振り返っていこう。
■カルト教団の「その後」描いた『DISTANCE』
1995年の劇場デビュー作『幻の光』ですでに国外から注目を集めていた是枝監督。全米200館でも公開された1998年の『ワンダフルライフ』を経て、2001年に公開されたのが『カンヌ』初出品となった『DISTANCE』だった。カルト教団・真理の箱舟が起こした無差別殺人事件と、実行犯たちの遺族、元信者らが過去と向き合う様を描いた作品だ。出演はARATA、伊勢谷友介、寺島進、夏川結衣、浅野忠信ら。『第54回カンヌ国際映画祭』コンペティション部門に出品された。
■柳楽優弥が主演男優賞受賞。その名を国内外に知らしめた『誰も知らない』
『DISTANCE』に続く長編映画となった『誰も知らない』は2004年公開。1988年に起こった巣鴨子供置き去り事件をモチーフにした作品で、母が失踪した家で暮らす4人の異父兄妹の姿を描いた。『第57回カンヌ国際映画祭』コンペティション部門において、主演の柳楽優弥が最優秀男優賞を獲得。柳楽優弥の主演男優賞受賞は、当時史上最年少、日本人としては初めて。一躍その名を国内外に知らしめた是枝監督の代表作だ。
■9年ぶりにコンペティション部門出品。審査員賞を受賞。福山雅治の主演作『そして父になる』
『カンヌ国際映画祭』ある視点部門に出品された2009年の『空気人形』、くるりが劇中音楽と主題歌を手掛けた2011年の『奇跡』などを経て、2013年に公開された『そして父になる』。6年間育てた息子が病院で取り違えた他人の子であったことを知った夫婦と、相手の家族との交流を描いた。福山雅治が苦悩する父親役で主演。2004年の『誰も知らない』以来、9年ぶりにコンペティション部門へ正式出品され、審査員賞に輝いた。
■2作連続『カンヌ』コンペ部門に正式出品。吉田秋生原作の『海街diary』
2015年に公開された『海街diary』は吉田秋生の同名漫画が原作。鎌倉で暮らす3姉妹と、異母妹の生活を描いた作品で、3姉妹役を綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、異母妹すず役を広瀬すずが演じた。前作『そして父になる』に続いて、コンペティション部門に正式出品された。
■ある視点部門出品作『海よりもまだ深く』とヴェネチア出品作『三度目の殺人』
『海街diary』以後、ハイペースで監督作を発表する是枝監督。翌2016年公開の『海よりもまだ深く』は『カンヌ国際映画祭』ある視点部門に出品され、福山雅治が再び主演を務めた2017年公開の『三度目の殺人』は『第74回ヴェネチア国際映画祭』コンペティション部門に正式出品。
■そして『万引き家族』へ
6月8日から日本公開される『万引き家族』は、東京の下町を舞台に「万引き」で生計を立てる一家を描く物語。ある日、団地の廊下で震えていたじゅりを治が家に連れて帰り、娘として育てることを決意するが、ある事件をきっかけに家族が引き裂かれ、それぞれが抱えていた秘密や願いが明らかになっていく、というあらすじだ。劇伴音楽は細野晴臣が担当した。キャストにはリリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、池松壮亮、樹木希林らが名を連ねている。
是枝裕和監督は5月14日に現地で公式会見を実施。今回の『カンヌ』参加にあたって気持ちの変化はあったか、また最近の『カンヌ』についてどう思うか問われ、以下のように回答した。
<7度目だからといって、緊張や喜びはないのではないかと言われるが、映画祭に参加するというのは、例えば1本の映画を役者さんたちとつくっていく作業とすごい似ていて、毎回新しいキャストやスタッフと来るし、映画祭も毎回違う変化をしている中で自分も身を置く。幸運にもその流れの中で、7回も来させていただいてとても幸せなことだ感じている。映画祭がどう変化しているかを語れるほど深くウォッチしていたわけでないのでそのことについて語るのは難しいが、僕の中で30~50代で参加させてもらい、作り手として人間として成長でき、キャリアにおいてもすごく大きな存在となっている。ここでまた上映して恥ずかしくない作品をつくりたいと素直に、そういう場所だと思える。映画に対して畏怖の気持ちが持てるという場所が持てるというのは監督にとって幸せなこと。>
「世界3大映画祭」の1つに数えられる『カンヌ国際映画祭』。監督は『万引き家族』の上映を振り返って、「これまでのどの経験も感慨深いが、昨日はこれまでで一番温かさを感じる拍手が続いて、今まで映画をつくってきた20年間が報われた気持ちになった」と語る。「今回こそパルムドールを」と期待は募るが、言うまでもなく、創作の苦心を慰めるのは賞だけではない。授賞式は日本時間5月20日2:15頃から開催。