2018年05月19日 10:32 弁護士ドットコム
京都大学の吉田キャンパスから、名物「立て看板」が撤去された騒動をめぐっては、大学から110番通報を受けた警察が5月14日深夜、構内に立ち入る事態に発展した。だが、一部ネット上では、「大学の自治」の侵害ではないか、といった声もあがっている。どう考えればいいのだろうか。(弁護士ドットコムニュース・山下真史)
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京大は5月13日、吉田キャンパス周辺にあった立て看板を一斉撤去した。キャンパス擁壁に立てかけられた看板は、サークル勧誘やイベント告知のほか、何らかの主張が書かれたものがあり、京大名物として知られていた。
京都市から「市条例違反」の行政指導を受けて、京大は昨年12月、「立看板規程」を制定し、今年5月1日から施行した。公認団体が、指定された場所でのみ、立て看板を設置できるという規程だ。こうした大学側の方針に対して、一部の学生や職員から反発が出ていた。
撤去された立て看板は、大学構内の敷地で保管されていたが、身元不明の3人が14日深夜、この敷地内に立ち入って回収しようとしたところ、職員ともみあいになった。そのため、大学は110番通報して、京都府警が構内に立ち入ることになった。
京大広報によると、立て看板の保管場所はフェンスで囲まれていたが、その一部が破損していた。その後、別のグループが、撤去された立て看板を運び出して、ふたたびキャンパス周辺に並べたという。大学側は16日、何者かにフェンスが壊されたとして、京都府警川端署に被害届を提出した。
大学側は5月18日、立て看板の一斉撤去をふたたびおこなった。その理由は、構内への立ち入りを禁止された学外者が中心となり、保管場所から無断で持ち出して設置しているもので、歩道の通行者に危害を及ぼしかねない状況があったからとしている。いよいよ、いたちごっこの様相を呈している。
今回、警察を大学構内に入ったことについては、「大学の自治への介入だ」「(京大が)大学の自治をあっさり捨てた」といった批判もインターネット上であがっている。ほかにも、「市条例を立て看板に適用するのは妥当なのか」といった意見もある。はたして、「大学の自治」の侵害にあたるのだろうか。林朋寛弁護士に聞いた。
――そもそも「大学の自治」とは何でしょうか?
「『大学の自治』は、『学問の自由』(憲法23条)の内容の一つです。
『東大ポポロ事件』の最高裁判決では、『大学における学問の自由を保障するために、伝統的に大学の自治が認められている』とされました(最高裁昭和38年5月22日判決)。
大学の研究に国家が干渉してきた歴史から、『大学の自治』の具体的内容は、大学内の人事や施設・学生の管理などについて、国家権力からの干渉を排除するということです」
――警察を大学構内に入れるのは「大学の自治」の侵害にあたるのでしょうか?
「今回のように大学当局が110番通報して、警察官が大学内に立ち入るのは、大学側の了解を得ているのですから、『大学の自治』の侵害ということにはならないでしょう。
大学による『立て看板』の規制については、学生が『大学の自治』の主体となることは判例としては否定的ですから、『大学の自治』の問題というより、学生の学問研究発表の自由の側面としての『学問の自由』や『表現の自由』(憲法21条1項)の制約の問題になってきます」
――京大のキャンパスの擁壁に立てかけた看板が、市条例に違反するかどうかについて、立て看板が「屋外広告物」にあたるのかどうかという問題も指摘されています。
「『京都市屋外広告物等に関する条例』では、『屋外広告物』の定義は、屋外広告物法に規定する屋外広告物とされています。
そして、同法では、次のように規定されています。
『常時又は一定の期間継続して屋外で公衆に表示されるものであつて、看板、立看板、はり紙及びはり札並びに広告塔、広告板、建物その他の工作物等に掲出され、又は表示されたもの並びにこれらに類するもの』
広告物といっても、営利目的のものに限りませんから、京大の立て看板が『屋外広告物』にあたらないとするのは難しいようにも思います」
――ということは、市条例違反にあたるのでしょうか?
「ただ、キャンパスの立て看板が『屋外広告物』にあたるとしても、立て看板の表示者を特定できているのかなど、報道からは詳細がよくわかりません。
条例の適用に難しいところがあるからこそ、大学側で規程を設けることになったのかもしれません。また、キャンパス内ではなく、『周辺』に設置した立て看板に大学の規程が及ぶのかという疑問も生じます。
そうはいっても、学生側の分は悪いでしょう。犯罪となるような方法はとらずに、知恵を絞って対抗してもらいたいものです」
――今回の立て看板をめぐる騒動をどう捉えていますか?
「そもそも『屋外広告物』を規制する趣旨は、景観の維持・向上と公衆への危害の防止です。京大は、寺社仏閣とは違った京大らしい景観をこれまで培ってきたように思います。
倒壊の危険に配慮するのは当然としても、京大らしい景観の要素の一つである立て看板を規制することで、かえって京都の名物の一つである京大のキャンパスの景観を失わせることになるでしょう。
また、今回の規制の騒動で、『建武の新政』のころの『二条河原の落書』を基にした立て看板も現れたようです。政治・社会を風刺する立て看板は、まさに歴史ある京都らしい景観だと個人的には思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
林 朋寛(はやし・ともひろ)弁護士
北海道江別市出身。札幌南高、大阪大学卒。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。平成17年10月弁護士登録(東京弁護士会)。沖縄弁護士会を経て、平成28年から札幌弁護士会所属。経営革新等支援機関。税務調査士Ⓡ。登録政治資金監査人。
事務所名:北海道コンテンツ法律事務所
事務所URL:http://www.sapporobengoshi.com/