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セクハラへの刑事罰は必要? 多くの弁護士が否定的「構成要件が不明確」「民事で厳しく判断を」

2018年05月17日 10:22  弁護士ドットコム

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前財務事務次官に対するセクハラ問題などをきっかけに、セクハラの防止策が大きな社会的課題としてクローズアップされるようになりました。


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この問題を受けて、野田聖子女性活躍担当相は5月7日のBS11の番組で、「罰則や罰金が必要であれば、検討していけばいい」と罰則付きの法整備に意欲を示しています。


一方で、加藤勝信厚生労働相は5月9日の衆院厚労委員会で、「男女雇用機会均等法は事業主の責任を明らかにするという性格上、(セクハラの)行為者に対し刑事罰というのはなじまない」と否定的な見方を示しています。


加藤大臣は「刑事罰を科すということにということになれば、構成要件を明確にするというかかなり詰めた議論を重ねていく必要がある。労働法制でどこまでできるかという問題もある」と話しています。


そこで、今回、弁護士ドットコムに登録している弁護士に、セクハラに対する刑事罰の必要性について聞きました。


●「刑事罰不要」が多数派

以下の3つの選択肢から回答を求めたところ、36人の弁護士から回答が寄せられました。


(1)刑事罰は必要→1票


(2)刑事罰は不要→32票


(3)どちらともいえない→3票


「刑事罰は不要」との回答が多数を占める結果となりました。


「不要」とした弁護士の自由意見では、「構成要件を組みようがない」という意見、つまり何をもって法律上で「セクハラ」と定義するかの難しさを指摘する意見が多くでました。また、セクハラの定義を狭めすぎた場合、「セクハラの定義から外れる行為が大量出ると、セクハラ防止の目的を達成できないのでは」という指摘もあります。


「どちらともいえない」とした弁護士の自由意見では、「セクハラ」への共通認識がない点を指摘した上で、「教育が十分なされたあと、必要があるものに刑罰を与える」といった意見がありました。



●刑事罰は不要

【川村 明伸弁護士】


構成要件を組みようがないですし、条文に表現のしようもないと思います。


価値判断としても、自由が著しく阻害されるため、不要と考えます。


既にある犯罪に該当する程のことをすれば処罰をすればよく、犯罪に当たる範囲を広げるのには反対です。ハラスメントの全てを犯罪化するのは行き過ぎです。


古来より「法は道徳の最低限」というのには、自由を保護する観点から意味のあることと思います


【前園 進也弁護士】


「刑事処罰は必要最低限であるべき」という謙抑的な考えから、セクハラ罪の創設は慎重に考えるべきです。そして、悪質なセクハラは、強制わいせつ罪などで刑事処罰を与えることはできますので、それで十分だと思います。犯罪にあたらない程度のセクハラについては、民事で解決すべきです。


もっとも、セクハラの立証が難しいという問題があるので、その点について被害者が泣き寝入りしないで済むような法的な手当を考えることは必要だと思います。


【大和 幸四郎弁護士】


難しい問題ですが、不要と思います。わが憲法が罪刑法定主義(憲法31条)を定めている以上、犯罪構成要件は自由保障の見地から明確でなければなりません。セクハラは多種多様なものがあり、明確性を確保するのは、現実的には困難と思います。また、刑事法の謙抑性にも反します。もっとも、セクハラ自体は良くないことですので、民事の損害賠償で厳しく判断して欲しいものです。


【草木 良文弁護士】


「セクハラ」という言葉の範囲が広く使われすぎているので、どの範囲の「セクハラ」に刑事罰を与えるかというのを決めるのが難しく、条文化するのが困難だと思います。


そもそも、セクハラに刑事罰を与えるべきと言っている方のイメージする「セクハラ」とは、セクハラの中でも特に悪質なものを指していると思われます。


しかし、そのようなものはすでに刑法や条例などで対応することができるはずです。


そこに満たないような行為まで刑事罰の対象にするというのであれば、前科が付くリスクを考えると、行き過ぎた規制です。


仮に刑事罰を与える必要があるセクハラがあるとするなら、「セクハラ」という言葉ではなく、違う言葉を作るべきでしょう。


【濵門 俊也弁護士】


セクハラに関し、男女雇用機会均等法においては「職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したり抵抗したりすることによって解雇、降格、減給などの不利益を受けることや、性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じること」と定義しています。


もしこれを犯罪行為として構成要件を定めようとするならば、かなり困難を極めるのではないでしょうか。


セクハラの共通認識も得られていない状況ですから、セクハラ罪の創設は事実上不可能に等しいと思います。


まずは、セクハラが人権問題であるということの啓蒙について不断の努力を怠らず、犯罪行為に該当するセクハラについては、従前どおり、性的自由に対する罪や名誉に対する罪によって処罰していくほかないでしょう。


【森長 大貴弁護士】


すでに厚労相がコメントしていますが、構成要件の明確化が大前提ですね。男女雇用機会均等法で定めているセクハラの定義が、犯罪の構成要件としては広範かつ不明確なのは明らかです。


社会的な価値観として、セクハラを刑事罰をもって威嚇し防止すべきというのであれば、セクハラの定義を限定しなければなりません。ただ、そうなると現状はセクハラにあたるのに、セクハラの定義から外れる行為が大量に出るのは必然です。それでは逆にセクハラ防止の目的を達成できないのではないかと思います。


刑事罰を設けるかどうかよりも、迷惑行為であることを深く浸透させること自体が大切と思います。行為の社会的な評価が変われば、周りの目も変わり裁判所の認定も厳しくなることでしょうし、最終的にセクハラの防止につながると思います。


●どちらともいえない

【杉浦 智彦弁護士】


現時点で一番悩ましいのは、「何がセクハラに該当するのか」というところで、共通認識ができていないところだろうと思います。


まずは、(セクハラに限らず)人を傷つける発言をしないようにする教育こそが大切だろうと思います。


その教育が十分なされた後、誰にとってもセクハラといえるものに限定し、刑事罰を与える必要があるものに刑罰を与えるのが良いのではないでしょうか。


【居林 次雄弁護士】


セクハラというあいまいな概念で人を罰するのは、如何と思われますが、構成要件をしっかりと決めて、どのような場合に罰するのかが、一般人にも理解できるような立法となるのであれば、賛成します。


女性の社会進出の一助になればと思い、賛成するものでありますが、悪用されないように、犯罪構成要件を厳しく定めることを条件とします。


日本は、この点ではまだ後進国的な位置にあるように思われますから、女性の社会進出を促進する一助になればと思います。