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MOROHAがメジャーデビューしてどうなるか見たい “ドキュメント”としての音楽の迫力を考える

2018年05月17日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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 MOROHAがメジャーデビューする。


 2018年6月6日に<ユニバーサル・シグマ>から発売になる『MOROHA BEST ~十年再録~』。2010年から2014年の間に<ROSE RECORDS>からリリースした2枚のアルバムと1枚のシングル、2016年に自主レーベル<YAVAY YAYVA RECORDS>からリリースした3rdアルバムから全12曲を選び、再レコーディングした作品だ。4月からテレビ東京系で始まった深夜ドラマ『宮本から君へ』のエンディングテーマになっている「革命」は、1曲目に収録されている。


  そのリリースに先駆けて、2018年5月10日に渋谷7th FLOORで、コンベンションライブが行われた。メディアとかディーラーとか代理店とかを招待して行う、関係者へのお披露目のショーケースライブ。


 僕がMOROHAを初めて観たのは、2010年の8月、中目黒駅そばの小さなクラブだった。曽我部恵一と飲む時間を調整していて、「その日ライブ行くんですけど、どうせなら一緒に行ってから、そのあと飲みません?」ということになったのだった。


 曽我部のレーベルである<ROSE RECORDS>からMOROHAの1stアルバム『MOROHA』がリリースされる2カ月前だったが、その時は彼は「うちから出すんです」みたいなことは一切言わなかったので、何も知らないまま観た。


 『MOROHA BEST』の収録曲で、コンベンションで披露していた「二文銭」や「奮い立つCDショップにて」や「恩学」を、その8年前のライブですでにやっていた。


 というようなことを頭によぎらせながらコンベンションを観ていて、そのMOROHAの1stアルバムが出た頃に、当時の勤め先のウェブサイトで持たされていたブログに、書いたことを思い出した。


 で、それ、メジャーデビューするんなら、今もう一回書いておいた方がいいような気がしてきたのだった。当時読んだ人はごくごく限られているだろうし。


 何を書いたのか、というとですね。


 MOROHAが売れるとどうなるか、見てみたいと思いませんか?


 ということです。


 MOROHAの歌は基本的に、今のアフロ自身のドキュメントになっている。


 <これから仕事だってクラブを去る日々から/これから仕事だってクラブに向かうそんな日々に変わる 変えてみせる>と誓う「二文銭」。


 音楽誌で絶賛されている奴よりも、インディーながらセールスを上げている奴よりも俺の方がヤバイ(=すごい)、と、まるで自分に言い聞かせるようにくり返す「俺のがヤバイ」。


 “音楽より大切な人”である恋人や家族を“音楽で幸せにしたい”と目指す「恩学」。


 新宿のディスクユニオンで、自分のCDの中古盤が叩き売られているのを見つけた、という歌い出しで始まり、<勝てなきゃ皆やめてくじゃないか/勝てなきゃ皆消えてくじゃないか>というサビに到達する「勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ」。


 「恩学」で<音楽より大切な人 音楽で幸せにしたい>と望んだ、その彼女との別れを歌った「tomorrow」。


 要は、音楽活動においてうまくいかない、成功していない、それで食えていない自分、そのことによって(とは限らないが)周囲とうまくいかなくなったり、またうまくいったり、でもやっぱりうまくいかなかったりしている自分を描いている、ということだ。


 最初に聴いた時は、曲という曲、もうそれ一辺倒だった。その後、「バラ色の日々」のような、音楽活動よりもプライベートによったラブソングも書くようになり、そういう曲一辺倒ではなくなったが……と書きながら他の曲の歌詞を見ていたら、「三文銭」は、2015年のフジロックに絶対出るつもりでその日バイトを休んだが、出られなくて恥をかいたという話が冒頭に来る曲だったりするのだった。2015年って、もうそこそこMOROHAの名前が音楽シーンに出たあとですよね。わりと最近でもそうなんですね。


 つまり。“音楽でうまく世に出られない”ことを表現の中心にしているMOROHAが、ちゃんと世に出て、売れて、たとえば日本武道館を埋められるようになったら、いったいどうするんだろう、という話です。


 1万人のファンを前に「俺のがヤバイ」や「奮い立つCDショップにて」を歌ったら嘘っぽくならないか? で、そういうポジションになったら、どうやって新たに歌うことを見つけていくのか? モデルと結婚したけど即離婚”とか“毎週末グリーン車移動、もううんざり”とか歌うのか? それ、歌いたいか? で、聴きたいか?


 ということを確認するために、MOROHAが売れるところを見てみたい、そうなるまでを追ってみたい、ということを、僕はその1stアルバムの時に書いたのだった。<ROSE RECORDS>を離れたあとは、遠くから観たり聴いたりしている程度だった。そのあたりからMOROHAのメディアへの露出が増えたり、アフロがCMのナレーション仕事を始めたりして(テレビを観ていて「あ、アフロの声だ!」ということ、ほんとに増えた)、その分“シーンの地を這いながら絞り出す曲”みたいなことじゃなくなりつつあるイメージがあったのだが、このたびこうしてちゃんと『MOROHA BEST ~十年再録~』を聴き直すと、なんにも変わっていなかった。技術やセンスはアップしているが、根っこにあるものは同じだった。


 フェスやイベントで何度か体験して思い知ったのだが、MOROHAのステージって“なんとなく観る”ことが許されない。アフロはそうなのか、UKはこうなのか、ではなくて“おまえはどうなんだ”ということを突きつけてくるので。おまけに一緒に歌えないし踊れもしない。なので、フェスやクラブで楽しくやりたい人はその場から離れて行くし、そうじゃない人はその場にじっと固まってステージを観続けることになる。


 という、いわば“グレーでいることを拒否する”感じって、今の時代、不利かもしれないと思っていたが、逆にすごい武器かもしれない。ということを、コンベンションライブで感じた。お客全員、招待の業界人なのに、あんなに“様子見”な空気がない、全員が全員はりつめた表情でステージを凝視しているコンベンションライブ、少なくとも僕は初めて経験した。冷笑を許さない。傍観者であることを認めない。冷笑した瞬間に「あ、俺今逃げた、この表現から」と思ってしまう。だから真剣に気持ちを向け続けるしかない。そんな場に感じた、僕はあの時間を。


これからのMOROHAが本当に楽しみだ、と、素直に思う。


 既報だが、彼らは『MOROHA BEST~十年再録~』に先駆けて、ニューシングル『ストロンガー』を、3月21日に発売した。アフロのツイッターによると「極少数でも決意を形として誰かの手に残したくつくりました」「諸事情あってユニバーサルからは出しません。てめえらでプレスかけて、てめえらで梱包して、てめえらで発送します」だそうで、メルカリを使って数量限定で販売されたものだ。


 メジャーに挑む決意を表した曲である。で、『宮本から君へ』のオープニングテーマ「Easy Go」を歌っているレーベルの先輩、エレファントカシマシの「ガストロンジャー」を、モチーフというか、元ネタというか、自分たち流に書き直したというか、そういう曲になっている。で、そうであることが聴けばはっきりとわかるような書き方を、意識的にしている。


 そのことが<ユニバーサル・シグマ>から出さない理由だったのかどうかは知らない。が、エレファントカシマシのシンパのつもりであり、実際にエレカシ関係の仕事をよくしている(雑誌やファンクラブの会報でインタビューやレポをしょっちゅうやっているのです)僕のような奴が聴いて、率直に、最高だと思った。エレファントカシマシへのオマージュとしても、この歴史的名曲の解釈としても、今のこのタイミングでMOROHAが歌うべきこととしても。


 YouTubeにリリックビデオが上がっているので、未聴のエレカシファンは、いや、エレカシファン以外も、ぜひ聴いてみていただければと思います。(文=兵庫慎司)