カワサキ・チームグリーンの渡辺一馬が全日本ロードレース選手権第3戦オートポリスで、JSB1000クラスとして11年ぶりの優勝をカワサキにもたらした。2位にはチームメイトの松﨑克哉。カワサキのホームコースで、ワンツーフィニッシュという最高の結果だ。タイヤ選択が明暗を分けたこのレースで、カワサキの両雄が選んだのはスリックタイヤだった。
「スリックタイヤをチョイスしたものの、グリッドで弱気になっていた」と言う渡辺一馬。天候によりスケジュールが変更になったJSB1000クラスの決勝レースは予定よりも5周減算の15周、20分遅れの12時30分にスタートとなる。このときの路面状況は、判断が難しい状況だった。
雨はほぼ上がっているものの、路面はまだウエット。頭上に立ち込める雲はいまだ厚い。ポールポジションスタートの中須賀克行(ヤマハ・ファクトリー・レーシング・チーム)をはじめとする上位陣はレインタイヤを選択する。渡辺一馬が「弱気に」なるのも無理はなかっただろう。
そんな渡辺一馬に、チームスタッフが言葉をかけた。「チーフが『腹をくくっていこう!』と背中を押してくれました」。
チームメイトであり、2位表彰台を獲得した松﨑克哉もタイヤ選択には迷いがあったと言うが、松﨑もグリッド上で覚悟を決めた。「スリックタイヤで行くことを決勝前に迷っていたのですが、サイティングラップを走っての感触はよく、グリッドについて自分自身に『いける!』と心に言い聞かせて走りました」
オープニング、5番グリッドスタートだった渡辺一馬は16番手、9番グリッドスタートの松﨑は25番手にまで順位を落とす。しかしふたりは慎重にラップを重ね、路面が乾き出すとともにポジションを回復。
渡辺一馬はレインタイヤを選択したライダーたちをペース違いの速さで次々と交わすと、レース折り返しの8周目には5番手、11周目にはついに首位に躍り出た。松﨑もそれに続き、13周目に2番手に浮上している。
レース中の様子について、松﨑は「路面が乾いてきてからの勝負だと思って焦らずに少しづつペースを上げて、グリップを感じながら前の一馬さんだけを見てプッシュしました」と語る。
スリックタイヤを履き、最終的に3位表彰台を獲得した高橋裕紀(モリワキMOTULレーシング)も、カワサキのふたりに続いて後方から猛追した。ここまで4連勝の中須賀、鈴鹿ではその中須賀と激しく優勝を争った高橋巧(チームHRC)が抵抗できないほど、スリックタイヤ勢とレインタイヤ勢のペースには違いがあった。これほどの追い上げのレースは、JSB1000に関して言えば近年まれに見るものだったのではないだろうか。
カワサキのホームコースであるオートポリスで優勝トロフィーを受け取った渡辺一馬は「カワサキ・チームグリーン運営母体であるカワサキモータージャパンの社長から表彰台の一番高いところでトロフィーを受け取ることができたのがなによりの幸せです。どれだけありがとうと言っていいかわからないくらい感謝の気持ちでいっぱいです」と感無量の気持ちをあらわにする。カワサキのJSB1000優勝は実に11年ぶり。渡辺一馬は、カワサキにとって柳川明以来のウイナーとなった。
「今回は特殊なコンディションということもありましたが、そんな展開のなか、自分たちの有利な部分を見つけて勝てたこと、勝ったからこそ兜の緒を締めて次は真っ向勝負で勝てるようにがんばります!」
松﨑も「チームとファンに支えられての2位です」と自身初のJSB1000表彰台の獲得について語る。九州出身の松﨑にとって、オートポリスはチームだけではなく自身の地元コースでもあるのだ。よろこびもひとしおだっただろう。
「みなさまのおかげでここに立てたことが本当にうれしい。また、カワサキのホームコースで(自分の)地元ということもあり、仲間が沢山応援にきてくれ、走っていても旗を振って応援してくれているのが見えて、それが励みになりました。この2位をきっかけに、次からも表彰台争いができるように気持ち引き締めて頑張りたいと思います」
優勝を飾った渡辺一馬は現在、JSB1000のランキング2位。ヤマハファクトリーの中須賀とホンダファクトリーの高橋巧の間に割って入っている。この勝利と表彰台を皮切りに、カワサキ・チームグリーンがますますその存在感を増していくことになるだろうか。